Emotion

NADIA 川上

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薫さんの底力

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 いつも思う事だけど、ごく平均的な一般人の顔を
 人気女優の顔へと変えていくアーティスト青山さんの
 メイク技術はホント神だ。


「んー、じゃあ目ぇ閉じてねー」

「はい」


 全てを委ねるように瞼を閉じる。


「ふふっ、この表情ってさ、まるでキスを待ってる
 みたいよねぇ……してもいい?」

「ダメに決まってんでしょ。この唇はダーリンだけの
 モノなの」

「まぁ ―― ノロケてくれちゃってぇ。
 ごちそうさま」


 会話の内容は置いといて、
 青山さんはこんな風にメイクされてる人を
 退屈にさせない。

 ホントすごい人だ。尊敬する。
 ……ちょっとチャラいところさえなければ。


 ささやかだった二重がくっきりおメメの
 綺麗な二重になり、アイシャドウがのって、
 目の淵にラインが引かれる。

 口は派手すぎないリップで薄っすら色づけ、
 グロスでぷっくりツヤツヤに。

 次々と手際よく施され、
 ものの数分でメイク終了~。


「はーい、メイク完成。お疲れさま」

「ありがと」

「それじゃ、ウィッグも付けるねー」


 ピョンピョン跳ねまくっている薫さんの髪を
 ネットの中にしまい込み―― 、
 上からロングの黒髪ストレートなウィッグを
 被せられる。
 取れないようピンでしっかり固定して、
 少し整えてからカチューシャを乗っければ、
 女優・浅霧薫の完成。


「今日は”可愛い女シリーズ”で~す。今回の役柄に
 合わせてピュアピュアな村娘をイメージして
 みましたぁー。うん完璧」


 今日は薫さんの次回出演作『ジゼル』のPRポスターと
 スチール撮影。

 ―― ガチャッ


「準備できたか」


 丁度いいタイミングで鬼束部長が戻ってきた。

 「お帰りなさぁい」と、皆んなで振り返れば
 一瞬間が空き、素っ気ない返事が返ってくるだけ。

 ん? と、思ってすぐ隣に立つ青山さんに
 視線を送ると含み笑いをされた。


「やぁだぁ~、仁ってば何赤くなってんのー? 
 このむっつりめー。
 薫ちゃん今日も可愛いでしょ」

「うっせー黙れ。でも、ま、いつも通り上出来だ」


 鬼束部長と青山さんは高校・大学時代の同期
 だという。


「お褒めに預かり光栄です」


 うやうやしくお辞儀をする青山さんは顔を上げ
 ニシシ ―― ッと笑いかけてくるから私も
 一緒になって笑った。


「じゃ、行けるな? 薫」


 トータルコーディネート完了後の
 薫さんを上から下まで最終確認すると、
 鬼束部長のその言葉を合図に立ち上がった。

 楽屋から出るこの瞬間は、
 何回経験しても緊張する。


「はい、大丈夫です」

「よし、行こうか」


 羽柴さんが押さえてくれているドアから
 薫さんを先頭に4人順番で出ていく。



***** ***** *****



『―― 浅霧さん入りまーす』


 薄暗いスタジオに入ると、至るところからスタッフに挨拶され、
 薫さんはそのひとり・ひとりに頭を下げる。

 するとどうだ、一斉にザワッとなり
 私達が通り過ぎたあと数人のスタッフが
 固まって話しはじめた。

 小声で聞き取りにくかったが、
 何とか聞き取れたのが


 「あの薫さんが挨拶に応えた?!」
 「今日は機嫌がいい日なんだ! よかった」
 的な内容。

 それは当然だ。
 この仕事、薫さん自身がディレクター・哀川さんの元へ
 日参して勝ち取った主役なんだから。

 (聞いた噂によれば薫さんはディレクターへ
  ”もし主役が年齢的に無理なら脇でも何でも
   いいから自分を使ってくれ”って言ったらしい)
 
 いつも気分屋の薫さんも、
 今回はかなり熱が入ってるってコト。

 『ジゼル』は1841年フランスで初演された
 ロマンチックバレエの代表作のひとつだ。
 主人公が死装束で踊る唯一のバレエ作品といわれる。


 隣を歩く鬼束部長に目配せすればため息をつかれ
 頭を撫でられた。
 
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