月曜日の地下鉄

ドルドレオン

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『月曜日の地下鉄』

僕が彼女に初めて会ったのは、月曜日の朝だった。
東京メトロの副都心線、渋谷駅ホーム。午前7時43分。僕は決まってその時間の急行に乗る。
彼女はベンチに座って、文庫本を読んでいた。タイトルは見えなかった。けれど、その表紙には薄い青い空と、きちんと剪定された庭が描かれていた。それがどこか現実離れしていて、まるで絵画の中のワンシーンのようだった。

イヤホンからはビル・エヴァンスの《Peace Piece》が流れていた。
僕の月曜日の朝は、ほとんどいつもそれで始まる。
週末に何をしていたか、なぜ週末があんなにあっけなく終わってしまったのか、考えるにはもってこいの音楽だ。

彼女はふと顔を上げて、僕の方を見た。
そして、まるで僕の考えていたことをすべて見透かしているかのように、静かに笑った。
それは誰かが「ここではないどこか」から一瞬だけ顔を出したような笑みだった。

それから彼女は立ち上がり、何も言わずに僕の隣に立った。
ドアが開き、僕たちは同じ車両に乗り込んだ。

それがすべての始まりだった。
始まりというには、あまりに静かで、控えめで、ほとんど偶然のようだったけれど。
でも、世界が少しずつズレはじめる音を、僕は確かに聞いた気がした。
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