オオカミは淫らな仔羊に欲情する

NADIA 川上

文字の大きさ
11 / 80

自責の涙

しおりを挟む

 私はどっと疲れを覚えその場にしゃがみ込んだ。
  
 知らず知らず、大きなため息が漏れる。
  
 考えなくてはならない事が重過ぎて、
 いっそ全て投げ出してしまいたいような気持ちに
 駆られる。
  
  
 裕と過ごした月日は短いけれど、
 彼と一緒に過ごした日々の出来事が
 走馬灯のように脳裏を過ぎっていく ――。


 小さかった頃の裕は絢音以上の恥ずかしがり屋で
 いっつも兄・隆の後ろに隠れていた。
 
 そんな裕との距離が急速に縮まったのは、
 やはり同じ高校に進学してからで。
 
 私はまるで気付いていなかったが、
 クラスでは”いずれくっつくカップル”の
 筆頭に挙げられていたらしい。
 
 だけど、せっかく仲良くなれたのに、
 もうすぐ裕がハワイに行ってしまうと分かった時は
 本当に辛かった。
 
 だから、野球部の引退試合のあと告白された時は
 凄く嬉しくて、ごく自然に身体を委ねる事が出来た。
  

 進学や就職などで疎遠になって、あっという間に
 新しい彼女を作られた ―― なんて、
 話しを聞く度、自分はそんな目に遭ったりしないと
 言い聞かせていたから。
  
 裏切られて悔しい、という思いより、
 こんな男に夢中になっていた自分が
 情けなくって、その不甲斐なさに涙が溢れた。
   
 何なのよ、情けないっ!
   
 でも、一旦盛り上がってしまった感情は、
 自分でどうにか出来るもんでもない。
   
 立ち上がって。
  
 人気がない場所を探して、近くの路地へ入った。

 建物の壁にもたれたまま崩れるようしゃがみ
 込んだ。

 さっきまで無理に抑えていた涙が溢れ出て来る。
 
 やだ、もうっ! 何なの……?!
 
    
 ばっかみたい……
 今さら泣いたってしょうがないのに。

 結局は、自分に人を見る目がなかったんだ。
      
 自分の不甲斐なさを責めるよう、
 私は口へ拳を押し付け声を殺して泣いた。
      
 次から次に溢れ出る涙の量は
 決められていないんだろうか?

 笑えるくらい溢れ出て来る……。


 少し落ち着いた私の横に、何時からいたのか?

 幼なじみの三上 あつしが立っていた。


「あつし ―― いつ、から……?」

「―― 落ち着いたか? お前、目ぇ真っ赤」


 あつしは、自分を見上げてる私を見て笑う。

 私は手早く涙を拭い、性懲りもなく強がりを言う。
  
   
「ちょっと、悪酔いしただけだから……」

「悪酔い ―― って、お前酒飲んでるのかよ」

「んな事あんたに関係ないでしょ」

  
 あつしは私の傍らに座った。

 何も語らず、真っ暗な空を見ている。

 何故泣いていたのか?   
 理由も聞かずに、ただ黙って傍にいてくれる。

 私も何も話さなかった。

   
「―― な、腹減らね?」
 
「へ?」

「今夜、事務所の社長ん家(ち)で鍋パーティー
 すんだけどあやも来いよ」
 
 
 事務所の社長……?
 あ、そうだった ―― こいつ、こう見えても
 一応カリスマモデルだっけ。
 
 
 あつしは立ち上がった。
 
 
「腹がいっぱいになれば気分も上がるってもんよ」

「……そうかな」

「おぅ!」


 そんな威勢のいいあつしの声に釣られるよう、
 私はやっと重い腰を上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

熟女教師に何度も迫られて…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
二度と味わえない体験をした実話中心のショート・ショート集です

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

処理中です...