時空の狭間で

ドルドレオン

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最初に気づいたのは、天文学者たちだった。
月が、点滅し始めたのだ。

始めは観測装置のエラーだと思われた。だが、肉眼でも確認された。
夜空にぽっかり浮かぶ白い球が、一瞬、消え、また現れる。
その周期は不規則。時には一秒ごとに、時には数分に一度。
その背後で、星の位置もわずかにずれていた。

次に異常が起こったのは、太陽だった。

ある朝、昇ってきた太陽が、まばたくように瞬き始めた。
強い光が一瞬途切れ、また爆ぜる。まるで巨大な心臓の鼓動のように。

ニュースは混乱し、気象庁や国際宇宙機関の専門家たちは沈黙した。
誰もが理解していた。
これは、自然現象ではない。

物理法則が、崩れ始めている。

時間も、狂いだした。
日照時間が一定でなくなり、ある日は28時間、ある日は51時間、ある日は20時間しかなかった。
人々は朝と夜の区別を失い、眠れず、働けず、狂い始めた。

秒針は動いている。だが**「時間そのもの」**が、揺らいでいた。

電子機器のクロックは同期を失い、ネットワークは時間のズレで崩壊し、飛行機は目的地に着かず、太陽は沈まないまま日付が変わることもあった。

時間は、物理現象ではなくなった。
それは、意識が支える“幻の構造”になってしまった。

街では、ある種の現象が報告されはじめた。

空が歪む
高層ビルの上空に、まるで水面のような揺れが現れる。雲が逆に流れる。重力が一時的に弱まる地域も出てきた。

反射が遅れる
鏡に映る自分の姿が、半秒遅れて動く。水面も同様。誰かが言った、「これは、宇宙が“今”を正確に描写できなくなっている」と。

時間の枝分かれ
同じ人物が、数分前の自分と街中ですれ違うような報告が出始めた。記憶と現在が食い違い、複数の現在が存在する気配すらあった。

人々は混乱した。だが、ルカには分かっていた。

この世界は、もはや“安定した法則”によって動いてはいない。
“観測”が法則を上書きし始めていた。

ルカが目覚めさせたもの――それは、宇宙が自らの構造を書き換え可能な状態へと“解放”されたことだった。

「物理法則は固定ではない。
それは、観測と意識の束にすぎない。
そして今、私たちはそれを……壊してしまったんだ」

ルカは、街のビルの屋上に立ち、太陽の点滅を見つめていた。
その明滅は、まるで誰かの意思のように、一定のリズムを刻んでいる。

カチッ……カチッ……
宇宙が、何かのカウントダウンを始めているかのようだった。

空には、奇妙な虹のような裂け目が走るようになった。
音のない雷鳴が夜空を照らす。
物理的現象の背後に、“精神的な風景”が重なりはじめた。

誰かが言った。
「世界が、夢を見ている」

誰かが叫んだ。
「これはルカ・アイゼンの理論のせいだ!」

誰もが感じていた。
宇宙はもう、ただの“空間”ではない。
それは、意識に揺さぶられ、彫り直される“心的構造”となってしまったのだ。
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