義姉をいびり倒してましたが、前世の記憶が戻ったので全力で推します

一路(いちろ)

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第十九話 黒幕の影

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舞踏会から数日。
王都の華やかな喧騒の裏で、静かに不穏な気配が広がっていた。

隣国フェルザークの使節団は拘束された。
だが、それで全てが解決したわけではない。

(あれは、ほんの駒にすぎない……)

刺客も偽証も、すべて「誰か」が裏で操っていた。
その誰か――すなわち真の黒幕を暴かねば、セリーヌ様を狙う陰謀は終わらない。

ブランシュ侯爵家の私室。
窓から差し込む光の下で、セリーヌ様は手紙を広げていた。

「……また、ですか」

卓上に置かれた便箋。そこには匿名でこう書かれている。

『セリーヌ・ブランシュ侯爵令嬢は黒幕である』

舞踏会での冤罪が否定されたにもかかわらず、噂はなおも続いていた。
しかも今回は、貴族社会に広くばら撒かれている。

「狡猾ね。公の場で失敗したから、今度は陰で評判を落とすつもり」

セリーヌ様の声は冷静だった。けれど、白い指先はわずかに震えている。

私は彼女の手を取った。

「セリーヌ様。ご心配には及びません! 私が必ず犯人を突き止めて、根も葉もない噂なんて叩き潰してみせます!」
「……あなたって、本当に大げさなんだから」

それでも、少し口元が緩む。

その笑みを見られるだけで、私は戦う理由をいくらでも見つけられる。

その時、執事が部屋に入ってきた。

「お嬢様。侯爵閣下からのご伝言にございます。今宵、評議会において重要な議題がございますゆえ、セリーヌ様とアリシア様も同席を求められています」
「評議会?」

私とセリーヌ様は顔を見合わせる。

王国の有力貴族が一堂に会する会合。そこに呼ばれるということは――。

「……これは、仕掛けてきましたね」
「ええ。間違いなく」

誰かが、評議会の場で再びセリーヌ様を陥れようとしている。

夜、評議会の広間。
燭台が照らす円卓には、名のある侯爵家・伯爵家の面々が揃っていた。

その視線の多くが、セリーヌ様へと注がれる。
中には露骨に冷笑を浮かべる者さえいる。

「さて……議題に入ろう」

議長役の公爵が口を開いた。

「今回の舞踏会における一件。我が国の威信を揺るがした大事である。……その責を誰が負うべきか」

その言葉に、ざわり、と円卓が揺れた。

そして――。

「当然、ブランシュ侯爵家に責があるのでは?」

低く響く声に、私の心臓が跳ねた。

声の主は、隣国との交易を握る有力貴族――ヴァルモンド侯爵。
以前から派手な資金力と人脈で政界に影響を持ち、敵に回すと厄介な人物。

「セリーヌ嬢は舞踏会で一度は黒幕として名指しされた。表向きは否定されたとしても、国際問題を招いた事実に変わりはない」

彼の言葉に、周囲がざわめく。
同調するように頷く貴族まで現れる。

(……こいつか! 黒幕!)

隣国との繋がりを持つ立場。
そして、わざわざ舞踏会での件を蒸し返す態度。

全てが怪しい。だが、証拠はまだない。

「ヴァルモンド侯爵」

セリーヌ様が静かに言った。

「私の潔白はすでに証明されています。貴方の言葉を鵜呑みにすることは、王国の威信を損なうことではなくて?」

毅然とした声。
それでもヴァルモンドは余裕の笑みを崩さない。

「潔白、ですか……? ならば、そうだと証をお見せいただきたいものですな」

挑発的な視線が、広間に火花を散らす。

私は思わず立ち上がった。

「セリーヌ様にこれ以上濡れ衣を着せるなんて、許せません! 侯爵、あなたこそ怪しいのです! 取引記録を洗えば、隣国と不自然な金の流れが――」
「アリシア!」

セリーヌ様が制した。

「……証拠もないのに断言しては、こちらが不利になるわ」
「……っ」

悔しい。でも、確かにその通りだ。
今は証拠を掴むまでは軽率に動けない。

ヴァルモンド侯爵の目が、冷たい光を宿す。

「ふむ……若い娘の暴走は愛らしいが、国の場には相応しくないな」

挑発的な言葉に、怒りで胸が煮えたぎる。

(……必ず、尻尾を掴んでやる!)

評議会は不穏な空気のまま散会となった。
帰途、馬車の中でセリーヌ様が私に告げる。

「アリシア。あなたの直感は正しいわ。……ヴァルモンドが黒幕である可能性は高い」
「なら……!」
「でも、証拠がなければ私たちは追い詰められるだけ。次の舞踏会でのように、決定的な“逆転”を用意しなくては」

真剣な瞳に、私は大きく頷いた。

「はい……! セリーヌ様のために、必ず真実を掴んでみせます!」

夜空の下、馬車は走り去る。
その影を見つめながら、ヴァルモンド侯爵はほくそ笑んでいた。

「小娘どもに何ができる……。次の一手で、すべて終わらせてやろう」

黒幕の影は、確実に牙を剥き始めていた。
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