半分だけ形あるもの

ドルドレオン

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四度目の地下道は、これまででいちばん静かだった。通路には足音が吸い込まれ、照明は必要以上に柔らかい。僕はもう驚かなかった。ここが現れる理由も、消える条件も、理解しようとするのをやめていた。

角を曲がったところで、彼女がいた。

ベンチに腰かけ、古い革のバッグを膝に置いている。僕より一回りは年上だろう。髪には白いものが混じっているが、疲れた印象はない。時間を自分の速度で消費してきた人の顔をしていた。

「こんにちは」と彼女は言った。
「こんにちは」と僕も返した。

それだけで、しばらく沈黙が続いた。気まずさはない。沈黙が自然に座る場所を見つけた、という感じだった。

「あなたも探し物?」と彼女が訊いた。
「ええ。半分だけ形のあるものを」
彼女は少し笑った。「それ、私もよく言われる」

彼女が探しているのは、「使わなかった時間」だという。仕事でも家庭でもなく、ただ自分のために使えたはずの時間。その輪郭だけが、夜になると浮かび上がってくるらしい。

「取り戻したいわけじゃないの」と彼女は言った。「あったことを、確認したいだけ」

その言い方が、僕にはとても正確に思えた。

二人で歩き始めると、地下道は自然に二人用の幅になった。扉も、これまでより少ない。それぞれの扉の前で、彼女は立ち止まり、必ず僕の方を見た。

「先にどうぞ」
「一緒に入りましょう」

そうして入った「午後」と書かれた部屋では、窓から傾いた光が差し込んでいた。机の上には、途中まで編まれたセーターが置かれている。彼女はそれを手に取り、指先で糸をなぞった。

「完成させなかったものって、不思議ね」と彼女は言った。「完成しなかったからこそ、まだ可能性が残っている」

僕は何も言わなかったが、その言葉が、これまでの探索すべてと静かにつながるのを感じていた。

次の部屋では、何も起こらなかった。ただ、二人で同じ椅子に並んで座り、しばらく呼吸を合わせていた。彼女の呼吸は少しゆっくりで、それに合わせると、時間が伸びた。

「年が離れてると、変に気を遣うでしょう」と彼女が言った。
「いいえ」
それは事実だった。彼女といると、年齢という情報が、意味を持たなくなる。

地下道の終わりが近づくと、彼女は立ち止まった。
「私はここまでみたい」
「探し物は?」
「半分くらい、見つかった」

彼女はバッグから、小さな何かを取り出した。それは形を持たない。だが、確かに「あった」と言える重さだけがある。

「あなたは?」
「僕も、同じくらいです」

彼女は微笑んだ。その表情には、期待も後悔もなかった。ただ、共有した時間への満足があった。

別れ際、彼女はこう言った。
「たぶん、またどこかで同じ場所を探すわ」
「ええ。そのときは、また一緒に」

地下道を出ると、夕方だった。空の色が、午前とも夜ともつかない中間にある。僕は歩きながら、彼女の探していた時間と、自分の探していた未確定な何かが、同じ層に存在していたことを考えていた。

いい雰囲気というのは、何かが始まる予感ではない。何も始めなくても、すでに十分であるという感覚だ。

そのことを、彼女は僕より少しだけ先に知っていた。
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