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僕の部屋の隅には、名前を失くしたレコードが一枚ある。
ラベルには何の文字も書かれていない。ただ真っ白な紙の円があるだけだ。誰が演奏しているのかも、いつの録音なのかもわからない。
でも、音だけは確かに存在している。
最初にそのレコードを手に入れたのは、駅の裏にある古道具屋だった。
「これは記憶の音楽です」と店主の老人は言った。「あなたが聴くまで、それがどんな音楽かはわからない」
意味がわからなかったが、僕はそれを買った。たぶん、買わなければならない気がしたからだ。そういうことは、ときどき起こる。理由もなく、ただ「そうすべきだ」と感じる瞬間がある。
家に帰ってターンテーブルに乗せてみると、ゆっくりと針が落ちて、音楽が始まった。
それは静かなピアノの旋律だった。
シンプルで、少しだけ悲しく、そして何かを呼びかけるような音だった。
その夜、僕は不思議な夢を見た。
知らない街の、知らない部屋で、僕は一人の女性と向かい合っていた。
彼女はワインレッドのワンピースを着ていて、窓の外には古い観覧車がゆっくりと回っていた。
「あなた、私の名前を知らないでしょう」
彼女は言った。
「知らない。でも、知っていた気がする」
「じゃあ、思い出してみて」
僕は目を閉じた。でも、何も浮かばなかった。ただ、その声と、彼女の目の色だけがやけに強く印象に残っていた。
目が覚めたのは午前3時過ぎだった。窓の外では風が強く吹いていた。
ターンテーブルは止まっていて、部屋には静けさだけがあった。
僕はキッチンでコーヒーを淹れ、トースターでパンを焼いた。
時計の音がやけに大きく聞こえた。
そのとき、ふと玄関の方で何かが動く音がした。
誰かがドアの前に立っている気配があった。
僕はスリッパを履いて、ゆっくりとドアに近づいた。
ドアを開けると、誰もいなかった。
ただ一枚の紙が、ドアノブに結ばれていた。
「名前を探して。あの音楽の先に」
紙にはそう書かれていた。文字は見覚えのある筆跡だった。
でも、誰のものかはどうしても思い出せなかった。
ラベルには何の文字も書かれていない。ただ真っ白な紙の円があるだけだ。誰が演奏しているのかも、いつの録音なのかもわからない。
でも、音だけは確かに存在している。
最初にそのレコードを手に入れたのは、駅の裏にある古道具屋だった。
「これは記憶の音楽です」と店主の老人は言った。「あなたが聴くまで、それがどんな音楽かはわからない」
意味がわからなかったが、僕はそれを買った。たぶん、買わなければならない気がしたからだ。そういうことは、ときどき起こる。理由もなく、ただ「そうすべきだ」と感じる瞬間がある。
家に帰ってターンテーブルに乗せてみると、ゆっくりと針が落ちて、音楽が始まった。
それは静かなピアノの旋律だった。
シンプルで、少しだけ悲しく、そして何かを呼びかけるような音だった。
その夜、僕は不思議な夢を見た。
知らない街の、知らない部屋で、僕は一人の女性と向かい合っていた。
彼女はワインレッドのワンピースを着ていて、窓の外には古い観覧車がゆっくりと回っていた。
「あなた、私の名前を知らないでしょう」
彼女は言った。
「知らない。でも、知っていた気がする」
「じゃあ、思い出してみて」
僕は目を閉じた。でも、何も浮かばなかった。ただ、その声と、彼女の目の色だけがやけに強く印象に残っていた。
目が覚めたのは午前3時過ぎだった。窓の外では風が強く吹いていた。
ターンテーブルは止まっていて、部屋には静けさだけがあった。
僕はキッチンでコーヒーを淹れ、トースターでパンを焼いた。
時計の音がやけに大きく聞こえた。
そのとき、ふと玄関の方で何かが動く音がした。
誰かがドアの前に立っている気配があった。
僕はスリッパを履いて、ゆっくりとドアに近づいた。
ドアを開けると、誰もいなかった。
ただ一枚の紙が、ドアノブに結ばれていた。
「名前を探して。あの音楽の先に」
紙にはそう書かれていた。文字は見覚えのある筆跡だった。
でも、誰のものかはどうしても思い出せなかった。
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