CircuS

夜玖 弥生

文字の大きさ
上 下
4 / 5

“子供攫いのサーカス” ※ 流血表現 有

しおりを挟む
 彼女は、まだ若い少女だ。光り尖ったものを突き付けられて怖いわけがない。
 うれしかった。
 たとえ、刃物が胸に刺さり、赤い涙を垂らしても。うれしかったんだ。少しでも彼と笑いあえたことが。最後が彼であることが。
 彼女の目からは、透明でそれはそれは綺麗に輝く、皮肉にも彼女にぴったりな美しい雫が零れた。

 その日は、シャルムの……いや、シャルロット・マレーの十六の誕生日の前日だった。
 “子供攫いのサーカス”
 それは、子供しか攫われないからではない。子供しかいないからだ。
 そして彼は、何事もなかったかのように、いつもの笑顔を浮かべるんだ。


 昔々に、こんな話があったとさ。なんて残酷な話だろう?
 君が、信じようと信じまいと僕は知ったことじゃあないよ。だって僕は、通りすがりのピエロのお兄さんだからね。
 透明感のある白髪姿のピエロ男は不気味に笑って、その場を去った。



                     fin
しおりを挟む

処理中です...