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第十八話 推しと噂と大騒動
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舞踏会の翌日。
王都の社交界は――もはや大変なことになっていた。
「聞いた? 昨日の舞踏会で、アリシア様がセリーヌ様を抱き寄せて踊ったって!」
「しかも刺客から身を挺して守ったらしいわよ!」
「きゃー! まるで騎士のよう!」
街角の喫茶店でも、貴族の屋敷の談話室でも、あらゆるところで噂が飛び交っていた。
そしてその矛先は、当然ながら――私だ。
(ちょ、ちょっと待って!? どうしてそうなるの!?)
「アリシア嬢はセリーヌ侯爵令嬢の“騎士”だそうよ」
「いいえ、“特別なお相手”なんですって!」
いやいやいや! どちらも違いますから!?
もちろん、私はセリーヌ様を人生最大の推しとして全力で守りたい。
でもそれと「そういう関係」は別問題! あくまで“推し活”の一環! ……のはず。
そんな混乱の渦の中、私はセリーヌ様のもとを訪れていた。
ブランシュ侯爵邸のセリーヌ様の私室。
窓辺に佇む彼女は、すでに噂を耳にしているようで――口元に微笑を浮かべていた。
「ずいぶんと賑やかな評判になっているわね、アリシア」
「セリーヌ様! どうか信じてください! 私は決して、その……! け、けしからん気持ちで抱き寄せたわけでは……!」
「ふふ……そうなの?」
にこやかに見つめられると、耳まで真っ赤になる。
推しにからかわれるって、なんて甘美で地獄な体験なんだろう。
「だって……! あの時は本当に危なくて、無我夢中で……!」
「ええ、分かっているわ。でも――あなたに抱き寄せられた瞬間、私はとても安心したの」
さらりと、そんなことを言うものだから。
私の心臓はまたも爆発寸前になる。
「な、な、なんて尊すぎる……!」
床に崩れ落ちる私を見て、セリーヌ様は喉を鳴らして笑った。
いつもは気品の仮面を崩さない彼女が、こんな風に笑うなんて……。
(……ああ、やっぱり、この人を守りたい! 推さずにいられない!)
だがその時、使用人が慌てた様子で駆け込んできた。
「お嬢様、大変です! 新聞が――!」
差し出された今朝の号外。
一面には大きな見出しが躍っていた。
『侯爵令嬢義姉妹、禁断の舞踏会ロマンス!?』
「やめてえええええええええ!!!」
私は新聞を抱えて床を転げ回った。
なんでこうなるの!? どうして推し活がいつも恋愛スキャンダルに誤解されるの!?
「まあ……なかなか素敵に書かれているじゃない」
「セリーヌ様ぁぁぁ! 素敵じゃありません! 名誉に傷が!」
「そうかしら? 私はむしろ、誇らしいけれど」
にっこり微笑む彼女に、私はもうどうしたらいいか分からなかった。
その後も騒動は続いた。
舞踏会に居合わせた貴族の令嬢たちが押しかけてきて、質問攻めにされたり。
「アリシア様はどんな気持ちでセリーヌ様を抱き寄せたのですか?」
「やっぱり愛の告白のつもりだったのですか?」
「次の舞踏会でもぜひ公開で踊ってください!」
「ち、違いますーっ!! 私はただの推し活なんですーっ!!!」
必死に否定するも、火に油を注ぐ結果にしかならなかった。
結局その日一日、私は「推しのために名誉を守る」どころか、「推しと恋仲にされる誤解」を必死に否定して回る羽目になった。
(うぅ……どうしてこうなるの……。でも……)
ベッドに倒れ込んだ夜。
思い出すのは、舞踏会でセリーヌ様が見せたあの笑顔。
そして、今日もからかうように笑った横顔。
(……どんなに噂されても、私は後悔しない。だって推しを守れたんだから)
そう胸に刻み、私は眠りについた。
しかし、社交界の片隅では別の動きが始まっていた。
暗がりの中、仮面の影が呟く。
「小娘め……我らの計画を乱したか。だが、これで終わりではない」
舞踏会の陰謀を仕掛けた裏で、更なる黒幕が牙を研いでいた。
次なる嵐が――静かに迫っている。
王都の社交界は――もはや大変なことになっていた。
「聞いた? 昨日の舞踏会で、アリシア様がセリーヌ様を抱き寄せて踊ったって!」
「しかも刺客から身を挺して守ったらしいわよ!」
「きゃー! まるで騎士のよう!」
街角の喫茶店でも、貴族の屋敷の談話室でも、あらゆるところで噂が飛び交っていた。
そしてその矛先は、当然ながら――私だ。
(ちょ、ちょっと待って!? どうしてそうなるの!?)
「アリシア嬢はセリーヌ侯爵令嬢の“騎士”だそうよ」
「いいえ、“特別なお相手”なんですって!」
いやいやいや! どちらも違いますから!?
もちろん、私はセリーヌ様を人生最大の推しとして全力で守りたい。
でもそれと「そういう関係」は別問題! あくまで“推し活”の一環! ……のはず。
そんな混乱の渦の中、私はセリーヌ様のもとを訪れていた。
ブランシュ侯爵邸のセリーヌ様の私室。
窓辺に佇む彼女は、すでに噂を耳にしているようで――口元に微笑を浮かべていた。
「ずいぶんと賑やかな評判になっているわね、アリシア」
「セリーヌ様! どうか信じてください! 私は決して、その……! け、けしからん気持ちで抱き寄せたわけでは……!」
「ふふ……そうなの?」
にこやかに見つめられると、耳まで真っ赤になる。
推しにからかわれるって、なんて甘美で地獄な体験なんだろう。
「だって……! あの時は本当に危なくて、無我夢中で……!」
「ええ、分かっているわ。でも――あなたに抱き寄せられた瞬間、私はとても安心したの」
さらりと、そんなことを言うものだから。
私の心臓はまたも爆発寸前になる。
「な、な、なんて尊すぎる……!」
床に崩れ落ちる私を見て、セリーヌ様は喉を鳴らして笑った。
いつもは気品の仮面を崩さない彼女が、こんな風に笑うなんて……。
(……ああ、やっぱり、この人を守りたい! 推さずにいられない!)
だがその時、使用人が慌てた様子で駆け込んできた。
「お嬢様、大変です! 新聞が――!」
差し出された今朝の号外。
一面には大きな見出しが躍っていた。
『侯爵令嬢義姉妹、禁断の舞踏会ロマンス!?』
「やめてえええええええええ!!!」
私は新聞を抱えて床を転げ回った。
なんでこうなるの!? どうして推し活がいつも恋愛スキャンダルに誤解されるの!?
「まあ……なかなか素敵に書かれているじゃない」
「セリーヌ様ぁぁぁ! 素敵じゃありません! 名誉に傷が!」
「そうかしら? 私はむしろ、誇らしいけれど」
にっこり微笑む彼女に、私はもうどうしたらいいか分からなかった。
その後も騒動は続いた。
舞踏会に居合わせた貴族の令嬢たちが押しかけてきて、質問攻めにされたり。
「アリシア様はどんな気持ちでセリーヌ様を抱き寄せたのですか?」
「やっぱり愛の告白のつもりだったのですか?」
「次の舞踏会でもぜひ公開で踊ってください!」
「ち、違いますーっ!! 私はただの推し活なんですーっ!!!」
必死に否定するも、火に油を注ぐ結果にしかならなかった。
結局その日一日、私は「推しのために名誉を守る」どころか、「推しと恋仲にされる誤解」を必死に否定して回る羽目になった。
(うぅ……どうしてこうなるの……。でも……)
ベッドに倒れ込んだ夜。
思い出すのは、舞踏会でセリーヌ様が見せたあの笑顔。
そして、今日もからかうように笑った横顔。
(……どんなに噂されても、私は後悔しない。だって推しを守れたんだから)
そう胸に刻み、私は眠りについた。
しかし、社交界の片隅では別の動きが始まっていた。
暗がりの中、仮面の影が呟く。
「小娘め……我らの計画を乱したか。だが、これで終わりではない」
舞踏会の陰謀を仕掛けた裏で、更なる黒幕が牙を研いでいた。
次なる嵐が――静かに迫っている。
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