3 / 3
本
しおりを挟む
ふと、彼女は思い出したようにバッグの中を漁り出す。どうしたんだろう?小さな疑問が生まれ、無意識のうちに首を傾げていた。
少女は焦ったようすで僕を見ると、ペンを持ったようにノックをしてから、空中を手で描いた。開いた手を前に出し、握りながら自分の方まで持ってくる。顔の前に手を持ってくれば、手と頭を下げた。
……どういう意味だろう。
ペン、お願いする?頭の中で必死に分かることを整理し、ペンを貸してほしい、という結論に結びついた。
ペン?と聞けば、案の定彼女は顔を効果音が聞こえるくらいに明るくさせ、めいっぱい頷いた。僕はそんな彼女を、可愛らしいなんて、思ってしまった。
自分のバッグの中からペンを取り出せば、僕のバッグの一部を熱心に見ている彼女。ごみでもついているだろうか?彼女の視線の先に目を向ければ、そこにはバスケットボールのストラップ。これは、バスケ部のみんなでお揃いにしているお守りみたいなものだ。僕の視線に気づいたのか、彼女はペンを受け取って微笑み、持っていたメモ用紙に何かを書いた。
ありがとう。
それだけの小さな言葉でも、僕の心は音を立てる。口元がだらしなく緩んでしまう。
少女は、さらにメモ用紙に書き足した。
私の名前は、世良。君の名前を聞いてもいいかな?この作者さんを好きって人に会ったの初めてでね。
綺麗な字。細長く繊細な女の子の字。こんなにも些細なことさえも、いいなって思っている僕がいる。僕は笑いながら小さな声で、桜汰って言うよと口にする。忘れていたが、此処は図書館である。普通の声のトーンでは、周りに迷惑がかかってしまう。声のトーンを落とした僕に、彼女はまた微笑んだ。彼女の髪が揺れる。目の茶色が印象づけられる。細く色白で、青みがかった薄い色のワンピースがよく似合っていた。
彼女の前に座ると、二人して作家さんについて話した。好きな人が一緒。それは奇跡的で、ついつい盛り上がってしまう。風景が目に浮かぶような書き方、目の前に登場人物が現れたような書き方、生きていないものさえも、生き物にしてしまう力。そんな魅力的な作家さんが大好きで。気づいた時には、もう閉館時間が迫っていたくらいだ。
くすくすと笑いながら、彼女は一枚の紙をくれた。それはさっきのメモ用紙。ペンと一緒に渡されたそれには、彼女の字で、世良 侑李という名前とメールアドレスが書いてあった。途中まで書かれた電話番号に斜線がひいてあるのは、喋れないということに気づいたからだろうか。
またねなんて言いそうな顔で、彼女は……世良は手を振った。僕も世良に手を振る。こんなにも仲良くなれるだなんて思ってもみなくて、小さくガッツポーズをしたこと、大好きな作家さんに感謝をしたことは、内緒にしておこう。
少女は焦ったようすで僕を見ると、ペンを持ったようにノックをしてから、空中を手で描いた。開いた手を前に出し、握りながら自分の方まで持ってくる。顔の前に手を持ってくれば、手と頭を下げた。
……どういう意味だろう。
ペン、お願いする?頭の中で必死に分かることを整理し、ペンを貸してほしい、という結論に結びついた。
ペン?と聞けば、案の定彼女は顔を効果音が聞こえるくらいに明るくさせ、めいっぱい頷いた。僕はそんな彼女を、可愛らしいなんて、思ってしまった。
自分のバッグの中からペンを取り出せば、僕のバッグの一部を熱心に見ている彼女。ごみでもついているだろうか?彼女の視線の先に目を向ければ、そこにはバスケットボールのストラップ。これは、バスケ部のみんなでお揃いにしているお守りみたいなものだ。僕の視線に気づいたのか、彼女はペンを受け取って微笑み、持っていたメモ用紙に何かを書いた。
ありがとう。
それだけの小さな言葉でも、僕の心は音を立てる。口元がだらしなく緩んでしまう。
少女は、さらにメモ用紙に書き足した。
私の名前は、世良。君の名前を聞いてもいいかな?この作者さんを好きって人に会ったの初めてでね。
綺麗な字。細長く繊細な女の子の字。こんなにも些細なことさえも、いいなって思っている僕がいる。僕は笑いながら小さな声で、桜汰って言うよと口にする。忘れていたが、此処は図書館である。普通の声のトーンでは、周りに迷惑がかかってしまう。声のトーンを落とした僕に、彼女はまた微笑んだ。彼女の髪が揺れる。目の茶色が印象づけられる。細く色白で、青みがかった薄い色のワンピースがよく似合っていた。
彼女の前に座ると、二人して作家さんについて話した。好きな人が一緒。それは奇跡的で、ついつい盛り上がってしまう。風景が目に浮かぶような書き方、目の前に登場人物が現れたような書き方、生きていないものさえも、生き物にしてしまう力。そんな魅力的な作家さんが大好きで。気づいた時には、もう閉館時間が迫っていたくらいだ。
くすくすと笑いながら、彼女は一枚の紙をくれた。それはさっきのメモ用紙。ペンと一緒に渡されたそれには、彼女の字で、世良 侑李という名前とメールアドレスが書いてあった。途中まで書かれた電話番号に斜線がひいてあるのは、喋れないということに気づいたからだろうか。
またねなんて言いそうな顔で、彼女は……世良は手を振った。僕も世良に手を振る。こんなにも仲良くなれるだなんて思ってもみなくて、小さくガッツポーズをしたこと、大好きな作家さんに感謝をしたことは、内緒にしておこう。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
フッてくれてありがとう
nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」
ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。
「誰の」
私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。
でも私は知っている。
大学生時代の元カノだ。
「じゃあ。元気で」
彼からは謝罪の一言さえなかった。
下を向き、私はひたすら涙を流した。
それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。
過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──
私と先輩のキス日和
壽倉雅
恋愛
出版社で小説担当の編集者をしている山辺梢は、恋愛小説家・三田村理絵の担当を新たにすることになった。公に顔出しをしていないため理絵の顔を知らない梢は、マンション兼事務所となっている理絵のもとを訪れるが、理絵を見た途端に梢は唖然とする。理絵の正体は、10年前に梢のファーストキスの相手であった高校の先輩・村田笑理だったのだ。笑理との10年ぶりの再会により、二人の関係は濃密なものになっていく。
忘れるにも程がある
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたしが目覚めると何も覚えていなかった。
本格的な記憶喪失で、言葉が喋れる以外はすべてわからない。
ちょっとだけ菓子パンやスマホのことがよぎるくらい。
そんなわたしの以前の姿は、完璧な公爵令嬢で第二王子の婚約者だという。
えっ? 噓でしょ? とても信じられない……。
でもどうやら第二王子はとっても嫌なやつなのです。
小説家になろう様、カクヨム様にも重複投稿しています。
筆者は体調不良のため、返事をするのが難しくコメント欄などを閉じさせていただいております。
どうぞよろしくお願いいたします。
【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る
金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。
ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの?
お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。
ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。
少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。
どうしてくれるのよ。
ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ!
腹立つわ〜。
舞台は独自の世界です。
ご都合主義です。
緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる