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邂逅編
―― その②
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けたたましい電話の着信音で目を覚ました時、
カーテンの向こうには朝がやって来ていた。
すっかり明るくなった部屋の中で
私はおろおろと音の出所を探していた。
昨夜も前日に引き続きこの詰め所に泊まり込んだ。
就活関係の資料を見ながら、
結局は睡魔に勝てずローテーブルに伏せ、
そのまま朝まで眠っていたらしい。
『あぁ、私だ』
どこかから男性の声が聞こえてきた。
布団の上で身体を起こした彼が
電話をしている声だった。
『あぁ、今のところは予定で大丈夫だろ。
分かった、9時に現地で』
スマホを器用に肩で挟み、
彼は引き寄せたバッグから手帳を取り出し、
ページをめくっていく。
時間と場所を確認するだけの短い電話を終えた後、
彼はスマホで今の時刻を確かめ、
空いた手で前髪を掻き上げていた。
私も壁掛け時計で時間を確認する。
現在、午前6時25分。
土曜日にこんなに早く起きたのは久しぶりだ。
「―― あのぉ……大丈夫ですか?」
私が声を掛けると、
男性は顔を上げてこちらを見た。
かなり驚いた顔をしている。
体調がまだ不完全なせいで倒れた時の記憶が
ないのだろうか?
「えっと……ここは?」
「祠堂の用務員詰め所です。
殺風景な所ですみません。あなたが
倒れた校門からはここが一番近かったもので」
「イヤ、お陰で助かった。どうもありがとう ―――
ところで、俺はどの位寝込んでたのかな?」
「えっと……だいたい2日(ふつか)です」
「えっ ―――― そんなにか??」
「養護の先生がおっしゃってましたよぉ、
かなりお疲れのようだって。
けど、お仕事がお休の週末で良かったですね」
「あぁ、まったくだ……いや、キミには
すっかり面倒をかけてしまったな」
壁にかかってるカレンダーを目にして
何かを思い出し。
急いでシステム手帳を開きスケジュールを確認。
「あの、もしかして……今日もお仕事ですか?」
娘に声を掛けられると柊二は『あぁ、そうなんだ』
と苦笑しつつ頷いた。
「今日はイベントがあってね」
「えっ。着替えとか大丈夫ですか?」
「あぁ、それは、会社に替えのスーツ置いているんで
問題ない。泊まり込みもしょっちゅうなんで、
何とかなるだろ」
帰宅途中にダウンしてしまう程疲れ切っている彼は、
こんな状態で今日も仕事に行くと言う。
それがなんだか気の毒に思えて、
私にできる事は何かないか? と、
必死に寝起きの頭を回転させた。
「あの、良かったらシャワー使って下さい」
私がやっとの思いで絞り出したアイデアを
提案すると、彼は『気にしないで』と
首を横に振った。
「いいです。迷惑ですし」
「あ、やっぱそう、ですよね……出過ぎた事を ――」
「あ ―― い、いやっ!
違う。俺がキミにそこまでしてもらうのは、
キミだって迷惑だろって意味でさ。
キミはちっとも悪くない」
急に落ち込んだ私を見て、
彼はひどく慌てた様子で私を励ましてくれた。
優しい人なんだなぁ ―― と
思いながら顔を上げると、
私の目の前には困り顔の彼がいた。
「私は迷惑じゃないです。
お兄さんが心配なだけです」
「俺が?」
「だからシャワー、使って下さい」
私はクローゼットから予備に買っておいた
新品のバスタオルを取り出し、
彼に押し付けた。
「……あ、どうも、ありがと。助かるよ」
「お風呂、この部屋を出た向かいのドアです」
彼は何度も頭を下げてから浴室に向かった。
彼が使った布団を簡単に畳んで部屋の隅に置き、
私は朝食の準備をする為に立ち上がった。
カーテンの向こうには朝がやって来ていた。
すっかり明るくなった部屋の中で
私はおろおろと音の出所を探していた。
昨夜も前日に引き続きこの詰め所に泊まり込んだ。
就活関係の資料を見ながら、
結局は睡魔に勝てずローテーブルに伏せ、
そのまま朝まで眠っていたらしい。
『あぁ、私だ』
どこかから男性の声が聞こえてきた。
布団の上で身体を起こした彼が
電話をしている声だった。
『あぁ、今のところは予定で大丈夫だろ。
分かった、9時に現地で』
スマホを器用に肩で挟み、
彼は引き寄せたバッグから手帳を取り出し、
ページをめくっていく。
時間と場所を確認するだけの短い電話を終えた後、
彼はスマホで今の時刻を確かめ、
空いた手で前髪を掻き上げていた。
私も壁掛け時計で時間を確認する。
現在、午前6時25分。
土曜日にこんなに早く起きたのは久しぶりだ。
「―― あのぉ……大丈夫ですか?」
私が声を掛けると、
男性は顔を上げてこちらを見た。
かなり驚いた顔をしている。
体調がまだ不完全なせいで倒れた時の記憶が
ないのだろうか?
「えっと……ここは?」
「祠堂の用務員詰め所です。
殺風景な所ですみません。あなたが
倒れた校門からはここが一番近かったもので」
「イヤ、お陰で助かった。どうもありがとう ―――
ところで、俺はどの位寝込んでたのかな?」
「えっと……だいたい2日(ふつか)です」
「えっ ―――― そんなにか??」
「養護の先生がおっしゃってましたよぉ、
かなりお疲れのようだって。
けど、お仕事がお休の週末で良かったですね」
「あぁ、まったくだ……いや、キミには
すっかり面倒をかけてしまったな」
壁にかかってるカレンダーを目にして
何かを思い出し。
急いでシステム手帳を開きスケジュールを確認。
「あの、もしかして……今日もお仕事ですか?」
娘に声を掛けられると柊二は『あぁ、そうなんだ』
と苦笑しつつ頷いた。
「今日はイベントがあってね」
「えっ。着替えとか大丈夫ですか?」
「あぁ、それは、会社に替えのスーツ置いているんで
問題ない。泊まり込みもしょっちゅうなんで、
何とかなるだろ」
帰宅途中にダウンしてしまう程疲れ切っている彼は、
こんな状態で今日も仕事に行くと言う。
それがなんだか気の毒に思えて、
私にできる事は何かないか? と、
必死に寝起きの頭を回転させた。
「あの、良かったらシャワー使って下さい」
私がやっとの思いで絞り出したアイデアを
提案すると、彼は『気にしないで』と
首を横に振った。
「いいです。迷惑ですし」
「あ、やっぱそう、ですよね……出過ぎた事を ――」
「あ ―― い、いやっ!
違う。俺がキミにそこまでしてもらうのは、
キミだって迷惑だろって意味でさ。
キミはちっとも悪くない」
急に落ち込んだ私を見て、
彼はひどく慌てた様子で私を励ましてくれた。
優しい人なんだなぁ ―― と
思いながら顔を上げると、
私の目の前には困り顔の彼がいた。
「私は迷惑じゃないです。
お兄さんが心配なだけです」
「俺が?」
「だからシャワー、使って下さい」
私はクローゼットから予備に買っておいた
新品のバスタオルを取り出し、
彼に押し付けた。
「……あ、どうも、ありがと。助かるよ」
「お風呂、この部屋を出た向かいのドアです」
彼は何度も頭を下げてから浴室に向かった。
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私は朝食の準備をする為に立ち上がった。
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