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東京編
春の嵐 ―― 2
しおりを挟む面談の結果を心待ちしてる利沙へ連絡をとろうと
した時、竜二さんから着信が入った。
彼の声は暗く沈んでいた。
『……ごめんあや、今夜は会えない』
「……話したの?」
『あぁ……大喧嘩になったよ。ま、元々素直に認めて
貰えるとは思っちゃいなかったが、ハードルは
かなり高い……でもどんなに時間がかかろうと
説得するつもりだ。待ってて欲しい』
「……」
『……待ってて、くれるよな?』
彼の縋ってくるような声に、涙がこみ上げる。
「……OK。待ってるから、早く帰って?」
『愛してる、あや』
私はそのまま近くの公衆トイレへ逃げ込んで、泣いた。
ごめんね竜二さん……
今の私にあなたの全てを受け止められる
度量はありません。
洗面台で顔を洗い、鏡に映った自分に向かって言う、
「しっかりしろ、和泉絢音」
私は利沙に連絡する前に各務グループ本社へ
電話をかけた。
『はい、株式会社各務でございます』
「社長の各務広嗣さんにお取り次ぎ願えますか」
『恐れ入りますがどういったご用件でしょう?』
「和泉とお伝え頂ければお分かりになると思います」
『少々お待ち下さい』と機械的な返答の後、
保留音が流れてきた。
待つこと数分 ――
『お待たせ致しました、私各務の秘書をしております
高田と申します』
「和泉と言います。突然で申し訳ございませんが、今日
各務さんはお時間おありでしょうか?」
『あいにく本日はスケジュールが詰まっておりますが、
明日の午後3時にこちらへお越し頂くお約束でも
宜しいでしょうか?』
「はい、結構です。では、明日の午後3時に」
あと1日こっちへ滞在する事になった。
各務本社は京都・嵯峨野にある。
電話を切って、大きく息を吐く。
これでいいんだ、もう、後戻りは出来ない……。
***** ***** *****
卒業間際になって進路は二転三転したが
結局地元へ戻っての進学に落ち着いて、
家族はようやくひと安心したようだ。
まだまだこれから心配要素は多々あって
前途多難ではあるけど、
これは自分で決めた道だから絶対途中で
投げ出したりはしない。
初音姉ちゃんが作ってくれた好物料理の数々に
舌鼓を打ち、家族で寛ぐ夕食後のひと時 ――
向かいに座った千尋義兄さんが広げている夕刊に
でかでかと掲載されてる一面記事に目が吸い付け
られた。
(絢音は千尋が広げている新聞を向かい側から
見ているので、必然的にその新聞紙の一面または
最後の面を見てるという事になる)
長年に渡って戦後日本の医薬品業界を牽引してきた
医薬品製造卸し会社”各務”は株主総会に先駆け
行われた役員会議で代表取締役常務・各務竜二氏の
懲戒解雇処分を正式に決定した ―― 尚、同氏は
代表取締役社長・各務広嗣氏の ……。
竜二さんの懲戒解雇処分 ――
サラリーマンにとってかなり厳しい処罰である
そんな文句があまりに衝撃的で。
後の文字は頭に入ってこなかった。
「う、そ……」
これは明らかに竜二さんのカミングアウトに対する
広嗣さんの制裁だと思った。
「ん? どうかしたのか?」
何も知らない千尋義兄さんが不思議そうな表情で
尋ねてきた。
「う、ううん。なんでもない」
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