サイバーワールド

ドルドレオン

文字の大きさ
2 / 2

しおりを挟む
透の心臓がさらに速く鼓動を打つ。彼は目の前のモニターに目を戻し、もう一度、あのメッセージを読み返した。由香が送ったチャットの内容は不穏だ。最後の一文、「すべては、あなたが気づくのを待っていた。」 それが透の心を引き裂いた。

電話の向こうからは、由香の静かな声が聞こえる。

「透さん、どうしてそんなに驚いてるの?」

「君が送ったメッセージ…。本当に君が送ったんだよな?」

透は自分の言葉に戸惑いを感じながらも、冷静を装う。由香の反応がすぐに帰ってこなかった。やがて、彼女の声が電話越しに低く響く。

「もちろん。だけど、あなたがあのメッセージに気づくのを待っていたのは、私じゃない。透さん、あなたがその気になるのを。」

「それってどういう…?」

由香は一度、深く息を吐いた。まるで、この瞬間を待っていたかのように。

「いい加減に気づいて。私じゃない。犯人はあなたのすぐそばにいる。」

その言葉が透の心に重く響いた。彼の頭の中で、いくつかのパズルのピースがゆっくりと組み合わさっていくのを感じる。

「それってどういう意味だ?」

「今すぐ調べて。社内のログを、あなたが見落としているものを。あなたのチーム…透さん、あなた自身が一番知っている人たちが、あなたに真実を隠しているの。」

由香の声が急に冷たくなった。

「どうして…君がそんなことを知っているんだ?」

透は自分の言葉が硬直しているのを感じた。由香の言葉には、彼に対する確信と、どこか冷徹な響きがあった。

「知っているから、言ったのよ。」

その後、電話の向こうで一瞬の静寂が続く。

「透さん。あなたが犯人を見つけるためには、もっと目を開けなきゃ。どんなに隠しても、真実はすぐに表に出てくる。私が見てきたもの…それが証拠よ。」

その言葉が終わると同時に、電話が切れた。

透は硬直したまま、電話を握りしめていた。何かが、まるで彼の周囲を包囲しているような感覚に襲われる。彼の目の前のモニターに表示されたセキュリティログ。再びそれを開いてみるが、そこには不正アクセスの履歴が並んでいるだけだった。だが、その中に、明らかにおかしなものが紛れていた。

「こんな記録はなかったはずだ…」

透は目を細め、指先でスクロールしながらそのログを調べた。そしてついに、一行のデータが彼の目に留まった。

「アクセス元: 社内ネットワーク、内部アカウント」

それは、彼自身のアカウントであった。

「…俺?」

透は動けなくなった。信じられなかった。自分が犯人としてログに残されている? そんなはずはない。だが、ログには間違いなく彼のアカウント名が記録されている。

瞬時に彼は、由香の言葉を思い出す。「あなたのチーム、あなた自身が一番知っている人たちが、真実を隠している。」

もしこれが本当なら…自分が犯人として仕立て上げられているというのか?

その瞬間、透のスマートフォンが震え、またメッセージが届いた。

「あなたが気づいたのね。」

そのメッセージは、送り主が記されていなかった。しかし、すぐにその内容が透に衝撃を与えた。

「あなたが犯人じゃないことは分かっている。でも、今はそれを証明できる証拠がない。どうする?」

透は再び、あの由香の冷徹な声を思い出していた。由香が何を言いたかったのか、彼はついに理解した。それは挑戦状だった。犯人を見つけるためには、透自身が一歩一歩進まなければならない。

しかし、真実に辿り着くために、透は誰を信じれば良いのか、どこから調べれば良いのかも分からなかった。目の前に広がる迷宮に閉じ込められたような気分だった。

そして、そのとき。

「透さん。」

背後から声がした。

透は一瞬、硬直した。

振り返ると、そこに立っていたのは――
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

バーチャル女子高生

廣瀬純七
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

マグカップ

高本 顕杜
大衆娯楽
マグカップが割れた――それは、亡くなった妻からのプレゼントだった 。 龍造は、マグカップを床に落として割ってしまった。そのマグカップは、病気で亡くなった妻の倫子が、いつかのプレゼントでくれた物だった。しかし、伸ばされた手は破片に触れることなく止まった。  ――いや、もういいか……捨てよう。

秘められたサイズへの渇望

到冠
大衆娯楽
大きな胸であることを隠してる少女たちが、自分の真のサイズを開放して比べあうお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

処理中です...