1 / 5
1
しおりを挟む
「午後の図書館と、消えた象」
午後三時きっかりに、僕は図書館へ行った。
何か特別な目的があったわけじゃない。ただ、家にいるにはあまりにも風が完璧だったし、何かに追い立てられるような気分でもあった。そういう時、僕は図書館に避難することにしている。
図書館は古く、木の匂いが漂っていた。僕が十七のときから通っているから、もうかれこれ十五年になる。もちろん、棚の配置も、受付の女性の髪型も何度か変わったけれど、静けさだけは変わらなかった。
僕は二階の、窓際の席に腰を下ろし、村上春樹の『象の消滅』を読み始めた。ページをめくるたびに、時間が少しずつ歪んでいくような気がした。目を上げると、窓の外には実際に一頭の象が立っていた。
白い象だった。夢の中のように静かで、何も主張しない象だった。
僕はもう一度目を閉じ、深く息を吸った。開いたときには、象は消えていた。まるで最初からそこになどいなかったかのように。けれど、本のページは勝手にめくられ、まるで象が僕の代わりに読んでいたかのようだった。
その時、図書館の受付で聞き覚えのある声がした。
「象、見ませんでしたか?」
声の主は、十年前に僕の前から忽然と姿を消した、あの女の子だった。
午後三時きっかりに、僕は図書館へ行った。
何か特別な目的があったわけじゃない。ただ、家にいるにはあまりにも風が完璧だったし、何かに追い立てられるような気分でもあった。そういう時、僕は図書館に避難することにしている。
図書館は古く、木の匂いが漂っていた。僕が十七のときから通っているから、もうかれこれ十五年になる。もちろん、棚の配置も、受付の女性の髪型も何度か変わったけれど、静けさだけは変わらなかった。
僕は二階の、窓際の席に腰を下ろし、村上春樹の『象の消滅』を読み始めた。ページをめくるたびに、時間が少しずつ歪んでいくような気がした。目を上げると、窓の外には実際に一頭の象が立っていた。
白い象だった。夢の中のように静かで、何も主張しない象だった。
僕はもう一度目を閉じ、深く息を吸った。開いたときには、象は消えていた。まるで最初からそこになどいなかったかのように。けれど、本のページは勝手にめくられ、まるで象が僕の代わりに読んでいたかのようだった。
その時、図書館の受付で聞き覚えのある声がした。
「象、見ませんでしたか?」
声の主は、十年前に僕の前から忽然と姿を消した、あの女の子だった。
4
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる