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東京編
心が悲鳴をあげても
しおりを挟む絢音に対しての嫌がらせは、
翌日も、翌々日も、更にその翌日も
途切れる事なく続けられた。
しかもそれは日が経つにつれて、
机の中へ入れられる紙の枚数は多くなっていき、
その内容も徐々に過激にエスカレートしていった。
1度、見るにみかねた中嶋がHR(ホームルーム)
の時、嫌がらせの首謀者を特定する事なく、
クラスメイト全員をたしなめたがそんな事は
糠に釘で。 大した効力は発揮せず。
『 極道の子供は他所へ行け 』
『 人殺し 』
『 疫病神 』
『 お前も死ねば? 』
いつの間にか、父が元ヤクザだって事も
犯罪歴があるって事も露見していて。
一体何処でどうやって入手したのか?
当時、父が関わった事件を詳しく報じた新聞記事
なんかも、教室の掲示板へ貼り出されたりして――
絢音の心を抉り、深く傷付け、追い詰めた。
『――そう。大人しくしてりゃあ手荒な事はしねぇ。
オレらのテクで天国魅せてやるからな』
男の手が、唇が、舌が、執拗に
絢音の躰中を這いずり回る。
絢音は躰を強張らせ、
小刻みに震わせてもはや不快でしかない、
男の愛撫にただ耐えるだけ。そして――
脳天を突き抜けるような、
いきなりの激痛に躰を仰け反らせ絶叫する。
「!!ぐはっ―― お父さん、助けてっっ」
すると場面はいきなり切り替わり、
絢音を悪漢から救う為、 父が男達を次々に
倒していった場面へ。
『―― この腐れ外道どもがぁぁっっ!!』
静寂の中、数発の銃声が鈍い音で響き渡った。
それと同時に、どこか全く違う所から
絢音を呼ぶ声が聞こえてくる――
「あや? ―― ねぇっ、あやってば!」
肩を揺すぶられ絢音はやっと
悪夢から醒める事が出来た。
「いやぁぁぁぁっっ!!」
額にびっしょり玉のような脂汗を浮かべて、
飛び起きても未だ小刻みにカタカタと震え続ける。
そんな絢音の躰を咲夜はそうっと優しく
抱きしめた。
「大丈夫 ―― もう大丈夫。
私がずっと傍にいるから」
***** ***** *****
夜中、咲夜がフッと目を覚ますとさっき一緒に
眠りについたばかりのはずの絢音の姿が
部屋のどこにも見当たらなかった。
しばらく待ってもなかなか戻らぬ絢音に言い知れぬ
胸騒ぎを覚え咲夜は絢音を探そうと部屋から出た。
絢音は洗面所にいた。
まるで何かに取り憑かれでもしたかの
ような必死の形相で手を洗っている。
絢音は小声で何か呟き続けているが、
咲夜には理解不能な広東語だったので
ますます咲夜は絢音の様子に戸惑いを
見せる。
「ねぇ、あや。それくらいでいいでしょ?
そろそろ部屋へ戻ろう」
『だめ――だって、この血、なかなか
落ちないんだもの……』
「何言ってっかさっぱりわかんないよ。
とにかく部屋に戻ろう」
と、絢音の肩を引き寄せた。
しかし絢音は、咲夜の手を邪険に
振り払って、手洗いを続行する。
「いい加減にしなよ。帰ろ!」
『イヤ! 咲夜にはこの血が見えないの?!
私の事は放っといてよ』
そこへ「こんな時間に何騒いでるんだぁ??」と、
B棟の寮監・日向登場。
「ア、ヒデさん。絢音の様子が変なのよ」
「ん? ―― 絢音?」
『落ちない…………』
「落ちない?」
「は? ヒデさんって、中国語分かるの?」
「あ、あぁ。簡単な日常会話程度ならな
―― 絢音? 落ちないって、何の事だ」
『落ちないんだもの、この血……』
絢音は手を必死に洗いつつ涙ぐんでいさえもする。
「?! ――――」
「じゃあ、今何って言ったの?」
「お前は部屋へ戻っていい」
「えっ、何でよっ。私だってあやの事が心配だもん」
「今のこいつはお前じゃ手に負えん」
「って、そりゃど~ゆう意味よっ」
日向は絢音の背後から手を伸ばし
手荒いシンクの水道を止めた。
『な、何するの??』
『ほら、ちゃんとよく見てみろ。お前の
手はどこも汚れちゃいない』
『嘘!!こんなに真っ赤なのにっ』
「部屋へ戻るぞ」
有無を言わせぬ力強さで絢音をひょいと
抱きかかえた。
すると絢音はそれまでの抵抗は嘘だったかのよう
静かになって日向に身を委ねた。
『た、す、けて、先生……あたし、怖い』
「咲夜。絢音はしばらく医務室で預かる」
***** ***** *****
日向に抱きかかえられたまま、
日向の医務室へ行った絢音は、
気付け薬代わりにと日向が作ってよこした、
ブランデー入の紅茶を飲んでようやく
本来の落ち着きを取り戻した。
「……あの日、初めて神宮寺さんに絡まれた時、
利沙がいなかったら激情に駆られて私、彼女の事
殴っていたと思う……あの時、西嶋女史が
入って来なかったら私……」
「今更過ぎた事をどう悩んだところでどうにかなる
もんでもなかろう?
とりあえず今は何も考えずゆっくり眠れ」
「でもヒデさん……」
「それ以上何かしゃべってみろ、
てめぇの口ガムテープで塞ぐぞ」
絢音は座っていた日向のベッドへそのまま横たわり
日向は片隅のソファーへ横になった。
「センセ?」
日向はうんざりとした表情を絢音はへ向けた。
「今度は何だよぉ~」
「お休みなさい」
「あ ―― そっか……お休み」
誰だって好きこのんで人を傷付けたり
殺したりはしない。
絢音だって、出来る事ならあの時
傷ついた友・ジェイクを助けたかった。
けど、
『――無様な死に様だけは晒したくねぇ』
って、ジェイクの言葉にあがらう事が出来ず、
かけがえのない友達であるジェイクを殺した事は
紛れもない事実。
私は人殺し……
病院からやっと退院が許可されて、
警察の人の監視付きではあったけどジェイクの
密葬にも参列する事が出来た。
『きっとあの子は今頃天国で気ままに
暮らしてますよ。そして、あなたの事もずっと
見守っていることでしょう。どうか、あの子を
撃ってしまったという事だけには、引きずられ
ないで下さい』
と、言ってくれたジェイクのお母さんの言葉。
その言葉の通りジェイクは天国へ行けたのだという
安心感。
けれども、度重なる嫌がらせによって絢音の
心の中の傷口は再び大きく開きズキズキと疼いた。
激しい心の痛みからはどうしたって逃れられない。
人殺し、人殺し、人殺し…………
その言葉が、何度も頭の中で響き渡る。
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