溺愛! ダーリン

NADIA 川上

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 いつものように手嶌さんを屋敷まで
 送り届けて佐竹さんが帰ってしまった後 ――、

 リビングのソファでブランデーを飲みながら
 CNNの経済ニュースを観ている手嶌さんに
 思い切って言ってみた。
   
   
「あの ―― 俺何か、お礼がしたいんやけど……」
   
「―― お礼? 何の?」


 怪訝そうな顔つきで俺の方をちらりと見て
 手嶌さんが訊ねた。


「……手嶌さんに凄くよくしてもらって、
 何かお礼がしたい。
 何か俺でも出来ることない?」


 訊ねながらも自分に出来る事なんて
 大してない事はわかっていた。


「別に俺は見返りが欲しくて、お前をココへ置いた
 訳じゃない。ガキが余計な気を回すな」
 
 
 顔をテレビの画面に向けたまま素っ気なく
 手嶌さんは言った。


「でも ――」
   
   
 尚も食い下がろうとする俺に手嶌さんは
 畳み掛けるようこう言った。
   
   
「じゃ、お前に何が出来るんだ?」
   
「そ、それは……多分あんましないと思うけど ――、
 もし……もし、手嶌さんがよかったら、俺――その
 ……手嶌さんに抱かれたい」


 思いきって言ってしまって、
 俺は頬に血が昇るのがわかった。

 なんか物凄く恥ずかしい。
   
   
「………」


 手嶌さんが黙ったまま、テレビの画面ではなく
 こちらへ向き直って俺の顔をじっと見た。

 精悍に整った顔に、ちょっと説明の難しい
 奇妙な表情を浮べている。


「ひょっとして、俺を誘ってる……?」


 やがて確かめるように手嶌さんが言った。
      
 そうだ。確かに俺は手嶌さんを欲していた。

 こくんと俺が頷くと、手嶌さんは困ったように
 眉を寄せた。
 そしておもむろに口を開いた。


「俺に何人も女がいるのは知っているな?」

「うん、知ってる。それがどうかした?」

「たいていは俺についてくる金とかクライアントの
 キックバックとか、そんな物を見返りとして
 期待している。もちろんそれはそれでいい。
 互いに承知の上で付き合っているのだからな。
 だが、お前にはそれがない」


 手嶌さんは俺に言い聞かせるように言った。


「見返りがないと抱かれちゃダメなの? 
 抱く気にもなれない?」
 
「お前はまだ16だろ? もっとまともな身の振り方を
 考えろ」


 ―― それに、と手嶌さんは続けた。
   
   
「俺は人の弱みにつけ込んで、暴利を貪ってきた。
 恐らく ―― ロクな死に方は出来ん……」


 精悍な顔の男っぽい口元をゆがめて
 手嶌さんは笑ったようだった。


「……そんなのあなただけじゃないよ」


 思わず俺はそう言っていた。
 なんだか手嶌さんが辛そうに見えたからだった。


「うちの爺さんだって ―― それから、派閥の先生方
 だって、みんな多かれ少なかれ人様には
 言えないような汚い金儲けとか偽善行為をやってる。
 それって ”必要悪”なんじゃないかな」

「フフフ……必要悪、ね……」


 RRRRRRR ――――
 手嶌さんの携帯が着信した。
   
 この電話の対応が長引き 
 結局”お礼、うんぬん……”の話しは
 それまでとなった。  
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