義姉をいびり倒してましたが、前世の記憶が戻ったので全力で推します

一路(いちろ)

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第四話 温泉旅行で推しの入浴は尊すぎる

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季節は初夏。
王都を離れた山間の温泉地へ、父の計らいで義姉セリーヌと小旅行に出かけることになった。

「たまには気分転換も必要でしょう。セリーヌもアリシアも、ゆっくりしてきなさい」

父の言葉に、私は即座に拳を握る。

(やったああああ!! これは尊い推しと二人きり旅行フラグ! 温泉=癒やし=浴衣姿イベント! 尊死必至!)

興奮を隠しきれない私は馬車の中でも落ち着かず、ひたすら温泉ガイドブックを読み上げていた。

「セリーヌ様! ここの名物は『薔薇風呂』だそうです! 推しが花に囲まれる光景、想像するだけで眼福です!」
「……落ち着きなさい、アリシア。まだ到着してもいないのに」

呆れた声すら、天使の歌声にしか聞こえなかった。

宿に到着すると、女将がにこやかに出迎えてくれた。
木造の宿は落ち着いた雰囲気で、窓の外には川のせせらぎが響く。

「まあ……素敵な場所ね」

義姉が感嘆の声をあげる。
その横顔に私はうっとりした。

(浴衣姿が待ってると思うと、心臓が持たない……!)

夕食後、ついに入浴タイムがやってきた。
女将に案内され、湯けむり漂う露天風呂へ。
夜空には満天の星。

「わあ……綺麗……」

湯に浸かった義姉が、頬をほのかに紅潮させて空を見上げる。
私は湯船の端でそっと拳を握った。

(尊い! 尊い!! 推しが温泉で星空見上げてる!! 写真に撮りたい……でも脳内保存するしかない! 網膜レコーダー、フル稼働!!)

義姉は私の様子に気づいて微笑む。

「アリシア、本当に楽しそうね」
「ええ! 推しと一緒に温泉なんて、前世の私に自慢したら泡吹いて倒れるレベルです!」
「……やっぱり、よくわからないわ、その“推し”っていうのは」

くすくすと笑う義姉の姿は、湯気越しでも女神だった。

しかし、事件は起きる。
湯船の外で物音がして、黒装束の影がちらりと動いた。

「……! セリーヌ様、下がって!」

私は咄嗟に湯から飛び出し、バスタオル一枚で立ちはだかる。
忍び込んできたのは盗賊の一味らしく、宿の金品を狙っていた。

「女性しかいないと思って油断したか!? だがここには推しを守る狂信者がいるんだよぉぉぉ!!」

盗賊が目を丸くする。

「な、なんだこの娘……!」
「私は推しのガーディアン! 尊さを傷つける者は許さん!!」

近くにあった桶を武器代わりに振り回し、必死に盗賊を追い払った。
悲鳴を上げて逃げる彼らに、私は勝ち誇る。

「ふははは! 推しの安全は私が守った!!」

振り返ると、義姉がぽかんと私を見ていた。
頬は赤いが、たぶん温泉のせいではない。

「……アリシア、本当に……あなたは何なの?」
「推し活戦士です!」

胸を張ると、義姉は吹き出して笑った。

「ふふ……馬鹿みたい。でも、ありがとう」

その笑顔に、私は一瞬で溶けて湯気になりそうだった。

その夜、布団に入った後。
義姉がぽつりと呟いた。

「……私ね、あなたに嫌われていると思っていたの。最初は」
「……」
「でも今は……少し、信じられる気がするわ。あなたの言葉の意味はまだ全部わからないけれど……心は本当なんだって」

暗闇の中で微笑む気配がした。
私は胸が熱くなり、布団を握りしめる。

(やった……! 推しの信頼度、確実に上がってる!)

心の中でガッツポーズを決めながら、私は眠りについた。

翌朝。
旅館の庭でセリーヌ様が朝日を浴びて微笑んでいる姿を見て、私は強く誓う。

(絶対に、推しを幸せにする。誰よりも、何よりも)

温泉旅行は、私にとって尊死寸前の至福と、推しの信頼度アップという最高の成果をもたらしたのだった。
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