34 / 46
薫さんの底力
しおりを挟むいつも思う事だけど、ごく平均的な一般人の顔を
人気女優の顔へと変えていくアーティスト青山さんの
メイク技術はホント神だ。
「んー、じゃあ目ぇ閉じてねー」
「はい」
全てを委ねるように瞼を閉じる。
「ふふっ、この表情ってさ、まるでキスを待ってる
みたいよねぇ……してもいい?」
「ダメに決まってんでしょ。この唇はダーリンだけの
モノなの」
「まぁ ―― ノロケてくれちゃってぇ。
ごちそうさま」
会話の内容は置いといて、
青山さんはこんな風にメイクされてる人を
退屈にさせない。
ホントすごい人だ。尊敬する。
……ちょっとチャラいところさえなければ。
ささやかだった二重がくっきりおメメの
綺麗な二重になり、アイシャドウがのって、
目の淵にラインが引かれる。
口は派手すぎないリップで薄っすら色づけ、
グロスでぷっくりツヤツヤに。
次々と手際よく施され、
ものの数分でメイク終了~。
「はーい、メイク完成。お疲れさま」
「ありがと」
「それじゃ、ウィッグも付けるねー」
ピョンピョン跳ねまくっている薫さんの髪を
ネットの中にしまい込み―― 、
上からロングの黒髪ストレートなウィッグを
被せられる。
取れないようピンでしっかり固定して、
少し整えてからカチューシャを乗っければ、
女優・浅霧薫の完成。
「今日は”可愛い女シリーズ”で~す。今回の役柄に
合わせてピュアピュアな村娘をイメージして
みましたぁー。うん完璧」
今日は薫さんの次回出演作『ジゼル』のPRポスターと
スチール撮影。
―― ガチャッ
「準備できたか」
丁度いいタイミングで鬼束部長が戻ってきた。
「お帰りなさぁい」と、皆んなで振り返れば
一瞬間が空き、素っ気ない返事が返ってくるだけ。
ん? と、思ってすぐ隣に立つ青山さんに
視線を送ると含み笑いをされた。
「やぁだぁ~、仁ってば何赤くなってんのー?
このむっつりめー。
薫ちゃん今日も可愛いでしょ」
「うっせー黙れ。でも、ま、いつも通り上出来だ」
鬼束部長と青山さんは高校・大学時代の同期
だという。
「お褒めに預かり光栄です」
うやうやしくお辞儀をする青山さんは顔を上げ
ニシシ ―― ッと笑いかけてくるから私も
一緒になって笑った。
「じゃ、行けるな? 薫」
トータルコーディネート完了後の
薫さんを上から下まで最終確認すると、
鬼束部長のその言葉を合図に立ち上がった。
楽屋から出るこの瞬間は、
何回経験しても緊張する。
「はい、大丈夫です」
「よし、行こうか」
羽柴さんが押さえてくれているドアから
薫さんを先頭に4人順番で出ていく。
***** ***** *****
『―― 浅霧さん入りまーす』
薄暗いスタジオに入ると、至るところからスタッフに挨拶され、
薫さんはそのひとり・ひとりに頭を下げる。
するとどうだ、一斉にザワッとなり
私達が通り過ぎたあと数人のスタッフが
固まって話しはじめた。
小声で聞き取りにくかったが、
何とか聞き取れたのが
「あの薫さんが挨拶に応えた?!」
「今日は機嫌がいい日なんだ! よかった」
的な内容。
それは当然だ。
この仕事、薫さん自身がディレクター・哀川さんの元へ
日参して勝ち取った主役なんだから。
(聞いた噂によれば薫さんはディレクターへ
”もし主役が年齢的に無理なら脇でも何でも
いいから自分を使ってくれ”って言ったらしい)
いつも気分屋の薫さんも、
今回はかなり熱が入ってるってコト。
『ジゼル』は1841年フランスで初演された
ロマンチックバレエの代表作のひとつだ。
主人公が死装束で踊る唯一のバレエ作品といわれる。
隣を歩く鬼束部長に目配せすればため息をつかれ
頭を撫でられた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる