19 / 26
第十九話 黒幕の影
しおりを挟む
舞踏会から数日。
王都の華やかな喧騒の裏で、静かに不穏な気配が広がっていた。
隣国フェルザークの使節団は拘束された。
だが、それで全てが解決したわけではない。
(あれは、ほんの駒にすぎない……)
刺客も偽証も、すべて「誰か」が裏で操っていた。
その誰か――すなわち真の黒幕を暴かねば、セリーヌ様を狙う陰謀は終わらない。
ブランシュ侯爵家の私室。
窓から差し込む光の下で、セリーヌ様は手紙を広げていた。
「……また、ですか」
卓上に置かれた便箋。そこには匿名でこう書かれている。
『セリーヌ・ブランシュ侯爵令嬢は黒幕である』
舞踏会での冤罪が否定されたにもかかわらず、噂はなおも続いていた。
しかも今回は、貴族社会に広くばら撒かれている。
「狡猾ね。公の場で失敗したから、今度は陰で評判を落とすつもり」
セリーヌ様の声は冷静だった。けれど、白い指先はわずかに震えている。
私は彼女の手を取った。
「セリーヌ様。ご心配には及びません! 私が必ず犯人を突き止めて、根も葉もない噂なんて叩き潰してみせます!」
「……あなたって、本当に大げさなんだから」
それでも、少し口元が緩む。
その笑みを見られるだけで、私は戦う理由をいくらでも見つけられる。
その時、執事が部屋に入ってきた。
「お嬢様。侯爵閣下からのご伝言にございます。今宵、評議会において重要な議題がございますゆえ、セリーヌ様とアリシア様も同席を求められています」
「評議会?」
私とセリーヌ様は顔を見合わせる。
王国の有力貴族が一堂に会する会合。そこに呼ばれるということは――。
「……これは、仕掛けてきましたね」
「ええ。間違いなく」
誰かが、評議会の場で再びセリーヌ様を陥れようとしている。
夜、評議会の広間。
燭台が照らす円卓には、名のある侯爵家・伯爵家の面々が揃っていた。
その視線の多くが、セリーヌ様へと注がれる。
中には露骨に冷笑を浮かべる者さえいる。
「さて……議題に入ろう」
議長役の公爵が口を開いた。
「今回の舞踏会における一件。我が国の威信を揺るがした大事である。……その責を誰が負うべきか」
その言葉に、ざわり、と円卓が揺れた。
そして――。
「当然、ブランシュ侯爵家に責があるのでは?」
低く響く声に、私の心臓が跳ねた。
声の主は、隣国との交易を握る有力貴族――ヴァルモンド侯爵。
以前から派手な資金力と人脈で政界に影響を持ち、敵に回すと厄介な人物。
「セリーヌ嬢は舞踏会で一度は黒幕として名指しされた。表向きは否定されたとしても、国際問題を招いた事実に変わりはない」
彼の言葉に、周囲がざわめく。
同調するように頷く貴族まで現れる。
(……こいつか! 黒幕!)
隣国との繋がりを持つ立場。
そして、わざわざ舞踏会での件を蒸し返す態度。
全てが怪しい。だが、証拠はまだない。
「ヴァルモンド侯爵」
セリーヌ様が静かに言った。
「私の潔白はすでに証明されています。貴方の言葉を鵜呑みにすることは、王国の威信を損なうことではなくて?」
毅然とした声。
それでもヴァルモンドは余裕の笑みを崩さない。
「潔白、ですか……? ならば、そうだと証をお見せいただきたいものですな」
挑発的な視線が、広間に火花を散らす。
私は思わず立ち上がった。
「セリーヌ様にこれ以上濡れ衣を着せるなんて、許せません! 侯爵、あなたこそ怪しいのです! 取引記録を洗えば、隣国と不自然な金の流れが――」
「アリシア!」
セリーヌ様が制した。
「……証拠もないのに断言しては、こちらが不利になるわ」
「……っ」
悔しい。でも、確かにその通りだ。
今は証拠を掴むまでは軽率に動けない。
ヴァルモンド侯爵の目が、冷たい光を宿す。
「ふむ……若い娘の暴走は愛らしいが、国の場には相応しくないな」
挑発的な言葉に、怒りで胸が煮えたぎる。
(……必ず、尻尾を掴んでやる!)
評議会は不穏な空気のまま散会となった。
帰途、馬車の中でセリーヌ様が私に告げる。
「アリシア。あなたの直感は正しいわ。……ヴァルモンドが黒幕である可能性は高い」
「なら……!」
「でも、証拠がなければ私たちは追い詰められるだけ。次の舞踏会でのように、決定的な“逆転”を用意しなくては」
真剣な瞳に、私は大きく頷いた。
「はい……! セリーヌ様のために、必ず真実を掴んでみせます!」
夜空の下、馬車は走り去る。
その影を見つめながら、ヴァルモンド侯爵はほくそ笑んでいた。
「小娘どもに何ができる……。次の一手で、すべて終わらせてやろう」
黒幕の影は、確実に牙を剥き始めていた。
王都の華やかな喧騒の裏で、静かに不穏な気配が広がっていた。
隣国フェルザークの使節団は拘束された。
だが、それで全てが解決したわけではない。
(あれは、ほんの駒にすぎない……)
刺客も偽証も、すべて「誰か」が裏で操っていた。
その誰か――すなわち真の黒幕を暴かねば、セリーヌ様を狙う陰謀は終わらない。
ブランシュ侯爵家の私室。
窓から差し込む光の下で、セリーヌ様は手紙を広げていた。
「……また、ですか」
卓上に置かれた便箋。そこには匿名でこう書かれている。
『セリーヌ・ブランシュ侯爵令嬢は黒幕である』
舞踏会での冤罪が否定されたにもかかわらず、噂はなおも続いていた。
しかも今回は、貴族社会に広くばら撒かれている。
「狡猾ね。公の場で失敗したから、今度は陰で評判を落とすつもり」
セリーヌ様の声は冷静だった。けれど、白い指先はわずかに震えている。
私は彼女の手を取った。
「セリーヌ様。ご心配には及びません! 私が必ず犯人を突き止めて、根も葉もない噂なんて叩き潰してみせます!」
「……あなたって、本当に大げさなんだから」
それでも、少し口元が緩む。
その笑みを見られるだけで、私は戦う理由をいくらでも見つけられる。
その時、執事が部屋に入ってきた。
「お嬢様。侯爵閣下からのご伝言にございます。今宵、評議会において重要な議題がございますゆえ、セリーヌ様とアリシア様も同席を求められています」
「評議会?」
私とセリーヌ様は顔を見合わせる。
王国の有力貴族が一堂に会する会合。そこに呼ばれるということは――。
「……これは、仕掛けてきましたね」
「ええ。間違いなく」
誰かが、評議会の場で再びセリーヌ様を陥れようとしている。
夜、評議会の広間。
燭台が照らす円卓には、名のある侯爵家・伯爵家の面々が揃っていた。
その視線の多くが、セリーヌ様へと注がれる。
中には露骨に冷笑を浮かべる者さえいる。
「さて……議題に入ろう」
議長役の公爵が口を開いた。
「今回の舞踏会における一件。我が国の威信を揺るがした大事である。……その責を誰が負うべきか」
その言葉に、ざわり、と円卓が揺れた。
そして――。
「当然、ブランシュ侯爵家に責があるのでは?」
低く響く声に、私の心臓が跳ねた。
声の主は、隣国との交易を握る有力貴族――ヴァルモンド侯爵。
以前から派手な資金力と人脈で政界に影響を持ち、敵に回すと厄介な人物。
「セリーヌ嬢は舞踏会で一度は黒幕として名指しされた。表向きは否定されたとしても、国際問題を招いた事実に変わりはない」
彼の言葉に、周囲がざわめく。
同調するように頷く貴族まで現れる。
(……こいつか! 黒幕!)
隣国との繋がりを持つ立場。
そして、わざわざ舞踏会での件を蒸し返す態度。
全てが怪しい。だが、証拠はまだない。
「ヴァルモンド侯爵」
セリーヌ様が静かに言った。
「私の潔白はすでに証明されています。貴方の言葉を鵜呑みにすることは、王国の威信を損なうことではなくて?」
毅然とした声。
それでもヴァルモンドは余裕の笑みを崩さない。
「潔白、ですか……? ならば、そうだと証をお見せいただきたいものですな」
挑発的な視線が、広間に火花を散らす。
私は思わず立ち上がった。
「セリーヌ様にこれ以上濡れ衣を着せるなんて、許せません! 侯爵、あなたこそ怪しいのです! 取引記録を洗えば、隣国と不自然な金の流れが――」
「アリシア!」
セリーヌ様が制した。
「……証拠もないのに断言しては、こちらが不利になるわ」
「……っ」
悔しい。でも、確かにその通りだ。
今は証拠を掴むまでは軽率に動けない。
ヴァルモンド侯爵の目が、冷たい光を宿す。
「ふむ……若い娘の暴走は愛らしいが、国の場には相応しくないな」
挑発的な言葉に、怒りで胸が煮えたぎる。
(……必ず、尻尾を掴んでやる!)
評議会は不穏な空気のまま散会となった。
帰途、馬車の中でセリーヌ様が私に告げる。
「アリシア。あなたの直感は正しいわ。……ヴァルモンドが黒幕である可能性は高い」
「なら……!」
「でも、証拠がなければ私たちは追い詰められるだけ。次の舞踏会でのように、決定的な“逆転”を用意しなくては」
真剣な瞳に、私は大きく頷いた。
「はい……! セリーヌ様のために、必ず真実を掴んでみせます!」
夜空の下、馬車は走り去る。
その影を見つめながら、ヴァルモンド侯爵はほくそ笑んでいた。
「小娘どもに何ができる……。次の一手で、すべて終わらせてやろう」
黒幕の影は、確実に牙を剥き始めていた。
0
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい
藤原遊
ファンタジー
悪役令嬢×婚約者の策略ラブコメディ!
「アイリス・ルクレール、その波乱の乙女ゲーム人生――」
社交界の華として名を馳せた公爵令嬢アイリスは、気がつくと自分が“乙女ゲーム”の悪役令嬢に転生していることに気づく。しかし破滅フラグなんて大した問題ではない。なぜなら――彼女には全力で溺愛してくれる最強の味方、「お父様」がいるのだから!
婚約者である王太子レオナードとともに、盗賊団の陰謀や宮廷の策略を華麗に乗り越える一方で、かつて傲慢だと思われた行動が実は周囲を守るためだったことが明らかに……?その冷静さと知恵に、王太子も惹かれていき、次第にアイリスを「婚約者以上の存在」として意識し始める。
しかし、アイリスにはまだ知らない事実が。前世で推しだった“お父様”が、実は娘の危機に備えて影で私兵を動かしていた――なんて話、聞いていませんけど!?
さらに、無邪気な辺境伯の従兄弟や王宮の騎士たちが彼女に振り回される日々が続く中、悪役令嬢としての名を返上し、「新たな人生」を掴むための物語が進んでいく。
「悪役令嬢の未来は破滅しかない」そんな言葉を真っ向から覆す、策略と愛の物語。痛快で心温まる新しい悪役令嬢ストーリーをお楽しみください。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
異世界転生してしまった。どうせ死ぬのに。
あんど もあ
ファンタジー
好きな人と結婚して初めてのクリスマスに事故で亡くなった私。異世界に転生したけど、どうせ死ぬなら幸せになんてなりたくない。そう思って生きてきたのだけど……。
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!?
////////////////////////////////////////////////////
悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
卒業パーティーのその後は
あんど もあ
ファンタジー
乙女ゲームの世界で、ヒロインのサンディに転生してくる人たちをいじめて幸せなエンディングへと導いてきた悪役令嬢のアルテミス。 だが、今回転生してきたサンディには匙を投げた。わがままで身勝手で享楽的、そんな人に私にいじめられる資格は無い。
そんなアルテミスだが、卒業パーティで断罪シーンがやってきて…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる