義姉をいびり倒してましたが、前世の記憶が戻ったので全力で推します

一路(いちろ)

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第二十話 罠と対決

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王都の一角にある壮麗な邸宅――それはヴァルモンド侯爵が所有する迎賓館だった。
慈善事業の名目で、王都の貴族や富裕商人を集めた「慈善茶会」が催されると告げられ、セリーヌ様と私は招待状を受け取った。

「慈善茶会、ですって?」

ブランシュ侯爵家の居間で、セリーヌ様が眉をひそめる。

「はい。しかも出席は半ば義務……。王国の名の下に侯爵から通達がありました」

執事が渡した招待状には、王国評議会の印まで押されていた。
つまり、断れば王家や他の貴族から不審の目を向けられる。

「……これは、完全に仕掛けてきましたね」
「ええ。セリーヌ様を公の場で再び糾弾する気です」

私の胸は怒りで熱くなる。だが、焦っても仕方ない。
前回の評議会のように、証拠もなく突っかかれば逆効果だ。

(でも、絶対に負けられない……! 推しを守り抜くために!)

当日。
ヴァルモンド侯爵の迎賓館は豪奢に飾り立てられていた。白い大理石の柱に赤い絨毯。庭園には季節外れの花が咲き乱れ、客たちは贅沢な菓子や音楽に酔いしれている。

「まあ、なんと素晴らしいお屋敷でしょう」
「侯爵様のご慈悲に感謝を……」

集まった人々の目は、自然と主催者であるヴァルモンド侯爵へ注がれる。

彼は黒の礼服を纏い、上機嫌に客を迎えていた。だがその視線が私たちに向けられた瞬間、冷ややかな光を帯びる。

「おや、セリーヌ嬢。お越しくださったとは光栄です」

わざとらしい笑み。
セリーヌ様は優雅に会釈して応じる。

「侯爵のお招きとあれば、断る理由はございませんので」

会場のざわめきが一瞬止む。
表面上の礼儀の裏で、皆が「今日の主役」を察しているのだ。

やがて、茶会の席で事件は起きた。

「皆様。本日の慈善茶会において、どうしても触れねばならぬ事がございます」

ヴァルモンド侯爵の声が響く。
場の空気が張り詰めた。

「――セリーヌ・ブランシュ嬢。あなたが隣国フェルザークと密通していたという証を、我が家は入手いたしました」
「なっ……!」

会場が一斉にざわめく。
侯爵が取り出したのは、一通の書簡だった。

そこには「セリーヌ」という署名と共に、隣国宛ての親書らしき文が記されている。

「馬鹿な……! そんなもの、偽造に決まってます!」

私は思わず叫んだ。

しかし侯爵は勝ち誇ったように笑う。

「証拠もなく叫んでも無意味ですぞ。ここにいる皆々が証人となる」

客たちの視線が、セリーヌ様へ突き刺さる。
さっきまでの優雅な雰囲気は消え、彼女を断罪する場の空気に変わっていた。

セリーヌ様は静かに立ち上がった。

「その書簡……筆跡は私のものによく似ていますね。ですが、内容は全く身に覚えがございません」
「ならば筆跡鑑定を行えばよろしい」

侯爵は自信満々だ。

だが私は違和感を覚えた。

(……待って。あの署名、確かにセリーヌ様の筆跡に似てるけど――細部が違う!)

前世で、いや日々の推し活で私はセリーヌ様の文字をノートに何度も模写していた。
だからわかる。あの“S”の書き出しは、セリーヌ様ならもっと柔らかいカーブを描くはずだ。

私は即座に声を上げた。

「失礼ですが! その手紙の封蝋、色が違います!」
「……なんだと?」

侯爵の目が細まる。

「ブランシュ侯爵家の正式な封蝋は深紅です。けれど、そちらは浅い紅色。これは粗悪な模造品にしか見えません!」

ざわめきが広がる。
何人かの貴族が「確かに……」と囁き合った。

追い打ちをかけるように、私はセリーヌ様を前へ押し出す。

「セリーヌ様、こちらに普段お使いの封蝋を!」

セリーヌ様は落ち着いた所作で手鏡と共に取り出した。封蝋は鮮やかな深紅。会場の目が比べれば、一目瞭然だ。

「これが、私の家の正式な印章です」
「……っ!」

侯爵の表情が一瞬歪んだ。

「侯爵」

セリーヌ様は鋭い視線を向ける。

「偽造文書を公の場で掲げ、私を陥れようとするとは。これを国王陛下に報告した場合、どのような罪に問われるか……ご存じですわね?」

客席からどよめきが起こる。
ヴァルモンド侯爵は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに笑みを貼り付けた。

「ふむ……どうやら、手違いがあったようですな。情報源を取り違えたかもしれぬ。いずれにせよ、今日は慈善の席。ここで争うのは本意ではない」

そう言って引き下がるしかなかった。

茶会が終わり、迎賓館を出た私とセリーヌ様。

「アリシア……ありがとう。あなたがいなければ、私はまた罠に嵌められていたわ」
「当然です! セリーヌ様の笑顔を曇らせるなんて、絶対許しません!」

力強く宣言すると、セリーヌ様は小さく笑った。

「でも、ヴァルモンドは簡単には引かないわ。次こそ決定的な証を掴まなければ、逆に追い込まれる」
「はい……。次は必ず、奴の正体を暴きましょう!」

夜空に輝く月の下、私たちは固く誓い合った。
黒幕との最終決戦は、刻一刻と近づいていた。
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