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【2】ナラクニマヨイテ
2-3 母さんの食堂
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部屋を出たザックは、ジェイクの待つ最深部に向かう。重要な部屋は全部回った。あとはジェイクと会うだけだ。
だが……
「ん? こりゃなんだ? こんな脇道、知らねぇぞ?」
気がつくと、どこに続くか分からない脇道がポッカリと空いていた。まるで記憶に無いのに、とても懐かしかった。
そのトンネルは下ではなく、上へと続いている。
上へ、上へ。覚えのない懐かしさに導かれ、ザックはトンネルを上ってゆく。
やがて、灯りの漏れるドアが現れた。ここは確か……だめだ。思い出せない。
だが、部屋の灯火がジェイクによるものなら、どのみち入って確かめるしかない。
ザックがドアノブを掴んだ瞬間……
ドアの向こうから子供達の声が聞こえる。
楽しそうな笑い声と、美味しそうな料理の匂いがする。
ザックはそっと扉を開ける。するとそこには………
暖かそうな灯りに包まれ、食卓を囲む子供達の姿がいた。
「来たな、ザック♪」
「お帰り、ザック♪」
「遅いぞ、ザック♪」
「待ってたぞ、ザック♪」
「どこ行ってたんだ、ザック♪」
「待ちくたびれたぞ、ザック♪」
「早く手を洗え、ザック♪」
「今日は御馳走だぞ、ザック♪」
8人の少年がザックを笑顔で迎える。
「お前達は一体……っ!」
ザックが部屋に一歩踏み込んだ瞬間、何もかもが消え去った。ただ静寂が支配していた。
寂しく光るランタンが照らすのは、誰もいない大部屋に残された3つのテーブルと、端に置かれた調理道具。奧の壁にはカマドがあり、恐らく地上まで繋がっているのだろう。レンガ作りの煙突が天井まで連なっている。
よく見ると、部屋の端にカーテンが閉められていた。こんな地下に窓なんてあるわけがない。カーテンで仕切って何かを隠しているのだ。
ザックはツカツカと歩み寄り、カーテンを開く。そこは壁を掘って作られた物置のようだった。しかし、ここに住んでいた住人は長椅子、もしくはベッドとして使っていたようだ。
ザックは膝上の高さの床を確かめた後、正面を見る。そこにはクレヨンで描かれた一枚の絵が貼られていた。間違いない。スケッチブックから破り取られた絵の1枚だ。
中央に描かれた1人の少女。そして彼女を囲むように、10人の少年が描かれていた。そこにはザックとジェイクもいた。2人は少女を挟むように、左右に描かれている。
全部で11人……
2人じゃなくて、11人いた?
ウェンディ母さん…… そして8人の仲間達……
ダメだ。何も思い出せない。
霧がますます深くなって、頭の中が真っ白になっちまう。
いくら道しるべを見つけても、ホワイトアウトしてはどうにもならない。
11人の絵は四つ折りにされた後があり、新しいピンで留められていた。元からあったものじゃない。ジェイクが貼り付けたのだ。
これまで見つけてきた子供達の宝物も、ジェイクが置いていったのだろう。
これがジェイクの置き土産。ザックへのメッセージ。それは分かる。だが、目的が分からない。
ザックは食堂の椅子に腰掛けると、これまでのジェイクの行動を整理してみる。
1)ジェイクはファミリーのナンバー2。次期後継者としてボスからも期待されている。
2)クライアントから、オークションまでの間、特別な"商品"を預かることとなる。キュベリのチームに託される。
3)"商品"を巡ってチームに裏切りが多発したため、ジェイクは引き締めと叱咤激励のため、キュベリの隠れ家へと向かう。
4)キュベリの隠れ家に着いたジェイクは、"商品"を確保して逃走。思い出の"ひみつきち"に逃げ込む。
5)"ひみつきち"のあちこちにザックへのメッセージを残し、ジェイク自身は最深部で待っている。
ダメだ。訳が分からない。
ジェイクの"商品"を巡る行動原理は理解できる。ファミリーへの裏切りか、ファミリーを護るための忠誠かだ。
だが、"ひみつきち"での行動はサッパリだ。
常識的に考えれば、ザックを味方に引き入れるか、敵として排除するかのどちらかだろう。
しかし、元よりザックはジェイクを兄貴と慕い、忠誠を誓っている。
ジェイクがファミリーを裏切ると言うなら、ザックも後に続く事を迷わない。それはジェイクだって重々承知しているはずだ。
そこでザックは気付いた。
「いや、待てよ? ちょっと待ってくれ! じゃあ……、じゃあなんで、ボスはオレに仲介役なんてものを頼んできたんだ?」
ザックとジェイクの仲を、ボスは知っている。
ジェイクが裏切ればザックも共に裏切る。そこにボスが気がつかなかった? あり得ない。
ボスには確証があったのだ。ザックなら出来るという確証が。だが、一体どんな確証だ?
ザックなら、ジェイクとキュベリを説得できるという確証か? 建前はそうだろう。
ならばボスの本音はなんだ?
ジェイクだろうがキュベリだろうが、ザックなら裏切り者を必ず始末してくれるという確証がある?
確かにザックは殺し屋だ。人殺しが大好きなサイコパスだ。
だが、ジェイクは兄貴分だ。キュベリも弟分なのだ。
快楽殺人よりも情を取るという可能性に、ボスは気付かなかったのか?
そんなはずがない。長年ファミリーの頂点に立っていた男が、気付かないはずがない。
となると、考えられるのは……
ザックは裏切らない。もしくは裏切れない。裏切っても問題無い。
つまり、ボスはすでに対策済みなのだ。そう考えた方が筋が通る。
そしてそれは多分、自分の覚えのない思い出と関係があるのだ。
と言うことは……。と言うことは……。
ダメだ。分からない。サッパリ分からない。今、分かる事と言ったら1つだけ。
ジェイクに会うしかない。
きっとそれが真相に辿り着く、ただひとつの方法だ。
ザックは絵を剥がし、食堂を後にした。
だが……
「ん? こりゃなんだ? こんな脇道、知らねぇぞ?」
気がつくと、どこに続くか分からない脇道がポッカリと空いていた。まるで記憶に無いのに、とても懐かしかった。
そのトンネルは下ではなく、上へと続いている。
上へ、上へ。覚えのない懐かしさに導かれ、ザックはトンネルを上ってゆく。
やがて、灯りの漏れるドアが現れた。ここは確か……だめだ。思い出せない。
だが、部屋の灯火がジェイクによるものなら、どのみち入って確かめるしかない。
ザックがドアノブを掴んだ瞬間……
ドアの向こうから子供達の声が聞こえる。
楽しそうな笑い声と、美味しそうな料理の匂いがする。
ザックはそっと扉を開ける。するとそこには………
暖かそうな灯りに包まれ、食卓を囲む子供達の姿がいた。
「来たな、ザック♪」
「お帰り、ザック♪」
「遅いぞ、ザック♪」
「待ってたぞ、ザック♪」
「どこ行ってたんだ、ザック♪」
「待ちくたびれたぞ、ザック♪」
「早く手を洗え、ザック♪」
「今日は御馳走だぞ、ザック♪」
8人の少年がザックを笑顔で迎える。
「お前達は一体……っ!」
ザックが部屋に一歩踏み込んだ瞬間、何もかもが消え去った。ただ静寂が支配していた。
寂しく光るランタンが照らすのは、誰もいない大部屋に残された3つのテーブルと、端に置かれた調理道具。奧の壁にはカマドがあり、恐らく地上まで繋がっているのだろう。レンガ作りの煙突が天井まで連なっている。
よく見ると、部屋の端にカーテンが閉められていた。こんな地下に窓なんてあるわけがない。カーテンで仕切って何かを隠しているのだ。
ザックはツカツカと歩み寄り、カーテンを開く。そこは壁を掘って作られた物置のようだった。しかし、ここに住んでいた住人は長椅子、もしくはベッドとして使っていたようだ。
ザックは膝上の高さの床を確かめた後、正面を見る。そこにはクレヨンで描かれた一枚の絵が貼られていた。間違いない。スケッチブックから破り取られた絵の1枚だ。
中央に描かれた1人の少女。そして彼女を囲むように、10人の少年が描かれていた。そこにはザックとジェイクもいた。2人は少女を挟むように、左右に描かれている。
全部で11人……
2人じゃなくて、11人いた?
ウェンディ母さん…… そして8人の仲間達……
ダメだ。何も思い出せない。
霧がますます深くなって、頭の中が真っ白になっちまう。
いくら道しるべを見つけても、ホワイトアウトしてはどうにもならない。
11人の絵は四つ折りにされた後があり、新しいピンで留められていた。元からあったものじゃない。ジェイクが貼り付けたのだ。
これまで見つけてきた子供達の宝物も、ジェイクが置いていったのだろう。
これがジェイクの置き土産。ザックへのメッセージ。それは分かる。だが、目的が分からない。
ザックは食堂の椅子に腰掛けると、これまでのジェイクの行動を整理してみる。
1)ジェイクはファミリーのナンバー2。次期後継者としてボスからも期待されている。
2)クライアントから、オークションまでの間、特別な"商品"を預かることとなる。キュベリのチームに託される。
3)"商品"を巡ってチームに裏切りが多発したため、ジェイクは引き締めと叱咤激励のため、キュベリの隠れ家へと向かう。
4)キュベリの隠れ家に着いたジェイクは、"商品"を確保して逃走。思い出の"ひみつきち"に逃げ込む。
5)"ひみつきち"のあちこちにザックへのメッセージを残し、ジェイク自身は最深部で待っている。
ダメだ。訳が分からない。
ジェイクの"商品"を巡る行動原理は理解できる。ファミリーへの裏切りか、ファミリーを護るための忠誠かだ。
だが、"ひみつきち"での行動はサッパリだ。
常識的に考えれば、ザックを味方に引き入れるか、敵として排除するかのどちらかだろう。
しかし、元よりザックはジェイクを兄貴と慕い、忠誠を誓っている。
ジェイクがファミリーを裏切ると言うなら、ザックも後に続く事を迷わない。それはジェイクだって重々承知しているはずだ。
そこでザックは気付いた。
「いや、待てよ? ちょっと待ってくれ! じゃあ……、じゃあなんで、ボスはオレに仲介役なんてものを頼んできたんだ?」
ザックとジェイクの仲を、ボスは知っている。
ジェイクが裏切ればザックも共に裏切る。そこにボスが気がつかなかった? あり得ない。
ボスには確証があったのだ。ザックなら出来るという確証が。だが、一体どんな確証だ?
ザックなら、ジェイクとキュベリを説得できるという確証か? 建前はそうだろう。
ならばボスの本音はなんだ?
ジェイクだろうがキュベリだろうが、ザックなら裏切り者を必ず始末してくれるという確証がある?
確かにザックは殺し屋だ。人殺しが大好きなサイコパスだ。
だが、ジェイクは兄貴分だ。キュベリも弟分なのだ。
快楽殺人よりも情を取るという可能性に、ボスは気付かなかったのか?
そんなはずがない。長年ファミリーの頂点に立っていた男が、気付かないはずがない。
となると、考えられるのは……
ザックは裏切らない。もしくは裏切れない。裏切っても問題無い。
つまり、ボスはすでに対策済みなのだ。そう考えた方が筋が通る。
そしてそれは多分、自分の覚えのない思い出と関係があるのだ。
と言うことは……。と言うことは……。
ダメだ。分からない。サッパリ分からない。今、分かる事と言ったら1つだけ。
ジェイクに会うしかない。
きっとそれが真相に辿り着く、ただひとつの方法だ。
ザックは絵を剥がし、食堂を後にした。
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