義姉をいびり倒してましたが、前世の記憶が戻ったので全力で推します

一路(いちろ)

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第三話 婚約者オーディションは私が仕切ります

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王都では毎年、名家の令嬢や子息を集めた「婚約者品評会」なる恐ろしい催しが開かれる。
公には「社交パーティ」と呼ばれるが、実際は縁談の場であり、親や仲人たちが水面下で条件を探り合う熾烈な戦場だ。

今年、その招待状が我が家にも届いた。
宛先はもちろん――我が推し、義姉セリーヌ・ブランシュ。

「……品評会なんて、あまり好きじゃないのだけれど」

招待状を手にした義姉は、困ったように微笑む。

「相手の人柄より、家柄や財産ばかり見られる場だから……」

(推しの清らかな心、マリア像レベル……!)

私は即座に机を叩いた。

「セリーヌ様、ご安心ください! 今年の品評会は、このアリシアが全面監督いたします!」
「……え?」
「推しの伴侶選びに、不良物件を混入させるわけにはまいりません!」
「いや、監督って……あなた出席するだけよね?」
「出席するだけ」では終わらせないのがオタク魂である。

当日、会場はきらびやかな衣装と笑顔で満ちていた。
壁際には豪華な食事と楽団、中央には舞踏のための広いスペース。
その一角に、これ見よがしに立つ十数人の若き紳士たち――全員がセリーヌ様の婚約候補だ。

(なるほど……顔面偏差値は悪くない。でも、推しの相手には“心”が重要なのよ!)

私は手帳を取り出し、項目を確認した。

清潔感チェック

推しへの態度観察

金銭感覚(ケチ/浪費家NG)

家族仲(姑ポジ確認)

ペットに優しいかどうか(重要)

「……何をしているの?」

義姉が小声で尋ねる。

「ええ、推しフィルターを通して候補を厳選しております」
「推しフィルター……?」

まず一人目、公爵家の長男に突撃インタビュー。

「ご趣味は?」
「乗馬と狩猟だね」
「では、もしセリーヌ様が風邪を引いたら?」
「……侍女に任せるだろう」
「はい脱落ー!」

次、侯爵家の次男。

「お小遣いは月いくら?」
「成人男性に小遣いの概念はないが……三百金貨くらいか」
「それを全額推しに使えますか?」
「は?」
「はい脱落ー!」

次々と「脱落!」の声が飛び、候補者たちは怪訝な表情で私を避け始めた。

しかし、会場の隅でひとりの青年に目が留まった。
背筋を正し、義姉が談笑する使用人にもきちんと挨拶をしている。

(……推しへの態度、満点。笑顔も自然。好感度、仮合格)

私はにじり寄り、質問を投げた。

「もしセリーヌ様が突然、大量の犬を保護してきたら?」
「……まずは犬たちの健康を確認し、屋敷の庭を改修しますね。セリーヌ様が望まれるなら」
「……!」

私の心に雷が走った。

(この男、合格圏内……!)

だがその時、事件は起きた。
別の令嬢が、義姉のドレスにわざとワインをこぼしたのだ。

「あら、ごめんなさい。足が滑ってしまって」

(またお前か……!)

私は即座に前に出た。

「皆様、注目! 今ここで推しのドレスを汚すとは、許されざる大罪です!」

会場がざわめく中、ワインをこぼした令嬢が顔をしかめる。

「……そんな大げさな」
「大げさ? ならば今、あなたのドレスにも同じことを――」
「やめなさい!」

義姉が慌てて私の腕を掴んだ。
私は深呼吸し、笑顔でワイン染みを隠すように自分のショールを掛ける。

「セリーヌ様は何も悪くありません! 皆様、この天使のようなお方をどうか正しく評価してください!」

その後、件の青年がさりげなく義姉にハンカチを差し出した。
義姉は驚いたように受け取り、小さく微笑む。

(……推しが笑った。今日のミッション、成功だな)

帰りの馬車で、義姉がぽつりと言った。

「……あなたが必死になる理由、少しだけわかってきたかもしれないわ」
「そうですか! ではこれからも監督役を――」
「……いや、それは遠慮しておくわ」

軽く笑われながらも、その笑顔は前より柔らかく見えた。

(うん……推し活、着実に進行中!)
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