あなた色に染められて ~ 冷徹公爵と恋の駆け引き

NADIA 川上

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特別な場所にて

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いつもしばしの憩いを求め訪れる、
町外れの丘陵地帯へやって来た。

そこは村人達にとっても格好の憩いの場だ。

お天気の良い休日などは、
ピクニックシートを広げた人々の憩う姿が
あちらこちらで見受けられる。

その丘のてっぺんが特等席で。
セシルはここから眺める村の絶景が大好きだ。

季節は夏終盤。
でもここサムイル村はエンドア王国の北部なので、
秋は駆け足で過ぎ去り、すぐに厳しい冬がやって来る。

雨の日と風の強い日は丘に来る事はできない。
バイトがある日も来られない。
冬は寒すぎて出かけること自体論外だ。

今日は全ての外部条件をクリアできて、
セシルはこの村で最後に過ごす事になるかもしれない
晩夏のピクニックを楽しむつもりであった。

でも、セシルの細やかな楽しみは覆される。
彼女が秘密の特等席にやって来たときには、
既に先客が眠っていたからだ。



***  ***  ***



愛馬を走らせて山の中腹までくると、
少し開けた高台に出た。

―― ここまで来れば、家臣達でも追っては
来られまい……。
馬から下りて、周囲を見回す。
ここは本当に眺めがいい。
自分の治める領地が山腹から海まで一望でき、
街並みも確認できる。
ほんの少し遠出をしただけで、
こんな場所があるだなんて新発見だ。

馬は近くの木に繋ぎ、
デュークはその道を更に昇っていった。
道はすぐに終わり、突然視界が大きく開けた。

そこは絶景とも言える高原で。
頂上に大木が2本、デーンと立っていた。

ひっそりひと休みするには良さそうな場所だ。

そこはほどよく日があたり暖かだった。
風も適度に吹き込む。

適当な場所にマントを敷布代わりにして、
デュークは目を閉じた。
城との閣議はほぼ完徹に近い状態だったので、
睡魔がすぐに襲ってくる。
風の音・木々のざわめき・小鳥のさえずりが、
子守唄にきこえた。




夕刻の穏やかな日差しの下で、浅い眠りを繰り返す。
こんな所で油を売っているとバレたら、
こっぴどく爺に叱られるだろう。

あぁ……でも、眠いんだ。

だが、そんな自分を起こす声がする。


”もし、旅のお方、大丈夫ですか?”

”どこかお体の具合でもお悪いのですか?”


うっすらと目を開けると、
さらさらとした柔らかそうな漆黒の髪がみえた。
次に自分を心配そうに覗きこむ黒い瞳。

その持ち主は、妹のベアトリスと同い年位の少女
であった。
自分は行き倒れの旅人か、
何かに間違われたようだ。
でも、こんな時間・町外れの高原に、
こんな幼い娘が1人でいるなんて、おかしな話だ。

疲れがたまっているのだろう……、
相も変わらず爺が持ち込む縁談に辟易してるせいも
あったからそれに影響されて、こんな夢を見てるに
違いない。

別に、子供は嫌いじゃない。
現に我が家の庭はいつも近所の子供達で溢れている。

あぁ……でも、この夢の少女は、何気に“懐かしさ”
を感じる。
唄うような涼やかな声、
柔らかい手の感触も悪くない。

夢の中で手を伸ばす。
少女の二の腕はすぐに捕まり、
そのまま自分の方に引っ張り寄せた。
小さな叫び声が聞こえたが、気にせず抱き枕のように
抱きつつむ。
モフモフとした柔らかい抱き心地、
暖かな温感、
猫か犬かを抱いているような気分になる。


”あ、あの……”


「眠いんだ。次の閣議まで、眠らせてくれ」


正直な今の欲求を口にした。


「ちゃんとそれまでには起きるから……あぁ、悪い、
やっぱり起こしてくれ」


起きれる自信がなかったから、これも要求した。


”……はい。分かりました。何時に起こせばいいの?”


「ん~、そうだなぁ……
 6時の20分前に起こしてくれ」

”6時? それでは陽が暮れてしまうわ”

「ならば、今から30分でいい、ゆっくり寝かせてくれ
 30分でいいから……」

”30分ね。もしそれで起きなかったら、置いて
 行っちゃうわよ”


ほんとにリアルな夢だ……でも、ありがたい。 


「すまない、頼んだ」


柔らかくて ――、温かくて ――、
仄かな甘い匂いがする。
デュークは無意識に少女の体をぎゅっと抱き締め、
今度こそ深い眠りに落ちていった。


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