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体育祭
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11月4日(金)。くもり。
今日は体育祭です。
暑くもなく寒くもない、絶好の体育祭日和。
今年は ”祠堂” 創立70周年の記念大会だから、
隣町にある姉妹校との合同共催で例年の数十倍は
盛り上がっている。
「ひゅー! ツナくーん!」
「かわいい~!」
「いまいずみせんぱ~い! こっち向いてぇー」
「……」
入場行進をする俺にかけられる、
『黄色い』声援……。
この学校に入って、何故か同性にまでにモテる
ようになった気がするし。
あんな風に突然知らん子から声をかけられたり、
同姓の後輩から告られた事もあったし、
手紙をもらったりなんて事も続いていた。
最初は、私立の共学校でも、
多少のレズ・ホモは大目に見るしかないか……
とか思ってたんだけど。
でも、このあからさまなホモ率は
一体何なんだ?
周りを見ればいっくらでもイケメンが溢れてる
だろーがっ!
「手嶌せんせーい!」
「きゃー! 素敵ぃぃっ!!」
きゃーって……。
あいつ、あの通り無表情のダサ男のくせに、
意外と人気あるんだな。
あつし曰く、あいつに群がる生徒達はあいつの
実家の家柄に惹かれているんだそう。
いや、実際かなり仕事出来るし。
運動神経も抜群と来てる。ん?
それに意外と面倒見いいとこもあるしなぁ。
問題なのは、性格の歪みと一般常識のなさ
ってだけで。
いや、そこが一番の問題なんじゃないか!
はぁ~……。
「―― ツナくんは何位だった?」
100メートル走を走り終わると、
たまたま図書館当番で仲良くなったB組の
朋香ちゃんが、俺の肩に腕をまわしながら
聞いてきた。
「……聞かんで」
見てたくせに。
手の中にあった『6位』の紙を見せた。
もちろん、6人中6位って意味だ。
足の速さにだけは
絶対の自信があったんだけどなぁ。
桁違いの金持ちって、何でも出来るものなの?
特にS組の子達って、たいがい何の授業でも
そつなくこなしちゃってさ。
でも、そんななのに性格的にはみんなどっか
おかしなヤツばかりだと思う。
この目の前にいる三木なんか、
やっぱり何でもそつなくこなす、一見爽やかそうな
理系男子。だけど、その実かなり思考が腐ってる
腐男子だし。
「ツナぁぁ! 俺も6位だよ~!」
春ちゃんが、6位の紙を見せながら突進してきた。
因みにこの子は、この学校の理事長のご子息様。
政治屋一家の三男だけどのほほ~んとした
外見通り性格もいいし。
婿養子のお父さん以外は皆”女性”という
女系家族で育ったせいか?
漫画とかアニメの”乙女キャラ”そのもの。
すっげー可愛い!
「先頭集団で、だよね?」
春ちゃんの走りは、オリンピック選手並み。
因みにその春ちゃんが走った教職員チーム第1組の
1位があの『手嶌』だった。
「私は、2位! 桜すっごく頑張ったんだよ~、
ねーあーちゃん、いい子いい子してぇ」
桜が、満面の笑みで走ってきた。
両性具有だけど、
本当にめっちゃ可愛い顔をしている。
性的な対象として先輩だけでなく、
後輩からの人気も高いみたいだ。
でも、ものすごく天然で、不遠慮なヤツ。
思ったことを、すぐに口にする。
「最後尾グループで、だよね?」
桜は私より運動神経が残念なヤツだ。
その点、ものすごく親近感を覚える。
いや、ホントここにいると、今までの自分の価値観
全て変わってしまいそう……。
昼休みが終わってすぐに始まった『騎馬戦』は、
全学年のクラス対抗っていうなんだかすごいものだ
どう考えたって下級生が不利だと思うけど、
そこらへんは毎年、容赦ないみたい。
体重が軽い男子という理由で、問答無用。
俺は騎手にさせられた。
攻撃チームの指揮をとるのは学級委員の
チョ-さんで、まずはやはり、1年を狙おう
という話になっていた。
ピストル(スターター)の合図で、
一斉に一番近い1-Aめがけて走って行った。
各騎馬の騎手が被っているクラスごとに色違いの
体育帽を幾つ取れるかで、勝敗が決まる。
狙いをつけた1-Aのひと組の騎手へ手を
伸ばしかけた時 ――。
突然横っちょから腕をを引っ張られた。
懇親の力で思い切り引かれて、バランスを崩し
『あっ!』と思った瞬間、掴まっていた騎馬の
男子から手が離れて、後ろに倒れていく感覚に、
瞬間的に冷や汗がドッと出た。
うわっ!! 落ちる!
そう思って、頭を守ろうとした瞬間、
誰かに抱きかかえられていた。
「?!」
ゆっくり目を開けるとそこには、
はぁはぁ ――と息を切らせた……手嶌先生
がいた。
先生は俺を抱きかかえたまま歩くと、
人の群れから外れた場所に私を下ろした。
「ったく ―― あんま無茶をするな」
「あ……」
周りの歓声が、すごくヒトゴトみたいに、
聞こえてた。
「しばらくここで大人しくしてろよ」
そう言いながらすぐに競技に戻って行った
先生の足から、ダラダラ血が出てる。
「ちょっ!」
え? あいつ、なに? あの流血……。
もしかして、俺を助けた時に?
痛くないの?!
早く手当をって言いに行こうとしたら、
事務の刑部さんが先生に声を掛けたのが見えた。
血が出てる足を、彼女が指さしてる。
「あ……」
その刑部さんが先生を引っ張って、
保健室の方に向かって行くのを、ただ、見送った。
なんか ―― あれっ?
ちょっと……あれ?
気分的に、何だか俺……おかしい。
……なんで?
クラス対抗男女混合騎馬戦は、下馬評通り、
3年生の圧勝で終わった。
俺は競技が終わるやいなや、保健室に急いでいた。
いや。
あの2人の邪魔をするつもりとか……
そんなんじゃなくて。
もしかすると、あいつのケガが、
俺のせいなのかもしれないって思ったら、
すごく気になってて……。
だってこのあと、あいつ、教職員VS父兄チームの
対抗リレーも出るはずなのに。
チームのエースが走れなかったらどうしよう……。
保健室のドアを開けると、刑部さんが先生の膝を、
消毒しているところだった。
他には、誰も見当たらない。
「あ……」
「あら? あなたは確か2-Sの今泉くんだった
かしら? どうしたの? ケガでもした?」
「……あ、いいえ。なんでも、ないです……」
せっかく声を掛けてくれた刑部さんに、
ぶっきらぼうにそう言って、
そのまま保健室を飛び出してしまった。
今日は体育祭です。
暑くもなく寒くもない、絶好の体育祭日和。
今年は ”祠堂” 創立70周年の記念大会だから、
隣町にある姉妹校との合同共催で例年の数十倍は
盛り上がっている。
「ひゅー! ツナくーん!」
「かわいい~!」
「いまいずみせんぱ~い! こっち向いてぇー」
「……」
入場行進をする俺にかけられる、
『黄色い』声援……。
この学校に入って、何故か同性にまでにモテる
ようになった気がするし。
あんな風に突然知らん子から声をかけられたり、
同姓の後輩から告られた事もあったし、
手紙をもらったりなんて事も続いていた。
最初は、私立の共学校でも、
多少のレズ・ホモは大目に見るしかないか……
とか思ってたんだけど。
でも、このあからさまなホモ率は
一体何なんだ?
周りを見ればいっくらでもイケメンが溢れてる
だろーがっ!
「手嶌せんせーい!」
「きゃー! 素敵ぃぃっ!!」
きゃーって……。
あいつ、あの通り無表情のダサ男のくせに、
意外と人気あるんだな。
あつし曰く、あいつに群がる生徒達はあいつの
実家の家柄に惹かれているんだそう。
いや、実際かなり仕事出来るし。
運動神経も抜群と来てる。ん?
それに意外と面倒見いいとこもあるしなぁ。
問題なのは、性格の歪みと一般常識のなさ
ってだけで。
いや、そこが一番の問題なんじゃないか!
はぁ~……。
「―― ツナくんは何位だった?」
100メートル走を走り終わると、
たまたま図書館当番で仲良くなったB組の
朋香ちゃんが、俺の肩に腕をまわしながら
聞いてきた。
「……聞かんで」
見てたくせに。
手の中にあった『6位』の紙を見せた。
もちろん、6人中6位って意味だ。
足の速さにだけは
絶対の自信があったんだけどなぁ。
桁違いの金持ちって、何でも出来るものなの?
特にS組の子達って、たいがい何の授業でも
そつなくこなしちゃってさ。
でも、そんななのに性格的にはみんなどっか
おかしなヤツばかりだと思う。
この目の前にいる三木なんか、
やっぱり何でもそつなくこなす、一見爽やかそうな
理系男子。だけど、その実かなり思考が腐ってる
腐男子だし。
「ツナぁぁ! 俺も6位だよ~!」
春ちゃんが、6位の紙を見せながら突進してきた。
因みにこの子は、この学校の理事長のご子息様。
政治屋一家の三男だけどのほほ~んとした
外見通り性格もいいし。
婿養子のお父さん以外は皆”女性”という
女系家族で育ったせいか?
漫画とかアニメの”乙女キャラ”そのもの。
すっげー可愛い!
「先頭集団で、だよね?」
春ちゃんの走りは、オリンピック選手並み。
因みにその春ちゃんが走った教職員チーム第1組の
1位があの『手嶌』だった。
「私は、2位! 桜すっごく頑張ったんだよ~、
ねーあーちゃん、いい子いい子してぇ」
桜が、満面の笑みで走ってきた。
両性具有だけど、
本当にめっちゃ可愛い顔をしている。
性的な対象として先輩だけでなく、
後輩からの人気も高いみたいだ。
でも、ものすごく天然で、不遠慮なヤツ。
思ったことを、すぐに口にする。
「最後尾グループで、だよね?」
桜は私より運動神経が残念なヤツだ。
その点、ものすごく親近感を覚える。
いや、ホントここにいると、今までの自分の価値観
全て変わってしまいそう……。
昼休みが終わってすぐに始まった『騎馬戦』は、
全学年のクラス対抗っていうなんだかすごいものだ
どう考えたって下級生が不利だと思うけど、
そこらへんは毎年、容赦ないみたい。
体重が軽い男子という理由で、問答無用。
俺は騎手にさせられた。
攻撃チームの指揮をとるのは学級委員の
チョ-さんで、まずはやはり、1年を狙おう
という話になっていた。
ピストル(スターター)の合図で、
一斉に一番近い1-Aめがけて走って行った。
各騎馬の騎手が被っているクラスごとに色違いの
体育帽を幾つ取れるかで、勝敗が決まる。
狙いをつけた1-Aのひと組の騎手へ手を
伸ばしかけた時 ――。
突然横っちょから腕をを引っ張られた。
懇親の力で思い切り引かれて、バランスを崩し
『あっ!』と思った瞬間、掴まっていた騎馬の
男子から手が離れて、後ろに倒れていく感覚に、
瞬間的に冷や汗がドッと出た。
うわっ!! 落ちる!
そう思って、頭を守ろうとした瞬間、
誰かに抱きかかえられていた。
「?!」
ゆっくり目を開けるとそこには、
はぁはぁ ――と息を切らせた……手嶌先生
がいた。
先生は俺を抱きかかえたまま歩くと、
人の群れから外れた場所に私を下ろした。
「ったく ―― あんま無茶をするな」
「あ……」
周りの歓声が、すごくヒトゴトみたいに、
聞こえてた。
「しばらくここで大人しくしてろよ」
そう言いながらすぐに競技に戻って行った
先生の足から、ダラダラ血が出てる。
「ちょっ!」
え? あいつ、なに? あの流血……。
もしかして、俺を助けた時に?
痛くないの?!
早く手当をって言いに行こうとしたら、
事務の刑部さんが先生に声を掛けたのが見えた。
血が出てる足を、彼女が指さしてる。
「あ……」
その刑部さんが先生を引っ張って、
保健室の方に向かって行くのを、ただ、見送った。
なんか ―― あれっ?
ちょっと……あれ?
気分的に、何だか俺……おかしい。
……なんで?
クラス対抗男女混合騎馬戦は、下馬評通り、
3年生の圧勝で終わった。
俺は競技が終わるやいなや、保健室に急いでいた。
いや。
あの2人の邪魔をするつもりとか……
そんなんじゃなくて。
もしかすると、あいつのケガが、
俺のせいなのかもしれないって思ったら、
すごく気になってて……。
だってこのあと、あいつ、教職員VS父兄チームの
対抗リレーも出るはずなのに。
チームのエースが走れなかったらどうしよう……。
保健室のドアを開けると、刑部さんが先生の膝を、
消毒しているところだった。
他には、誰も見当たらない。
「あ……」
「あら? あなたは確か2-Sの今泉くんだった
かしら? どうしたの? ケガでもした?」
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そのまま保健室を飛び出してしまった。
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