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宣言 ②
しおりを挟む「その親切さの裏には雄の下心があったかも?」
「え ――っ、そう、なんですか?」
「ハハハ ―― ったくお前って奴は……とにかく
少しは警戒心を持て。この世に聖人君子は存在
しない。今回はたまたま分かり易い親父だったから
良かったものの、これがプロのコマシだったら、
拉致られて・散々輪姦(マワ)された挙句・
沈められたかも知れねぇんだぞ」
「!! 沈められる ――って、殺される事?」
「ちげーよ、このスカタン。男娼小屋に売り飛ばされて
いいようにコキ使われるって事だ」
手嶌さんは真剣な眼差しで俺をじっと見据え
諭すように言ってくれた。
こんな風に言ってくれた人はこの人が初めて……
実の兄だって ――
イヤ、あの事はもう忘れよう……。
「それより …… 誰かに何か言われたのか?」
「えっ、何かって……?」
「気持ち悪いだとか、病気だとか、ただ漠然と
怖がってる割には妙に具体的だ」
「……何か、可怪しいですか?」
「ロクに知らない俺に親切だとか喜ぶのは
無防備過ぎる。ロクに夜遊びした事もねぇガキが
くるにはディープ過ぎるんだよ、この街は」
俺は彼の鋭さに、思わず息を呑んだ。
「おまけにあの金持ち学校のお坊ちゃんがこんな
夜遅くまでふらふらしてて、何故、親から連絡の
ひとつもない? お前の親はよほどの放任か?」
「あ ―― それは……」
「どうなんだ」
「ははは……まぁ、ちょっと、ね」
「言いたくねぇならいいけどよ。俺は学校の先生でも
1年でいなくなる産休代替だからな」
「……あ、あの ―― 2丁目にはもう行かない。
行かなくて良くなった」
「ん、そうなのか」
「うん。でも ―― でも俺、またココに来たい」
「あぁっ?? なんだソレ」
「俺……今決めたから。1度は諦めたけど、
改めてあんたにアプローチ始める」
俺がそう言うと、手嶌さんは飲んでいたコーヒーを
派手に噴き出した。
「はぁっ?? おま ――
何、トチ狂ってんだよ?!」
「何って言われようが俺はあんたの事が大好きだ」
「阿呆か。大人をからかうのも大概にしろ。いいか、
とにかくこんな物騒な街には2度と来るな」
「じゃ、それ約束したら俺と付き合ってくれる?」
「だから大人をからかうのは ――」
「からかってなんかない。俺、本気だよ」
「ざぁけんな! お前人の話聞いてんのか??
さっさと帰れ」
と、荒々しく立ち上がり、そのまま戸口から外へ。
俺も慌てて後を追う。
***** ***** *****
連れて来られた時はまだ薄暗い程度だったけど、
あの元診療所だった場所で意外と長居したのか、
手嶌さんを追って外へ出たら、辺りはすっかり
闇に包まれていた。
「―― 待ってよ、手嶌先生っ!
ねぇ、竜二さんってば。待ってよー」
「うるせぇー、もう、着いてくんな。
家まで送ってやるほど俺はいい大人じゃねぇからな」
「家くらい1人で帰れるよ」
「あぁそうかい。じゃ、さっさと帰れ」
「センセの新しい携番とメルアド教えてくれたらね」
手嶌さんは”あぁっ??”と凄みながら
足を止めた。
チャンス!
俺はその腕を素早く掴んだ。
「あっ。コラ。離せ」
「携番とメルアドおせーてくれたらね」
「んなもん持ってねぇよ」
「嘘ばっか」
「ガキの恋愛ごっこに付き合ってられるほど
暇じゃねぇんだ」
「ごっこじゃないよ。俺、本気で会いたいって
言ってるでしょ。本気であなたの事、好きなんだ」
「……あのな、お前はちょっと親切にされて
舞い上がってるだけだ。素に戻ればきっと後悔する」
「しない」
「よっぽど惚れっぽいのか? お前は」
「ちがうっ」
「違う事ねぇだろ。ついこの間会ったばっかの仲だ」
「で、でも、助けてくれて、俺の事理解しようとして
くれて、本気で叱ってくれた。こんなの初めて
だもん」
「そんなのは大人なら誰でもすんだよ。いいか、
もう、つきまとうなよ」
「嫌だ……俺、初めて本気で好きな人が出来たんだ。
本気だから、信じて……絶対、迷惑かけないから」
「そんなこと言って、こんな風にされてんのがもう既に
大迷惑なんだよっ」
「手嶌さん……」
「……史香さんも心配してるだろ。さっさと帰れ」
彼はそう言って、自分の腕を握ってる俺の手を
静かに外し、流しのタクシーを拾って、
夜の街へ去って行った。
俺、今度は諦めないもんね。
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