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第42話 1階層の地図
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「おにぃ、今日はこれからどうするの?空いている狩場を探す?」
「戦闘をある程度こなしておきたいけれど……まぁひとまずは付いてきてもらおうかな」
妹とふたり並んで学園ダンジョン1階層への階段を下りたところで妹が今後の予定について確認してくる。考えてみれば妹には未探索領域のことを話していなかったので、空いている狩場を探してモンスターを倒すものだと考えていたのかもしれない。未探索領域のことを伝えようにもダンジョン出口前の広場は人の目が多いので、ひとまず妹を人気の少ない通路のほうに誘導していく。
「おにぃ結構いい装備してるよね。さっきの買い物も奢ってもらったし……もしかして宝箱を見つけていいものが出たの?」
「そうだな……確かに宝箱は見つけたし、中身もいいものだったかな」
「え~いいなぁ。私まだ宝箱を見つけたことないよ!」
「まぁ、そればっかりは運だよな」
どうやら妹は僕が宝箱を見つけ、そこから手に入れたアイテムを売却したことで装備の資金を手に入れたと思っていたようだ。売却こそしていないが宝箱を見つけたことと中身のナイフは良いものであったのは事実である。
やはり宝箱の出現は稀なうえ競争率も高いようで、そこそこの回数ダンジョンに潜っているはずの妹でも見たことはないらしい。妹のためにも今日探索する場所に宝箱があることを願っておくとしよう。
通路を進んでいき、ちょうどデバイスで共有されている地図の切れ目あたりで人の気配がなくなってきたので、そろそろ妹にも未探索領域のことを話そうと声をかける。
「それじゃあこれからのことなんだけど、この先を探索するつもりだよ」
「この先って……壁だよ?」
「……え?」
後ろを振り返り目の前に続く通路を示しながらこれからの予定を話すと、妹の口からは予想だにしなかった返事が返ってきた。慌てて前を向き通路の先を見てみるが、もちろんそこに壁などは存在しておらず通路が続いている。しかし妹の表情からも冗談を言っているようには見えないため、ゆっくりと通路の先に進んでいくと妹が突然声を上げる。
「あ!おにぃが壁の中に消えちゃった!」
「声は届いてるか?」
「うん。声は聞こえるよ。あれ?これ壁じゃないの?」
どうやら妹にはここに壁があるように見えるらしい。その壁はある程度進んだ僕の姿が見えないが会話ができたことから考えると、音は遮ってはいないようだが視覚を遮っているみたいだ。一度妹の元まで戻って再度通路の先を示しながら確認をとる。
「あの奥に通路が続いているんだけど、瑠璃には見えないのか?」
「うん。只の行き止まりにしか見えないよ。逆におにぃは壁が見えてないの?」
「そうだね。僕には壁は見えてないよ」
何故僕と妹の間に壁の可視性の違いがあるのかは不明だが、おそらくこれが1階層の未探索領域が生まれた原因かもしれない。他の人にもここが行き止まりに見えてしまうのであれば地図がここで途切れている事にも納得がいく。おそらくデバイスに登録されていた地図は皆にとって完成された地図であったのだろう。
……そうなると僕が初めに1階層の未探索領域を探索しようと考えるきっかけとなった、デバイスから手に入れた情報は何だったのであろうか。皆もあの情報を確認していれば未探索領域の存在に気が付かないはずがない。
(そもそも僕は初めて地図を確認した時になんで未完成だと確信したんだ?)
以前もこのようなことがあったような気がする。そのような既視感を覚えながらも次から次へと膨れ上がる謎に対して脳の大半のリソースを使い思考をしているところで、後ろにいる妹から疑問の声があがる。
「これ、私も通れるのかな?」
妹の言葉に先ほどまで考えていたことを一旦投げ捨て、目の前の問題に集中する。たしかに妹には見えている壁を妹自身が通り抜けられないのであれば、今日の探索予定の変更をしなければならないし、目標であった地図の作成も意味がなくなってしまう。
「……ひとまず通り抜けられるか試してみるか」
「うん。……でも自分から壁にぶつかりに行くのはちょっと怖いかも」
「確かにそうか。……じゃあ手を繋いで僕から入ってみようか」
そう提案をして持っていたメイスを腰に片づけて空いた右手を妹に差し出す。右手を空けたのはいざという時は左手のバックラーのほうが守りやすいからである。妹は少し照れた様子で僕の右手をとり、僕を先頭にふたりで壁があると思われる方向にゆっくりと進んでゆく。
「わぁ。ホントに通路が続いてる!おにぃこれをよく見つけたね!」
「何故か僕は壁が見えてなかったからね」
「そういえばそうか。……でもすごいよ!」
結果として妹は無事に壁を通り抜けることができ、先に続いている通路に大興奮している。妹がこんなにも喜んでいるのを見るとサプライズを仕掛けたのかと勘違いをしてしまいそうだ。……壁だと思っていたところを通り抜ける、サプライズには十分かもしれない。
「それでここから先を探索する予定なんだけど、ひとまずはこれを見てくれ」
「え!?これもしかして手書きの地図!すごい!なんかゲームみたいだね!……というかおにぃ、ひとりでこんな楽しそうなことしてたなんてズルい!!」
「ごめんごめん。瑠璃も訓練とかで忙しそうだったから誘いづらくてさ」
「む~。そうだけど、こんな楽しそうなことなら参加したかったぁ~」
「まあまあ、今日はこの完成してないところを探索するからそれで勘弁してくれ」
「……わかった!誰も行ったことがない初めての場所を探索するなんて楽しみ!」
妹に手書きの地図を見せて今日の探索で完成させたいことを説明する。僕がひとりで未探索領域を探索していたことに気が付いた妹はへそを曲げたが、これから向かうところが初めての場所であることを説明して何とか宥めることに成功する。
「一応何があるかわからないから気を付けるんだぞ」
「は~い!」
未探索の場所にはお宝があるかもしれないが、あの悪魔と同じようなモンスターがいる可能性も否めない。十分気を付けるつもりではあるが、危険が迫った際には自分の身を犠牲にしてでも瑠璃を守る。そう心に誓いながら上機嫌で歩いている妹の後姿を追いかけるのであった。
「戦闘をある程度こなしておきたいけれど……まぁひとまずは付いてきてもらおうかな」
妹とふたり並んで学園ダンジョン1階層への階段を下りたところで妹が今後の予定について確認してくる。考えてみれば妹には未探索領域のことを話していなかったので、空いている狩場を探してモンスターを倒すものだと考えていたのかもしれない。未探索領域のことを伝えようにもダンジョン出口前の広場は人の目が多いので、ひとまず妹を人気の少ない通路のほうに誘導していく。
「おにぃ結構いい装備してるよね。さっきの買い物も奢ってもらったし……もしかして宝箱を見つけていいものが出たの?」
「そうだな……確かに宝箱は見つけたし、中身もいいものだったかな」
「え~いいなぁ。私まだ宝箱を見つけたことないよ!」
「まぁ、そればっかりは運だよな」
どうやら妹は僕が宝箱を見つけ、そこから手に入れたアイテムを売却したことで装備の資金を手に入れたと思っていたようだ。売却こそしていないが宝箱を見つけたことと中身のナイフは良いものであったのは事実である。
やはり宝箱の出現は稀なうえ競争率も高いようで、そこそこの回数ダンジョンに潜っているはずの妹でも見たことはないらしい。妹のためにも今日探索する場所に宝箱があることを願っておくとしよう。
通路を進んでいき、ちょうどデバイスで共有されている地図の切れ目あたりで人の気配がなくなってきたので、そろそろ妹にも未探索領域のことを話そうと声をかける。
「それじゃあこれからのことなんだけど、この先を探索するつもりだよ」
「この先って……壁だよ?」
「……え?」
後ろを振り返り目の前に続く通路を示しながらこれからの予定を話すと、妹の口からは予想だにしなかった返事が返ってきた。慌てて前を向き通路の先を見てみるが、もちろんそこに壁などは存在しておらず通路が続いている。しかし妹の表情からも冗談を言っているようには見えないため、ゆっくりと通路の先に進んでいくと妹が突然声を上げる。
「あ!おにぃが壁の中に消えちゃった!」
「声は届いてるか?」
「うん。声は聞こえるよ。あれ?これ壁じゃないの?」
どうやら妹にはここに壁があるように見えるらしい。その壁はある程度進んだ僕の姿が見えないが会話ができたことから考えると、音は遮ってはいないようだが視覚を遮っているみたいだ。一度妹の元まで戻って再度通路の先を示しながら確認をとる。
「あの奥に通路が続いているんだけど、瑠璃には見えないのか?」
「うん。只の行き止まりにしか見えないよ。逆におにぃは壁が見えてないの?」
「そうだね。僕には壁は見えてないよ」
何故僕と妹の間に壁の可視性の違いがあるのかは不明だが、おそらくこれが1階層の未探索領域が生まれた原因かもしれない。他の人にもここが行き止まりに見えてしまうのであれば地図がここで途切れている事にも納得がいく。おそらくデバイスに登録されていた地図は皆にとって完成された地図であったのだろう。
……そうなると僕が初めに1階層の未探索領域を探索しようと考えるきっかけとなった、デバイスから手に入れた情報は何だったのであろうか。皆もあの情報を確認していれば未探索領域の存在に気が付かないはずがない。
(そもそも僕は初めて地図を確認した時になんで未完成だと確信したんだ?)
以前もこのようなことがあったような気がする。そのような既視感を覚えながらも次から次へと膨れ上がる謎に対して脳の大半のリソースを使い思考をしているところで、後ろにいる妹から疑問の声があがる。
「これ、私も通れるのかな?」
妹の言葉に先ほどまで考えていたことを一旦投げ捨て、目の前の問題に集中する。たしかに妹には見えている壁を妹自身が通り抜けられないのであれば、今日の探索予定の変更をしなければならないし、目標であった地図の作成も意味がなくなってしまう。
「……ひとまず通り抜けられるか試してみるか」
「うん。……でも自分から壁にぶつかりに行くのはちょっと怖いかも」
「確かにそうか。……じゃあ手を繋いで僕から入ってみようか」
そう提案をして持っていたメイスを腰に片づけて空いた右手を妹に差し出す。右手を空けたのはいざという時は左手のバックラーのほうが守りやすいからである。妹は少し照れた様子で僕の右手をとり、僕を先頭にふたりで壁があると思われる方向にゆっくりと進んでゆく。
「わぁ。ホントに通路が続いてる!おにぃこれをよく見つけたね!」
「何故か僕は壁が見えてなかったからね」
「そういえばそうか。……でもすごいよ!」
結果として妹は無事に壁を通り抜けることができ、先に続いている通路に大興奮している。妹がこんなにも喜んでいるのを見るとサプライズを仕掛けたのかと勘違いをしてしまいそうだ。……壁だと思っていたところを通り抜ける、サプライズには十分かもしれない。
「それでここから先を探索する予定なんだけど、ひとまずはこれを見てくれ」
「え!?これもしかして手書きの地図!すごい!なんかゲームみたいだね!……というかおにぃ、ひとりでこんな楽しそうなことしてたなんてズルい!!」
「ごめんごめん。瑠璃も訓練とかで忙しそうだったから誘いづらくてさ」
「む~。そうだけど、こんな楽しそうなことなら参加したかったぁ~」
「まあまあ、今日はこの完成してないところを探索するからそれで勘弁してくれ」
「……わかった!誰も行ったことがない初めての場所を探索するなんて楽しみ!」
妹に手書きの地図を見せて今日の探索で完成させたいことを説明する。僕がひとりで未探索領域を探索していたことに気が付いた妹はへそを曲げたが、これから向かうところが初めての場所であることを説明して何とか宥めることに成功する。
「一応何があるかわからないから気を付けるんだぞ」
「は~い!」
未探索の場所にはお宝があるかもしれないが、あの悪魔と同じようなモンスターがいる可能性も否めない。十分気を付けるつもりではあるが、危険が迫った際には自分の身を犠牲にしてでも瑠璃を守る。そう心に誓いながら上機嫌で歩いている妹の後姿を追いかけるのであった。
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