異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜

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第10話 学内ランキング最下位

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 教室内のざわつきはいまだ収まらないが、教壇にいる矢部先生は特に気にする様子もなく先ほど配布したスマホのようなものを手に取り説明を続ける。

「次はこのデバイスだ。これは学園での様々な手続きや情報収集に使用する。例えるならダンジョンへの入場申請や学園から発行されているクエストの受注、あとは学生の個人プロフィールや学内ランキングの確認などができる。使い方は同梱してある説明書をチェックしろ」

 デバイスが入っていた箱の中に小冊子が入っていてぱらぱらとめくってみると、図解付きで様々な用途が詳しく説明してある。どうせならと冊子を確認しつつデバイスを触っていく。

 どうやらこの端末でどの学生がダンジョンへ潜ったか、クエストの受理、報告などの雑務を管理しているようだ。

 確かに異世界の冒険者ギルドではクエストの受注も報告も受付に並ばなければならず、混んでいる時間帯では大変時間がかかった。それらの苦労をなかったかのように、どこでも手元から楽に処理できるのは異世界の冒険者に対する冒涜かもしれない。テクノロジー万歳。

 またダンジョンの情報が載っているページもあり、誰かが公開情報として登録しているダンジョンの情報や地図が取得できるようだ。

 ダンジョンの情報が事前に取得出来てマップや生息するモンスターや設置されている罠などを先に知ることができるのは大きい。異世界ではギルドが販売している地図を購入して、先達の冒険者に交渉さけをごちそうして手に入れた情報を書き記していたものだ。

 冊子によると学生のプロフィールが登録されているページにはその人の得意スキルや戦闘スタイル、冒険者等級や学内ランキング、そしてレベルなどが記載されているらしい。

 自分のページを確認してみたところ得意スキルや戦闘スタイルは空欄となっていて自分で編集ができるようだ。反対に冒険者等級と学内ランキングとレベルはそれぞれ銅級、640位、1レベルと表記されていて、手動で編集をすることができず自動で更新されるみたいだ。

 ここで先ほどプレートタグの質問をした男子生徒が学内ランキングについても質問をする。

「矢部先生、学内ランキングはどのように決まるのですか?」

「学内ランキングは冒険者等級と同様に冒険の戦利品を学園に納めることでポイントが貯まっていく。または他の生徒とポイントを賭けて決闘をすることもできるので、強さに自信があったら決闘で他人のポイントを奪ったほうが早くランキングを上げることができる」

 学内ランキングはあくまで学園内での序列として機能しているようで冒険者等級とはイコールではないようだ。ダンジョンでの成果物を学園に納品すると学内ランキングのポイントを多めにもらえて、ダンジョン庁と提携している窓口に納品をすると冒険者等級のポイントが多めにもらえるシステムになっているらしい。

 確かに自分のプロフィールの学内ランキングの下に500ポイントという数字が記載されている。これの数値に応じてランキングが変動するようだ。

 また生徒同士でこのポイントを賭けて決闘を行うこともできるようで、ランキングを上げるには決闘が早いらしいが実力が足りていないと勝てるわけもないので、結局は実力相応のところに落ち着くのではないであろうか。というよりこのシステムだと決闘相手は実力の近いもの、つまり同じクラス内での内輪もめになるだけなのでは?

「ちなみにAクラス以外は同じクラスの相手に対して決闘をすることは禁止されている。もともと決闘は上位クラスとの入れ替えのために行われていたもので、同クラスのポイントを集めて上のクラスへ上がることを防ぐためである」

 どうやら上のクラスへ上がるためには上位クラスの誰かのポイントを超えなければならないようだが、同じクラスメイトのポイントを集めるような真似は駄目なようだ。ひとまずクラスメイト同士で決闘騒ぎが起きなさそうで一安心だ。

 Fクラスは外部生が集まっていて、Fクラスの1位とEクラスのビリを比較しても大分ポイント差がついている。やはり中等部の3年間というアドバンテージは大きそうだ。

 自分のプロフィールを確認した時からずっとスルーをしていたが、僕の学内ランキング640位タイであり実質的には最下位であった。

(最下位かぁ。……また周りに置いて行かれるのは嫌だな)

 異世界で勇者のみんなについていけなかった寂寥感を思い返す。あのような思いはもう味わいたくないのでこっちでも努力は怠らないようにしようと胸に誓う。

(……でも程々でいいな。決闘は極力やらない方針で300位あたりに収まればいいかな)

 頑張ろうと意気込んだが頂点を目指す気概がでない自分に苦笑する。想像上の師匠が「ワシの弟子なのに情けない!」と怒っている。……ごめん師匠、僕はそんなに好戦的にはなれないです。

「……説明は以上だ。今日は各自自由に過ごすがいい。帰宅するもよし、パーティーを結成するもよし、訓練場で訓練するもよし、学園を見て回るもよいだろう」

 そう言って教室から出ていく先生が扉に手をかけたとき、足を止め背中越しに僕たちに忠告をしてきた。

「……自由にしろと言ったが、まだダンジョンに潜るのはやめておけ。昨年は初日からダンジョンに挑んだFクラスに怪我人が出ている」

 そう言い残し教室から出ていく先生。先生の忠告はもっともであり、何の準備もなしにダンジョンに潜るのは自殺行為である。

 最低でも装備を整え、道具を用意し、護身がこなせる程度の実力はないとモンスターと出会った瞬間に逃げることもできずに終わる。ダンジョン探索は下準備が重要なのだ。

「そうはいっても冒険者になったことだし、折角ならダンジョンに行きたいよな」

「でも先生がやめておけって言ってたよ、危ないんじゃない?」

「あんなの脅しに決まってるだろ、俺たちはランキング最下位なんだから初日からポイントを稼がないと」

 先生の忠告を無視したうえで何の準備もなしにダンジョン探索するやつはいないであろうと思っていたが、どうやら僕の読みは外れたようだ。

 元々知り合い同士なのであろう男子2人と女子1人の3人組はパーティー申請とダンジョン探索の申請を手早く済ませ、意気揚々と教室を後にしていく。

 彼らを引き留めようと伸ばした手は宙に浮いたままで、僕は彼らを見送ることしかできなかった。
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