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五度目の探索は、予告なく始まった。
朝、目を覚ますと、部屋の壁に小さな影が揺れていた。掛け時計の影ではない。カーテンの影でもない。形は定まらず、しかし確かに「何かがそこにある」と分かる揺れ方だった。
僕はコーヒーを淹れ、影が消えるのを待った。だが影は消えなかった。ただ、少しずつ薄くなっていく。まるで、役目を終えつつあるもののように。
地下道は、もう現れなかった。
代わりに、街の中で彼女を見つけた。小さな図書館の前だ。偶然ではないと思ったが、必然とも言えなかった。彼女は本を返却口に入れ、振り返って僕を見た。
「もう、探さなくていいみたいね」と彼女は言った。
「ええ。たぶん」
二人で歩き出す。行き先は決めない。歩幅は自然に合っていた。
「私ね」と彼女は言った。「探していた時間、見つけたの」
「どこで?」
「今」
それ以上の説明はなかったし、必要もなかった。
川沿いまで来ると、風が吹いた。水面に、午前と午後の境目の光が揺れている。彼女は立ち止まり、バッグを肩に掛け直した。
「半分だけ形のあるものって、きっと完全にならないのよ」
「ええ」
「でも、完全に失われることもない」
彼女はそう言って、軽く息を吸った。その横顔を見て、僕は思った。彼女が探していたのは、失われた時間ではなく、失われていないと確認できる場所だったのだ。
別れの言葉はなかった。彼女は先に歩き出し、振り返らなかった。だが、その背中には終わりの気配がなかった。きちんと続いていく人の背中だった。
僕は川を渡り、反対側の道を選んだ。振り返らない。振り返る必要がない。
部屋に戻ると、壁に何かが掛かっていた。白い紙だ。あのとき拾ったものに似ているが、今度は、何も書かれていないことが、はっきりと意味を持っていた。
僕はそれをそのままにした。
夜、コーヒーをもう一杯飲んだ。苦味と甘さの割合は、ちょうどよかった。もう調整する必要はない。
半分だけ形のあるものは、探し終えたのではない。生活の中に、静かに組み込まれただけだ。
それで十分だった。
朝、目を覚ますと、部屋の壁に小さな影が揺れていた。掛け時計の影ではない。カーテンの影でもない。形は定まらず、しかし確かに「何かがそこにある」と分かる揺れ方だった。
僕はコーヒーを淹れ、影が消えるのを待った。だが影は消えなかった。ただ、少しずつ薄くなっていく。まるで、役目を終えつつあるもののように。
地下道は、もう現れなかった。
代わりに、街の中で彼女を見つけた。小さな図書館の前だ。偶然ではないと思ったが、必然とも言えなかった。彼女は本を返却口に入れ、振り返って僕を見た。
「もう、探さなくていいみたいね」と彼女は言った。
「ええ。たぶん」
二人で歩き出す。行き先は決めない。歩幅は自然に合っていた。
「私ね」と彼女は言った。「探していた時間、見つけたの」
「どこで?」
「今」
それ以上の説明はなかったし、必要もなかった。
川沿いまで来ると、風が吹いた。水面に、午前と午後の境目の光が揺れている。彼女は立ち止まり、バッグを肩に掛け直した。
「半分だけ形のあるものって、きっと完全にならないのよ」
「ええ」
「でも、完全に失われることもない」
彼女はそう言って、軽く息を吸った。その横顔を見て、僕は思った。彼女が探していたのは、失われた時間ではなく、失われていないと確認できる場所だったのだ。
別れの言葉はなかった。彼女は先に歩き出し、振り返らなかった。だが、その背中には終わりの気配がなかった。きちんと続いていく人の背中だった。
僕は川を渡り、反対側の道を選んだ。振り返らない。振り返る必要がない。
部屋に戻ると、壁に何かが掛かっていた。白い紙だ。あのとき拾ったものに似ているが、今度は、何も書かれていないことが、はっきりと意味を持っていた。
僕はそれをそのままにした。
夜、コーヒーをもう一杯飲んだ。苦味と甘さの割合は、ちょうどよかった。もう調整する必要はない。
半分だけ形のあるものは、探し終えたのではない。生活の中に、静かに組み込まれただけだ。
それで十分だった。
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