ケモノグルイ【改稿版】

風炉の丘

文字の大きさ
5 / 47
【1】ヤサシククルウ

1-4 始まりの裏切り

しおりを挟む
 月明かりが照らす中、大小2つの影が雑木林を進んでいた。
 前を歩く中年男はザック。後ろを歩く若い大男は、その体格からマンモスと呼ばれていた。
 キュベリがどうしてもと言うので、渋々連れて行く事にした連絡係だ。
 ザックは彼に違和感を覚えた。キュベリの部下にしては大人しげで、粋がってワルを気取っているようにも見えない。
「それで? マンモス坊やはなんでまた、キュベリのチームに入ったんだい」
「へ、へい。家族がみんな死んで、独りっきりで行くところもなくて、途方に暮れていたとき、仲間に誘われまして……へい」
「流れるままに流されて、こんな吹きだまりに来ちまったのかい。まったく、政府は何やってんだろうね。坊やみたいな善人を悪落ちさせるなんてなぁ」
「それでしたら、ザックさんこそ良い人じゃないですかっ」
「はっはっはっはっ♪ このオレが"イイヤツ"と来たか。こりゃお笑いだぜ♪ マンモス坊やは人を見る目が無いなぁ。すぐに人に騙される口だろ」
「だ、だって……険悪なナンバー2とキュベリさんの仲を取り持ってるじゃないですかっ」
「そりゃあ、ファミリーには義理があるし、ジェイクの兄貴やキュベリともそれなりの仲だからな。だけどな、"イイヤツ"ってのはオレには当たらねぇ。なにしろオレは、異世界"ガングワルド"で言うところの"サイコパス"ってやつだからな」
「さ、さいこぱす?」
「おうよ。ナイフで殺して、切り刻むのが大好きな、マジもんの殺人狂さね。兄貴と出会ってなければ、片っ端から人を殺しまくって殺人犯として処刑されてただろうよ。それにボスの紹介が無けりゃ、殺しに誇りを持つこともなかった。オレが無軌道で無差別な殺しを止め、依頼された人物だけを殺すよう自制できるようになったのも、ボスのおかげ。兄貴のおかげ。仲間とファミリーのおかげよ。だったら恩返しの一つや二つしなきゃらなねぇ。そうだろ?」
「へ…へい……」
「なんにせよ、信頼できる仲間がいるってのは良い事さね」
「そうですね。本当にそうだった……です」
「そうだった? というと?」
「カンタァって言うんですが、実はあいつがその、"モナカちゃん"……じゃなくて、"商品"を連れて逃げた、最初の裏切り者でして……」
「お前さんの仲間が!? するとその、カンタァはもう……」
「へい…。見せしめでキュベリさんに殺されました」
「そりゃあ……そりゃあ、悲しいな」
「へい……。とても…、とても悲しいです」
 この木偶の坊の仲間が、最初の裏切り者だった? そんなヤツをキュベリは何故、連絡役として同行させたんだ? たまたまか? それとも何か意味があるのか? いや、それよりも……。もっと大事な事がある!
「教えてくれマンモス坊や! カンタァは何故裏切った? いや、違う……そうじゃないな。カンタァはどんなヤツで、裏切るまでに何があった? 分かる範囲でいい。教えてくれ!」
「それは……」
 戸惑いを迷うマンモスだったが、ようやく重い口を開く。
「オレが思うに、これはカンタァの呪いなんですよ」
「呪いだって? そりゃ穏やかじゃないね。カンタァが死に際に、キュベリ達に呪いをかけたとでの言うのかい?」
「そう考えると色々と辻褄があるんでさぁ」
「ふ~む。もう少し詳しく教えてくれるかい」
「へい」

 マンモスの話によると、最初の事件のあらましは大体こんな感じのようだ。
 チームのみんなが隠れ家で待機していると、キュベリが護衛と共に"商品"を連れてくる。搬送中の"商品"は頭から袋を被せていたため、マンモスは未だに"ケモノビト"とは気付いていないようだ。
 キュベリは地下に作られた秘密の部屋へ"商品"を搬入すると、保管中の"商品"の世話をカンタァに任せる。
 カンタァはチームの中で、唯一家族に妹がおり、世話をしていた経験があったからだ。
 一方でマンモスは「その巨体は室内での戦闘では活かせない」と言われ、隠れ家の外での警備を任された。
 実際、マンモスの必殺技"巨像乱舞"は棍棒や丸太を両手に持ち、メチャクチャに振り回すってヤツで、敵味方どころか動植物や建築物にいたるまで容赦なく粉砕してしまう。隠れ家の外へ追い出されるのも納得の采配だ。
 マンモスの食事はカンタァが持ってきてくれた。マンモスと一緒に食事しながら愚痴をこぼすのが、カンタァの息抜きだった。なんでも「隠れ家はピリピリしていて息が詰まる」のだそうだ。"商品"にファミリーの未来がかかっているとなれば、ピリピリするのも仕方ない。
 だが、その日のカンタァは何かおかしかった。食事を持ってくる度に様子が変わっていったというのだ。
 朝食時のカンタァはとてもイライラしていた。「ガキを押しつけられた! めんどくせぇ!」と憤っていたようだ。
 昼食時のカンタァは戸惑っていた。「死んだ妹を思い出す」と言うのだ。カンタァには辛い過去があった。幼い頃、面倒を見ていた妹を、自分の判断ミスで死なせてしまったのだ。それ以来、カンタァは荒れに荒れ、悪の世界に堕ちてしまったのだそうだ。
 夕食時のカンタァは優しい笑顔で微笑んでいた。鼻歌を歌ったり、とても幸せそうだった。でも、理由を話してはくれなかった。ただ一言、「オレはやり直せる」と呟いていたらしい。
 真夜中の夜食時…。カンタァは来なかった。マンモスが腹を空かしながら待っていると、突如隠れ家が大騒ぎになる。カンタァが"商品"と一緒に消えたのだ。
 夜が明け、"商品"とカンタァは確保された。"商品"は奪われないよう、再び地下の秘密部屋へと隠された。
 そして、裏切り者カンタァは……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

処理中です...