義姉をいびり倒してましたが、前世の記憶が戻ったので全力で推します

一路(いちろ)

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第八話 明かされる黒幕

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アルノー卿の影を追って数日。
私は昼夜を問わず、屋敷の書庫にこもり、文書を洗い出していた。
財産の相続記録、政略結婚の過去の調停、親族の系譜……。

(必ず何かある。推しを狙う理由は、“血統”だけじゃない……!)

焦燥感に胸を焼かれながら、積み上げられた羊皮紙をめくる。
やがて、ある名が繰り返し浮かび上がった。

――「公爵・ローレンス」

その人物はセリーヌ様の後見人であり、母方の親族でもある。
普段は温厚で知られ、政界でも影響力を持つ大物だ。
だが、記録を追えば追うほど、違和感が膨らんでいく。

「……寄付金の流れ、軍備資金の不自然な増減……これ、全部……」

点と点が線を結ぶ。
アルノー卿は駒にすぎず、その背後には――公爵本人がいる。

その夜。
私はこっそりとセリーヌ様の部屋を訪れた。

「……アリシア? こんな時間にどうしたの?」

月明かりに照らされる義姉は、相変わらず穏やかな微笑を浮かべている。
だが、私は言葉を選びながら切り出した。

「……セリーヌ様。どうか驚かずに聞いてください。
あなたを狙う黒幕は……ローレンス公爵です」

空気が、一瞬にして凍りついた。

「……そんな、はずないわ。だって、伯父様はいつも私を守ってくれて……」
「ええ、そう見えるように振る舞っていただけです!」

私は拳を握りしめる。

「証拠を集めました。資金の流れも、アルノー卿の動きも、すべて公爵の影と繋がっている!」

セリーヌ様は震える唇を噛みしめ、視線を落とした。

「……私が、邪魔なのね」
「違います! あなたは何も悪くない!」

思わず声を荒げる。

「ただ……権力の象徴である“アルバート家の正嫡”であるがゆえに、利用されようとしているだけです」

その時、廊下の奥で足音が響いた。
次第に近づいてくる重厚な靴音。
私はセリーヌ様の前に立ちふさがり、扉を開ける。

そこに現れたのは――件のローレンス公爵その人だった。

「……おや、夜更けに随分と熱心な語らいだな」

月明かりに照らされるその姿は、いつもと変わらぬ温厚な微笑。
だが瞳の奥は氷のように冷たく、ぞっとするほど感情がない。

「……伯父様」

「セリーヌ。君はあまりに光りすぎる。……ゆえに、周囲を焦がす。
この国に混乱を招く前に、その光を制御しなければならない」

穏やかな声で、残酷な言葉を紡ぐ。

「だから……私が君を守る。力づくでもな」

私の背筋を冷たいものが走る。
やはり、この男が黒幕。

「……推しを道具扱いするなんて、許せません」

私は一歩前に出て、ローレンスを睨みつけた。

「セリーヌ様は人々を照らす光そのもの! あなたの思惑で消していい存在じゃない!」
「……アリシア嬢。君は邪魔だね」

ローレンスが指を鳴らすと、闇から複数の影が現れた。
全員、公爵に仕える私兵たちだ。

「ここで静かに消えてもらう」

刹那、兵たちが一斉に剣を抜いた。

「セリーヌ様、下がって!」

私は壁際の燭台を掴み、咄嗟に構えた。
鍛えられた剣士たちに対し、武器にもならない鉄の棒――。
だが退く気は一切なかった。

「命を懸けても、推しは守る!」

震える足を前へ踏み出す。
その気迫に、一瞬だけ兵士たちの動きが鈍った。

しかし次の瞬間、刃が振り下ろされ――。

「そこまでだ!」

鋭い声が廊下に響いた。
駆けつけたのは、王国騎士団の精鋭たち。
先頭に立つ青年は、以前セリーヌ様に自然な笑顔を見せていた、あの好青年だった。

「セリーヌ様に刃を向けるとは……公爵殿、どういうつもりですか?」

形勢が逆転し、公爵の表情にわずかな苛立ちが走る。

「……ほう。随分と耳が早い」
「あなたの動きはすでに掴んでいる。ここから先は、王の御前で語っていただこう」

騎士団が一斉に剣を構え、公爵の兵たちを取り囲む。
ローレンスはしばし沈黙し、やがて薄く笑った。

「……面白い。だが、これは終わりではないぞ」

その言葉を残し、彼は従者に囲まれながら退いていった。

静寂が戻ると、私はへたり込みそうになる体を必死で支えた。
セリーヌ様は蒼白な顔で私を見つめ、震える声を漏らす。

「……どうして、ここまで……」
「決まってるじゃないですか」

私は笑みを作り、彼女の手を取った。

「推しだからです。推しを守るのに理由なんて要りません」

セリーヌ様は小さく息を呑み、やがて瞳に涙を浮かべた。

「……ありがとう、アリシア」

その瞬間、私は誓った。

(ローレンス公爵……次は絶対に、完全に引導を渡す! 推しの光を曇らせる影は、私が消す!)
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