溺愛! ダーリン

NADIA 川上

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恩人

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 校舎沿いの遊歩道を通って正門へ向かう道すがら、
 ツナは職員室での俺の言動に感動しきりで
 笑いが止まらない。


「ツナ……も、勘弁しろよぉ。笑い過ぎだ」

「だ、だってぇ……手嶌恰好良すぎ。
 マジ、惚れ直したかも」

「そりゃあどうも」

「ね、さっきの皆んなにも言っていーい?」

「勝手にしろ」

「……けど、手嶌にはまた、助けられちゃったなぁ。
 さすがは俺の恩人」

「ええっ?」

「やっぱ覚えてないか。ま、無理もないけど。
 あの時俺はまだ中1だったから」

「……」


 ***  ***


 注!! これは、綱吉の中1の時の回想シーンです。

 因みに今綱吉は、先輩だけどのナヨナヨした感じの
 男子をカツアゲ中 ――。


「オラっ、金出せって言ってんだろ。
 持ってるのは分かってんだよ」


 綱吉に胸ぐらを捕まれ脅されてる男子は
 顔面蒼白で言葉も出せない。


「俺、あんまり気は長くはないの。
 こうやって静かに話してるうち出しちゃった方が
 自分の身のためだぜ? それとも、少し痛い目に
 遭うか?」


 そう言って綱吉が取り出したバタフライナイフに、
 男子は余計怯え震えだす。

 そこへ、若き日の手嶌参上。
 因みにこの頃の手嶌は大学の法科大学院に通っていた。
 

「なにやってんだ!」

「ってぇ。何すんだよ、離せぇっ!」


 手嶌が綱吉を取り押さえた隙に脅され男子は
 逃げていった。


「ナイフは没収だ」

「それは俺んだぞ、返せよっ!」

「いいか、こんなもん人に向けるって事はな ――」


 と、ナイフの刃先を綱吉に突きつけた。


「うわっ、危ねぇじゃん」

「自分が刺されても文句言えねぇんだよ! 
 良く覚えとけ」


 そう言って立ち去ろうとする手嶌の不意をついて、
 綱吉は技を仕掛けるが、
 いともあっさり返り討ち。


「あ、イタタタ ――」

「ったく、親御さんが泣いてるぞ」

「!!……」


 ***  ***  ***


 ―― そして、現在。


「あぁ ―― あの時の事ね」

「えっ? って……覚えてた?」

「思い出した。カツアゲすんのに刃物使う中坊なんて
 そうそういねぇもん」

「……そっか」


 挨拶回りに行った日から手嶌とはかなり
 ギクシャクした感じになっていたが、
 今日はこうして以前と変わらず話す事が出来て、
 綱吉はその安心感から『良かった』と呟いた。


「……今日は少し遠回りして帰るか。
 ちょうど**堤の桜が見頃だ」

「うん」  


*****  *****  *****


 土手沿いの遊歩道にある数百本の桜は、
 今はまだ七分咲きといったところだったが、
 そよ風にハラハラと舞う早咲きの桜は、
 夕映えの薄紅色と相まって息を呑む程の
 美しさだった。

 ちょうど自分の脇を通り過ぎていった、
 5才位の子供の手を引く若い母親の後ろ姿に、
 在りし日の自分と父の姿をオーバーラップさせる
 綱吉 ――。


「ガキの頃、出勤前の父さんとこの道を散歩するのが
 一番の楽しみだった」

「正親さんはホント桜が好きだったからな」

「……ね、ちょっと前、小耳に挟んだんだけど、
 父さんに惚れてたってホント?」

「……黙秘権は行使できるか?」

「もうとっくの昔に時効の話しなんだから
 別に教えてくれてもいいじゃん」

「いっくらやさぐれの俺だって ”分相応”ってのは
 わきまえてた。昔も今も俺にとっての正親さんは
 憧れで高嶺の花さ」

「う~ん……なんかまた、上手くはぐらかされた
 ような気がしないでもないけど……」


 その時、吹き抜けた一陣の風が
 足元に溜まっている桜の花びらを
 ぶわぁ~っと吹き上げ、
 その景観に綱吉はうっとりとした視線を向けた。
 

「わぉ、すっげぇ……」

「……」


 キラキラして見えたり、触ってみたくなったり……
 所かまわず押し倒したくなったり ――っ、

 急に真顔になった手嶌が
 自分をじっと凝視しているので、
 綱吉はなんだか不安になる。


「……手嶌、さん?」


 (そろそろ俺も、白旗挙げるべきなのか?)

 綱吉の華奢な体はちょっと力をこめ
 引っ張っただけで、
 いとも容易く自分の腕の中へすっぽり収まった。

 その肩を抱いた手にゆっくり力をこめていくと、
 綱吉の体がほんの少し強張った。

 普段どんなに虚勢を張ってはいても、
 根は16才の純情な青年なのだ。
   
 だから、
 欲と血にまみれた自分の手では穢したくなかった。

 (やっべぇ ―― めっちゃキスしたい……)


 その時、たまたま女子高生のグループが
 土手を上がってきたので、2人はパッと離れた。

 が ――、

   
『ちょっと、今のアレ、見た?』

『見た見たっ。やっぱアレってリアルBLよね~』

『すんごくイイ雰囲気だったじゃん』

『やぁん、
 なんだか変な想像しちゃうじゃなーいっ!!』


 ヒソヒソ話す女子達の声は、
 綱吉と手嶌にもかろうじて届く。


 (―― やっぱ女子、怖っ……)


「……あ、あの、そろそろ、車へ戻ろうか」

「あ、うん、そうだな……」



*****  *****  *****



 女子高生達の思わぬ水入りで、
 綱吉と手嶌の興奮は中途半端に削がれた形
 となったが ――、
 自宅へ帰る途中の車内は2人きりなので、
 外見上は平静を装ってはみてもお互い必要以上に
 意識し合っているのは明白で……。


 (この沈黙、何とかなんないかな……)by 綱吉

 (くっそ ―― 何なんだよ……
  さっきから心臓バクバクいって止まんねぇし、
  口から飛び出ちまいそうだ……)by 手嶌

 (そっか! 
  こうゆう時はまず年下の俺から
  なんか話しを振らなきゃな……って、
  なに、話せばいいんだろ……)

 (綱吉の奴、さっきはぜってぇ勘違いしたよな。
  実際問題、あの邪魔が入らなきゃ、
  マジやばかったんだから)

 (お願いだから何か話してよ)

 (しかし……絶好のチャンスを逃したような
  気もしなくはない……)


 そうこうしているうち、
 手嶌運転の車は無事今泉家に到着した。

 2人はそれぞれ違った意味で深くため息をついた。


 (はぁ~っ、やっと着いたよ……)

 (うそ ―― もう、着いちゃった……)


 すっかりしょぼくれた綱吉がドアロックに
 手を伸ばしたのが合図だったよう、
 手嶌は綱吉の体をグイっと引き寄せた。

 そして、ごく自然と2人は間近で
 見つめ合うような感じになり、
 いつもはほぼ前髪で隠れてしまっている、
 綱吉の見開く大きな瞳をじ~っと見つめた。


 ―― その時。
 
 チリンチリン ―― 
 
 車外を自転車に乗った純弥が通って、
 駐車場脇の駐輪場へ自転車を止め。
 
 家の玄関へ入って行こうとして、
 車内の2人に気が付いた。
 
 
「なんだぁ、つっくんだったのかぁ。あ、手嶌先生
 こんばんは」
 
「あ、あぁ ―― こんばんは」


 純弥はその時になってやっと2人の微妙なムードに
 気が付いた。
 
 
「あ、あれぇ~ ――もしかして僕……
 (お邪魔だった)?」
 
 
 わざとらしく綱吉がその場を取り繕う。
 
 
「あ ―― 先生、久しぶりだし夕飯うちで食って
 行けよ」 

「あ、あぁ。んじゃ、そうさせて貰おうかな」
    
「じゃ、先に行ってっから」


 と、降り立ち足早に家の玄関へ入って行った。


「あ―― 待ってよ。つっくん」


 綱吉に続き純弥も家の中へ入って行った事で
 手嶌はシートへ沈みこむように体を預け、
 ゆっくり息を吐いた。


 ”ヤバかった……、もし純が来なかったら俺……”


 さっきまでの妙に落ち着かない気分が蘇ってきて
 急に気恥ずかしくなり、活を入れるよう
 頬を軽く叩いて運転席のドアを開けた。
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