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第二十四話 アリシアに突然の縁談!?
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ブランシュ侯爵家に再び平和な朝が訪れてから、もう数日が経った。
セリーヌ様は庭園で優雅に紅茶を楽しみ、私はといえば、その姿を眺めて尊みを吸収する日々。
穏やかで、幸せで、事件前とは比べ物にならない優しい時間が流れていた。
そんな日常に、突然、嵐が巻き起こった。
「アリシアお嬢様、こちらにお手紙が――」
メイドが差し出した封筒を見た瞬間、私は固まった。
「……あれ? これ、正式封蝋……?」
「はい。差出人は、アルマンド子爵家のご当主です」
「子爵家……? なんで私に……?」
セリーヌ様が横からひょいと覗き込んだ。
「縁談の封蝋ね、これ」
「…………へ?」
「縁談よ」
「へ?????」
声が裏返った。
「ちょ、ちょちょちょ……え、ちょっと待ってください……私に……縁談……?」
「驚きすぎよ。貴族令嬢なんだから、縁談が来てもおかしくは――」
「いやいやいや!! 私の推し活人生が!!?」
「推し活基準で考えないの」
震える手で封筒を開くと、そこには丁寧な文字でこう書かれていた。
『アリシア嬢の聡明さと品格に惹かれ……
機会をいただけるなら、ぜひご縁を――』
手紙を読み終えた瞬間。
「どこの誰ですか!! 私のどこをどう見て!?
普段セリーヌ様に抱きついては怒られてる人間ですよ!?
聡明さ!? 品格!? 見間違いなのでは!!?」
「そこまで自分を貶めなくても……」
セリーヌ様が呆れながらも、どこか眉を寄せている。
「で、その相手はどんな方なの?」
「知りません! というか興味ないです! 推し活に忙しいのに!!」
「……そこまで即答するんだ」
「だって! 私には推しがいるんです! 推しが尊いんです!」
「推しって……人のことを推し扱いしないでって、いつも言ってるでしょう?」
「では“人生の光”と呼びましょう!」
「もっとやめて!!」
そこへ、当主である父が登場。
「アリシア、縁談の件は聞いたな?」
「お父様!? あの、縁談は――」
「会ってみるだけでも良いと思うが?」
「いやです!! 私は推――」
「推し活のため、か?」
「はい!!!」
父は深いため息をついた。
「……お前の推し活は、もはや家中の噂になっているのだが」
「光栄です!!」
「光栄じゃない!!」
横からセリーヌ様が叫んだ。
父が続ける。
「とはいえ、相手は悪くない家柄だ。断るにしても、理由は必要だぞ」
「理由……理由……」
私は必死で考える。
(“推し活に専念したい”……ダメ。
“セリーヌ様が尊いから”……もっとダメ。
“推しの笑顔だけを見て生きていたい”……論外。)
悩んでいると、セリーヌ様が小声で囁いた。
「……アリシア、断りたいのは本心なんでしょう?」
「もちろんです!」
「じゃあ、私も言ってあげるわ。“まだアリシアには家のことで助けてもらうことが多いから、縁談は時期尚早です”って」
「セリーヌ様……!」
神!
天使!
救世主!!
「尊い……!」
「だからその言い方はやめてってば!」
セリーヌ様が耳まで赤くしてそっぽを向いた。
その日の午後。
縁談の話は正式に断れることになった。
「……本当にいいのか、アリシア?」
父が最後に確認する。
「はい! 私はまだ家を離れたくありません!」
「そうか。ならいい」
父は納得し、部屋を出ていった。
残されたのは私とセリーヌ様だけ。
「……アリシア」
「はい」
「あなたって、本当に……不思議な人よね」
セリーヌ様は窓の外を見ながら、小さく笑った。
「普通なら、縁談が来たら少しは悩むものだと思うのだけど」
「え、そうなんですか?」
「そうよ。……でも、あなたを見ていると、それも当然かなって」
それは、事件前よりずっと柔らかく、あたたかな笑顔だった。
「だって、あなたは……いつも私のために動いてくれるもの」
「!!」
胸が焼けるように熱くなる。
「そ、それは……推しが尊いからでして……!」
「推し扱いしないで!」
いつものやり取りのはずなのに。
セリーヌ様の声はどこか照れていた。
その夜。
私はベッドの上でごろごろ転がりながら思った。
(今日のセリーヌ様……やけに優しかった……)
縁談の件で小さく眉を寄せた姿。
私のために断りの理由を作ってくれたこと。
最後に見せてくれた、あの柔らかな笑顔。
(もしかして……少しだけ……気にしてくれた……?)
胸がじんわりと温かくなる。
「うわーーー! 尊い!! 今日のセリーヌ様、普段の三倍尊かった!!」
枕に顔をうずめて悶え転がる。
日常は、相変わらずゆるくて騒がしくて幸せだ。
――縁談騒動を経ても、私は変わらず推しを全力で推すのであった。
セリーヌ様は庭園で優雅に紅茶を楽しみ、私はといえば、その姿を眺めて尊みを吸収する日々。
穏やかで、幸せで、事件前とは比べ物にならない優しい時間が流れていた。
そんな日常に、突然、嵐が巻き起こった。
「アリシアお嬢様、こちらにお手紙が――」
メイドが差し出した封筒を見た瞬間、私は固まった。
「……あれ? これ、正式封蝋……?」
「はい。差出人は、アルマンド子爵家のご当主です」
「子爵家……? なんで私に……?」
セリーヌ様が横からひょいと覗き込んだ。
「縁談の封蝋ね、これ」
「…………へ?」
「縁談よ」
「へ?????」
声が裏返った。
「ちょ、ちょちょちょ……え、ちょっと待ってください……私に……縁談……?」
「驚きすぎよ。貴族令嬢なんだから、縁談が来てもおかしくは――」
「いやいやいや!! 私の推し活人生が!!?」
「推し活基準で考えないの」
震える手で封筒を開くと、そこには丁寧な文字でこう書かれていた。
『アリシア嬢の聡明さと品格に惹かれ……
機会をいただけるなら、ぜひご縁を――』
手紙を読み終えた瞬間。
「どこの誰ですか!! 私のどこをどう見て!?
普段セリーヌ様に抱きついては怒られてる人間ですよ!?
聡明さ!? 品格!? 見間違いなのでは!!?」
「そこまで自分を貶めなくても……」
セリーヌ様が呆れながらも、どこか眉を寄せている。
「で、その相手はどんな方なの?」
「知りません! というか興味ないです! 推し活に忙しいのに!!」
「……そこまで即答するんだ」
「だって! 私には推しがいるんです! 推しが尊いんです!」
「推しって……人のことを推し扱いしないでって、いつも言ってるでしょう?」
「では“人生の光”と呼びましょう!」
「もっとやめて!!」
そこへ、当主である父が登場。
「アリシア、縁談の件は聞いたな?」
「お父様!? あの、縁談は――」
「会ってみるだけでも良いと思うが?」
「いやです!! 私は推――」
「推し活のため、か?」
「はい!!!」
父は深いため息をついた。
「……お前の推し活は、もはや家中の噂になっているのだが」
「光栄です!!」
「光栄じゃない!!」
横からセリーヌ様が叫んだ。
父が続ける。
「とはいえ、相手は悪くない家柄だ。断るにしても、理由は必要だぞ」
「理由……理由……」
私は必死で考える。
(“推し活に専念したい”……ダメ。
“セリーヌ様が尊いから”……もっとダメ。
“推しの笑顔だけを見て生きていたい”……論外。)
悩んでいると、セリーヌ様が小声で囁いた。
「……アリシア、断りたいのは本心なんでしょう?」
「もちろんです!」
「じゃあ、私も言ってあげるわ。“まだアリシアには家のことで助けてもらうことが多いから、縁談は時期尚早です”って」
「セリーヌ様……!」
神!
天使!
救世主!!
「尊い……!」
「だからその言い方はやめてってば!」
セリーヌ様が耳まで赤くしてそっぽを向いた。
その日の午後。
縁談の話は正式に断れることになった。
「……本当にいいのか、アリシア?」
父が最後に確認する。
「はい! 私はまだ家を離れたくありません!」
「そうか。ならいい」
父は納得し、部屋を出ていった。
残されたのは私とセリーヌ様だけ。
「……アリシア」
「はい」
「あなたって、本当に……不思議な人よね」
セリーヌ様は窓の外を見ながら、小さく笑った。
「普通なら、縁談が来たら少しは悩むものだと思うのだけど」
「え、そうなんですか?」
「そうよ。……でも、あなたを見ていると、それも当然かなって」
それは、事件前よりずっと柔らかく、あたたかな笑顔だった。
「だって、あなたは……いつも私のために動いてくれるもの」
「!!」
胸が焼けるように熱くなる。
「そ、それは……推しが尊いからでして……!」
「推し扱いしないで!」
いつものやり取りのはずなのに。
セリーヌ様の声はどこか照れていた。
その夜。
私はベッドの上でごろごろ転がりながら思った。
(今日のセリーヌ様……やけに優しかった……)
縁談の件で小さく眉を寄せた姿。
私のために断りの理由を作ってくれたこと。
最後に見せてくれた、あの柔らかな笑顔。
(もしかして……少しだけ……気にしてくれた……?)
胸がじんわりと温かくなる。
「うわーーー! 尊い!! 今日のセリーヌ様、普段の三倍尊かった!!」
枕に顔をうずめて悶え転がる。
日常は、相変わらずゆるくて騒がしくて幸せだ。
――縁談騒動を経ても、私は変わらず推しを全力で推すのであった。
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