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『花は、まだ咲いていた』
春の終わり、古書店の片隅で、ふたりは出会った。
風見さくらは、静かな大学生。言葉よりも本が好きで、人との距離感に少し不器用だった。
一方、月島律は、毎日をまっすぐに生きる青年。何かを抱えているような、どこか遠くを見ている目をしていた。
さくらは、律が手に取った一冊の詩集を見て声をかけた。
「それ、私も好きです。…きれいな言葉が、心の奥に残るから。」
律は笑った。「きれいな言葉が残るって、いいな。」
それが、ふたりの始まりだった。
律はいつも決まった時間に店に現れて、少し話して、またふっと消えるように去っていった。
本の話、季節の話、何気ない言葉の交換の中で、さくらの心に律は少しずつ根を張っていった。
けれど、律には秘密があった。
彼の時間は、限られていたのだ。
ある日、律は言った。
「ねえ、花って、咲くときよりも、咲き終わる間際がいちばん美しいと思わない?」
さくらは、何も答えられなかった。
彼の笑顔が、どこか儚くて、痛かった。
律が最後に店に来た日、彼は一冊の本をさくらに手渡した。
それは、ふたりで語った詩集の中でも、特別な一冊だった。
ページの間に、一枚の写真がはさんであった。
満開の桜の下、どこかの坂道で、微笑むふたり。
それは、もうすぐ消えてしまう時間の、証だった。
そして春が過ぎても、さくらはその本をそっと開く。
彼が残した詩と、想いと、笑顔と――すべてがそこにある。
「花は、まだ咲いていた。」
彼女の胸の中で、今もずっと。
春の終わり、古書店の片隅で、ふたりは出会った。
風見さくらは、静かな大学生。言葉よりも本が好きで、人との距離感に少し不器用だった。
一方、月島律は、毎日をまっすぐに生きる青年。何かを抱えているような、どこか遠くを見ている目をしていた。
さくらは、律が手に取った一冊の詩集を見て声をかけた。
「それ、私も好きです。…きれいな言葉が、心の奥に残るから。」
律は笑った。「きれいな言葉が残るって、いいな。」
それが、ふたりの始まりだった。
律はいつも決まった時間に店に現れて、少し話して、またふっと消えるように去っていった。
本の話、季節の話、何気ない言葉の交換の中で、さくらの心に律は少しずつ根を張っていった。
けれど、律には秘密があった。
彼の時間は、限られていたのだ。
ある日、律は言った。
「ねえ、花って、咲くときよりも、咲き終わる間際がいちばん美しいと思わない?」
さくらは、何も答えられなかった。
彼の笑顔が、どこか儚くて、痛かった。
律が最後に店に来た日、彼は一冊の本をさくらに手渡した。
それは、ふたりで語った詩集の中でも、特別な一冊だった。
ページの間に、一枚の写真がはさんであった。
満開の桜の下、どこかの坂道で、微笑むふたり。
それは、もうすぐ消えてしまう時間の、証だった。
そして春が過ぎても、さくらはその本をそっと開く。
彼が残した詩と、想いと、笑顔と――すべてがそこにある。
「花は、まだ咲いていた。」
彼女の胸の中で、今もずっと。
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