恋人までの距離・眠れぬ夜を超えて

NADIA 川上

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惜別の森にて

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 それほど動き慣れていない身体に、
 いきなりの全力疾走は正直思いっ切りしんどい。
 
 でも、咲耶さくやはここで足を止める訳にはいかないのだ。



「―― っはぁ……はぁ……っく」


 ちょっとでも気を抜けば音が鳴る鎖を、
 必死で音がたたないように抱えながら走る。


 黒いフード付きのコートを羽織ってきたが、
 そのフードから時折見える髪の毛は色鮮やかな
 金色で月の光を反射する。

 お洒落の素っ気もないような平服でも、
 先月、初潮を迎えた身体は確実に大人の女性へと
 変化しており、薄っぺらな服だからはっきり分かる
 ボディーラインは柔らかな曲線を描いている。

 裸足の足に生い茂った草木や土は痛いが、
 そんな感覚を気にしている余裕はない。

 逃げなければ。

 とにかく逃げなければ、
 待っているのは囚われの日々。


 決して捕まるわけにいかない。

 数日前から続く熱のせいで身体がふらつく。
 
 休息を求め自然と足が遅くなる。


 (……だめ、走らなきゃ……)


 それしか、私に生きる道は残されていないんだ。

 前を見据える。
 
 まだ死ねない……!

 ふっと、人の気配を感じてとっさにしゃがみ込んだ。


 と、その時だった。
 
 
『咲耶様、どちらにおいでです……』 
 
 
 それは、囁くというほど高くもない。
 しかもどこから聞こえてくるのか分からない声。
 
 咲耶が育った一族が使う意思伝達法のひとつ・
 遠話(おんわ)だ。

 ハッとして咲耶はその声へ意識を集中させ、
 同じように遠話で答える。


『志乃、私は大丈 ―― う”っ』

『咲耶様?!』


 咲耶は前屈みに倒れ込んだ。
  
 咲耶の後方に狐面をした長身の人物が
 立ち込めた濃霧と共に突如現れる。


『久しぶりよのぅ、咲耶姫』

「き ―― 貴様は……っ」

『さぁ、我と共に参られよ』


 狐面の人物が娘に手を伸ばす。


「汚らわしいっ。わらわに触るなっ!!」

 
 しかし、咲耶がその手を跳ね除けたと同時に
 すざまじい雷が轟き、稲光が狐面の人物を
 直撃して、辺り一面が眩いばかりの閃光に包まれた
 
 
『さ ―― 咲耶様? 如何がなされました?!
 咲耶さまーーっ!』
 
 
 その姿なき思念の声が響き渡って ――
 今あった事が嘘のよう、辺りが静寂を取り戻した時、 
 あの娘の姿も、狐面の人物も消えてなくなっていた。
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