義姉をいびり倒してましたが、前世の記憶が戻ったので全力で推します

一路(いちろ)

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第十一話 残党の牙

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ローレンス公爵が失脚してから、王都には奇妙な静けさが広がっていた。
だが私は知っている。
この沈黙は決して平穏ではなく――次なる嵐の前触れだと。

「アリシア、また夜遅くまで調べ物?」

セリーヌ様が寝室からそっと顔を覗かせた。
月光を浴びたその姿は儚くも美しく、私の心をひどく揺さぶる。

「……はい。ローレンス公爵の残した派閥が、まだ裏で動いているんです。推しを狙う手が完全に途絶えたわけじゃない」

セリーヌ様は小さく溜息をつき、しかし柔らかく微笑んだ。

「本当に……あなたは私のことばかり。そんなに気を張らなくてもいいのに」
「気を張りますよ! 尊い推しを狙う輩が一人でも残ってるなら、私は全力で潰します!」

少し大げさに言ったら、セリーヌ様がくすっと笑った。
その笑みは甘美で、けれど私は胸の奥に冷たい不安を抱えたままだった。

数日後。
王都の片隅で、小さな騒乱が起きた。
商人ギルドに属する倉庫が放火され、証拠隠滅を図ろうとした者が取り押さえられたのだ。

取り調べで判明したのは――放火を指示したのが、かつてローレンスに連なる伯爵家の者だったという事実。

「やっぱり……残党が動いてる」

私は報告を受け、胸に重石が落ちるような感覚を覚えた。

しかもその狙いは、王都にあるアルバート家の記録庫――すなわち、セリーヌ様の家系に関する証文や財産の権利書だという。
それを奪い、正嫡の立場を崩そうとしているのだ。

(推しの地位を揺るがすだなんて……それは尊さを土足で踏みにじる行為! 絶対許さない!)

私は即座に騎士団の青年へ連絡を取り、記録庫の警備を強化するよう依頼した。
だが、その日の夜。

「アリシア嬢! 記録庫が襲撃を受けています!」

急報が飛び込んでくる。
私は考えるより先に駆け出していた。

夜の記録庫。
扉は破られ、火の手が上がり始めていた。
黒装束の影が複数、権利書の箱を抱えて逃げ出そうとしている。

「待ちなさぁぁぁい!」

私の叫びに、影たちが一斉にこちらを振り向いた。

「ブランシュ家の小娘……!」
「推しの敵、見つけたぁぁぁ!」

私は手近の木の棒を引き抜き、構えた。
騎士団が到着するまで時間を稼げばいい。

闇の中で繰り広げられる乱戦。
木の棒と剣とでは勝ち目がない。
それでも退くわけにはいかなかった。

「推しの尊さは私が守る!!」

渾身の叫びと共に影の一人を突き飛ばす。
だが数で押され、背中を壁に追い詰められたその時――。

「そこまでです!」

鋭い声と共に、騎士団が駆け込んできた。
先頭の青年が剣を振るい、残党を次々と制圧していく。

戦いが終わり、捕らえられた影の一人が憎々しげに吐き捨てた。

「俺たちはまだ終わらない……! セリーヌが王家に食い込む前に、必ず排除する……!」

その言葉に、私は全身が凍りついた。

(やはり狙いは……推しを権力の中枢から遠ざけること。まだ計画は続いている!)

その夜、私はセリーヌ様に報告した。
彼女は静かに瞳を伏せ、少しの間黙っていた。

「……私がいることで、みんなが苦しんでいるのかもしれない」
「違います!」

私は机を叩き、立ち上がった。

「苦しめているのはあなたじゃありません! あなたの光を妬む人間たちです!」

セリーヌ様がはっと顔を上げる。

「だから――絶対に負けないでください。推しは私が守ります! 何があっても!」

私の声は震えていた。
けれど、それが本心だった。

セリーヌ様は静かに歩み寄り、私の手を握った。

「……ありがとう、アリシア。あなたがいてくれるから、私も前を向けるわ」

その温もりに、胸が熱くなる。

(必ず、必ず守り抜く! たとえ国内の派閥がすべて敵に回ろうとも……推しの尊さを守るためなら!)

私は強く誓いを立てた。
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