ケモノグルイ【改稿版】

風炉の丘

文字の大きさ
4 / 47
【1】ヤサシククルウ

1-3 綱渡る

しおりを挟む
 ジェイクが"商品"を連れ出したのは紛れもない事実。では、何故連れ出したのか? 目的は何だ?
 ザックには信じがたいが、仮に裏切りとしよう。ファミリーを裏切ったのははたしてどっちだ?
 ジェイクが裏切って"商品"を連れ去った可能性もあれば、ジェイクがキュベリの裏切りに気付いて、"商品"を護ろうと連れ出した可能性も同じくらいある。
 ナンバー2のジェイクか? 若頭のキュベリか? それとも両方か? 両サイドと敵対する可能性も考えないとならんとは、まったくもって最悪だ。
 ジェイクはザックの兄貴分というだけでなく、ナイフの師匠でもある。タイマン勝負では今でも勝てる自信がない。
 チームキュベリはざっと見て50人。分断できれば負けはしないが、集団で襲いかかられると厳しい。キュベリの統率力は侮れない。
 だが何より最悪なのは、次世代のボスと未来を担うホープを、同時に失う可能性だ。
 "商品"を取り戻し、無事に取引を終えたとして、これから先、ファミリーは生き残れるのだろうか……
 ザックはボスが説得を頼んできた理由を理解した。ザックにとってジェイクは兄貴分で、キュベリは弟分。仲裁にうってつけと踏んだのだろう。
 だが、ザックは殺し屋だ。殺人以外に何も出来ないから殺し屋になった。なのに仲裁なんて出来るのか?
 予想よりもはるかに重い使命に、ザックは頭を抱えてしまう。

「なあ若頭。ナンバー2はどうやって"商品"を連れ出したんだ?」
「実はその……、ちょうどアタシがトイレに篭もっていた時にやって来まして……」
「トイレ?」
「それが……情けないことに朝から腹が下っちまいまして」
 まさか下剤でも盛られたか? チームの中にまだスパイが残っているのかもしれないな。
「対応したもんの話ですと、ジェイクのヤツは来て早々『"商品"を確認したい』とモナカちゃんの部屋に入り、少しして連れ出して行ったそうです」
「素通りか。見張りは何をしてたんだ?」
「ファミリーのナンバー2に『連れて行く』なんて言われたら、下っ端は従うしかないじゃありやせんか? 幸い、見張りはすぐにアタシに知らせてくれたんで、追跡術が使えやしたが」
「そうか。なるほど……」
 良かった。兄貴がチームのメンバーを殺してないなら、まだ和解の道はある
「それでナンバー2は、"商品"のいた部屋にどれくらいいた? 何をしてたんだ?」
「時間は10分くらいですか。人払いされちまったんで、何やってたかは分かりやせんね」
 ロリコン野郎なら"商品"が傷つかない程度にお戯れしてそうだが、ジェイクは大の熟女好きだ。考えられない。
 じゃあなんだ? "商品"の無事を自分の目で確かめるのは分かるが、そこまで時間がかかるものなのか?
 空白の10分に何かが起きた。そう言うことなのか?
 兄貴に会って確かめるしかない……か。

「よし、大体分かった。キュベリ、お前はチームとここで待機していてくれ。オレが独りで直接会ってくる」
「いや、しかし!」
「集団で行けば、激突は避けられないだろっ! お前達は偉そうにふんぞり返る姿しか知らんだろうが、ジェイクの兄貴はオレより強いぞ。しかもオレと違って集団戦が得意と来てる。下手すりゃ、チームは一瞬で皆殺しだ」
「ですが……」
「まあ、聞けやキュベリ。オレ達のファミリーは小さい。モタモタしてたらあっという間に、でかい組織に喰われちまう。力を合わせなきゃ駄目だ。内輪もめしてる場合じゃないんだよ! 若頭のお前なら分かるな? 分かるよなっ?」
「へい……」
「ははっ♪ 流石はキュベリだ。オレが見込んだだけのことはあるぜ♪」
 ザックは満面の笑顔を浮かべ、キュベリの肩をバンバンと叩く。キュベリは苦笑いを浮かべながら、痛みに耐えていた。
 渋々ながらもキュベリは待機を命じ、チームは大人しく従う。どうやら初めて挑戦した説得は、なんとか成功したようだ。
 だが、状況は厳しい。今は首の皮一枚で辛うじて繋がっているだけで、最悪の事態が回避出来たとは言いがたい。ファミリーの命運をかけたザックの綱渡りは、始まったばかりだ。

 次は兄貴か。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...