義姉をいびり倒してましたが、前世の記憶が戻ったので全力で推します

一路(いちろ)

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第二十三話 推し活日常リスタート

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あの激動の舞踏会から数日。
ブランシュ侯爵家には、ようやく穏やかな朝が戻ってきた。

事件は終わった。黒幕は裁かれ、セリーヌ様の名誉は完全に回復。
緊張しきっていた屋敷の空気も、今ではふんわりと柔らかくなった。

そして私はというと――。

「セリーヌ様~~! 今日も尊みが深いですわ~~!!」
「朝から叫ばない! あと、抱きつかない!」

推しに抱きついた瞬間、セリーヌ様に額を軽く押され、くるりと回されて遠ざけられた。
うん、この距離。とても懐かしい。

事件前は余裕がなくて、セリーヌ様の笑顔を見ることすら難しい日もあった。
でも今は違う。
こうして、からかい半分に軽くいなされても、どこか楽しそうにしてくださる。

(平和……最高……!!)

私の心はすでに祝祭モードであった。

朝食の席。
セリーヌ様は紅茶を口に運びながら、少し肩を回していた。

「やっと緊張が抜けてきたわ……あれだけ人の前で話すの、疲れるものね」
「お疲れのセリーヌ様も尊いです。あっ、もしよければ肩たたき……」
「しなくていいわよ!? あなた、力強いんだから」

さりげなく逃げられる。
けれど、その表情が柔らかくて、私は胸の奥がぽわぁっと温かくなる。

「そういえばアリシア、午後はどうする予定?」
「もちろん、セリーヌ様の警護とお世話と推し活です!」
「三つ目だけ違うでしょう」
「いいえ! 推し活こそ私の生きる理由ですわ!」
「……はぁ。まぁ、平和だからいいけれど」

セリーヌ様は苦笑しながらも、どこか安心している様子だった。

昼下がり。
屋敷には花が届けられた。

「セリーヌお嬢様へ。舞踏会でのご活躍に敬意を表して……だそうです」

メイドが差し出したのは、美しい白百合の花束。
差出人は――有名な伯爵家の嫡男だった。

「…………」

私は花を見た瞬間、固まった。

「せ、セリーヌ様……!? こ、これは……!?」
「ただのお礼の花よ。それ以上でも以下でもないわ」
「い、いつの間にそんなに……? セリーヌ様、まさか隙間時間に求婚されたりしてませんよね!? 推しが知らない間にモテてるなんて、心の準備が!!」
「何それ。誰も私に求婚なんかしてないわよ!」

セリーヌ様は頬をわずかに染め、そっぽを向いた。

だが私は見逃さなかった。
花束に添えられたカードに、“またお話できれば光栄です” と書かれているのを。

「むむ……これは警戒案件……!」
「勝手に事件化しない」
「しかしセリーヌ様は美しい。皆が放っておかないのは当然なのです。
つまり私は推しの平穏を守る壁。今こそ働かねば!」
「壁にならないで。目立つから」

それでも内心は、ちょっと照れているように見える。
ああ、そんなところまで尊い。

午後の紅茶の時間。

「そういえば、アリシア。舞踏会のあと、あなた、泣いていたわよね」
「!? み、見てました!?」
「隠れるの、下手なんだもの」

セリーヌ様はふふ、と優しく笑った。

「でも……嬉しかったわ。あなたが、私のためにあれほど頑張ってくれたこと」
「!! セ、セリーヌ様……!」
「感謝しているわ。ありがとう」

胸にじわりと熱が込み上げた。
セリーヌ様に褒められるなんて……そんな……そんな尊み、私のキャパオーバーですわ……!

「うう……セリーヌ様の一言で、私の人生は今日も輝きます……!」
「だから泣かないでってば。ほんと、あなたって……」

呆れながらも、どこか優しい声音。
この距離感こそ、私の求めていた日常。

夕刻。
ちょっとしたハプニングが起きた。

「アリシア、これ縫ってみたのだけど……どう?」

セリーヌ様が手にしていたのは、淡い水色のリボン。
控えめな刺繍が入っていて、彼女の繊細な気質そのままの仕上がりだ。

「す……素晴らしい出来です!! 世界にひとつだけの推しグッズ!!」
「推しグッズじゃないわよ!?」
「セリーヌ様が作ったものは全部尊い! 私の宝物にします!」
「えぇぇ……別にあげるつもりじゃなかったのだけど……」
「じゃあ交換しましょう! ほら私も、セリーヌ様のためにお菓子を焼きました!」
「……あら、本当? じゃあひとついただくわね」

セリーヌ様が口に運んだ瞬間――。

「……おいしいわ」

その一言で私は椅子から転げ落ちそうになった。

「セリーヌ様に褒められたぁぁぁぁ!!!」
「ほんと、騒がしいんだから……」

そう言いつつ、セリーヌ様はどこか楽しそうだ。

夜。
屋敷の灯りが落ち、私とセリーヌ様は廊下を歩いていた。

「今日、久しぶりにゆっくりできたわね」
「はい! これからは毎日こうなりますよ!」
「そうね……平和な日常って、とてもありがたいものね」

窓から月光が差し込み、彼女の横顔を照らす。

その表情には静かで温かな光が宿っていた。
事件を乗り越えたからこそ見られる、穏やかな笑顔。

私は胸の中でそっと拳を握る。

(これからもずっと、推しを守ります。絶対に)

そして、日常は続いていく。

「アリシア、明日は少し早起きして庭園の散歩をしましょうか」
「はい! 全力でお供します! そして全力で尊ませていただきます!」
「だから尊むって表現しないで!」

二人の声は、平和な夜の廊下に軽く響いた。

――こうして、ブランシュ侯爵家の日常は再び幕を開けたのだった。
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