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本章

彷徨える仔羊 - ②

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 再会したのはその2日後 ――
 
 蒼汰は性懲りもなくまた万引きで捕まって、
 その店の主に警察へ連れて行かれようとしていた。
 
 たまたまその店主と顔見知りだったのでとにかく
 平謝りで詫び、見逃して貰った。
 
 
「なんで……」

「ん?」

「……なんで、助けたんだよ」

「なんで、って、見捨てておけなかったから」

「たった1度会っただけで、友達でも兄弟でも
 ないくせにっ」
 
「そんな事より、一体いつまで続ける気なんだ?」

「……何を」

「ガキが1人で生きていけないのは分かってんだろ」

「1人じゃねぇもん」

「って、ガキが2人でも大した変わりねぇだろが」 

「じゃあ、食いもんと家の引き換えでエロ親父に
 ケツ差し出せってのか?!」
 
「!!……」


 蒼汰は歩き出した。
 
 
「待てよ。話しはまだ ――」

「オレに構うなっ!! 同情なんていらねぇよ」


 真守はそれでも蒼汰の後に続いた。
 
 振り返りざま真守を殴る蒼汰。
 
 まだ、中1・12才だが蒼汰は中3男子並みの
 体格をしてるので、不意を突かれた真守はあっけなく
 倒れた。
 
 
「……約束しろ、もう2度と盗みはしない、と」

「絢とオレに野垂れ死にしろってか? ごめんだね。
 オレ達をダッチワイフ代わりにした親父どもに 
 復讐するまで、どんな事してでも生き延びてやる」
 
「……約束しろ。そしたら、俺が出来る限りは食わせて
 やる」
 
「格好つけやがって……オレはなお前みたいな ――」


 真守は”よっこらせ”と立ち上がり、
 蒼汰の手を取った。
 
 
「絢のとこに案内しな。
 とりあえず飯、一緒に食おうぜ」  


*****  *****  *****



 こんな経緯があって真守は自分1人でも
 食べて行くだけでやっとの状況なのに、
 足手まといになると初めから分かりきってた子供を
 2人も抱え込み、共同生活を始めた。
 
 
 ロレックスを闇のバイヤーと不等価交換して
 得た1万で何とか当座の飢えはしのげたが、
 日雇労働はたった1日でも穴を空ければ仕事を失う
 
 バカな自殺未遂などしたばかりに、
 時間通りに現場へ行けなかったから給料的に割の良い
 夜間のバイトをクビになった。

 自分が働いて食い物だけでも手に入れなきゃ、
 蒼汰はまた万引きに走るだろうから。
 
 仕事増やしてでも日銭稼がなきゃ!
    

 (明日はアルプスのバイトだから早く寝なきゃ)
 
 
 いつものように公園にある遊具の中で夜を明かし。
 
 珍しく朝飯もちゃんと食べて、
 
 
「じゃ、行ってくるな」

「いってらっしゃぁーい。気を付けてね」

 
 2人に見送られ3駅先の商店街に向かった。



*****  *****  *****


 一方こちらは……
 

 『ただいま~』の声と共に入って来て、
 戸口で固まる竜二。

 ま、竜二とて自分から
 ”夜は何か外で旨いもんでも食おうぜ”なんて
 言っておきながら朝帰りをしてしまったてまえ、
 偉そうな事は言えない。
 
 が、真守のように純真且つ純情そうな少年が人を
 騙すなどとは思ってもいなくて。
 
 ひと言もなく、自分の前からいなくなって
 しまった事が予想以上にショックだったのだ。
 
  
 そんな竜二を平然と追い越し後から入ってきた
 八木が ”だ~か~らぁ~言わんこっちゃない”
 といった視線で竜二を見返した。
 
 
「お前が言いたい事は分かってる。今は何も言うな」

「ま、今回はもぬけの殻にされなかっただけ、
 良しとしますか」
 
 
 竜二は今自分がはめている腕時計を
 棚のガラスケースに戻そうとして、
 ひとつなくなってる事、そして、
 そこへ残されている走り書きのメモにも気が付いた。

 薄汚い文字でこう書いてある ――

 ”借用書 腕時計 ひとつ、
  201*年5月**日 成瀬真守”
 
 
 なくなっていたのは、
 言うまでもなく真守が借りていった(??)
 ロレックスデイトナだ。 
 
 
「まさか、何かなくなった物でもあるんですか?」

「いや、ないよ」


 (どうせ持ってくならもっと高いやつにすれば
  良かったのに……)
  
  
「さて、今日は久しぶりに花川戸の見回りへ出るか」

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