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【2】ナラクニマヨイテ
2-5 二人のジャン
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大広間の入り口で、ザックは訴える。ファミリーにはジェイクもキュベリも必要だと。
大広間の奧で、ジェイクは黙って聞く。最適解を導こうと、聞きながら考える。
ザックの訴えが一区切り付いたところで、ジェイクが口を開いた。
「一ついいか?」
「ああ、なんだい兄貴」
「私が説得に応じなかったら、お前はどうするつもりなんだ?」
「そりゃもちろん、兄貴が折れてくれるまで、ひたすら説得を続けるさ。兄貴が逃げるつもりなら、どこまでも追い掛ける」
「はっはっはっはっはっ」とジェイクは愉快そうに笑う。
「なるほど、お前らしいなザック。幼い頃からお前はそうだった。『アニキアニキ』とどこまでも付いてきて、置いていけば泣きながら追い掛けてきたものだ」
「そうだっけか? もう忘れちまったよ」
「さて、どうしたものか……」そう言いながらジェイクは腕を組む。
「実はな、お前に話すべき事が山のようにあってな。何から話すべきか考えあぐねているのよ」
「そんなの、思いつくままに話せばいいんじゃねえの?」
「そうはいかない。物事には順番というものがあるのさ。……よし、決めた」
そう言うと、ジェイクはザックを睨み付け、話を切り出す。
「知っているかザック。ガングワルドにはな…」
「えええ… ここに来てそれかよ~」
固唾を呑んで気構えていたザックは、ガックリと肩を落とす。
「いいだろ。久々なんだから。四の五の言わずに黙って聞け!」
「ヘイヘイ。分かりましたよ」
"ガングワルドうんちく"。異世界ガングワルドにかぶれたジェイクの、ちょっとした雑学語りだ。
又聞きの又聞きで信憑性も無く、実用性も皆無。場を和ませるのが精々の、無駄話でしかない。
酒の場であれば、ザックも喜んで聞いていたのだが……
だが、ジェイクがどうしても話したいと言うのなら、ザックは聞くしかない。
「ジャンって名前があるよな」
「ああ、男の名前だよな」
「知っているかザック。ガングワルドにいるジャンにはな、スゲェヤツがいるのさ。少なくとも、私は二人のスゲェジャンを知っている」
「へぇ。それはどんなヤツなんだい?」
「一人はな、"脱獄王ジャン"だ」
「脱獄王?」
「最初はパンを盗んだだけだったんだ。ところが警備隊からは不当に重い罰を与えられ、何日も投獄された」
「パンを盗んだだけで投獄かよ。そりゃ確かにひでぇな」
「だからジャンは脱獄した。しかしすぐに捕まり、更に刑期が増えた。納得できないジャンはまた脱獄し、また捕まりを繰り返し、刑期はどんどん延びていく。お勤めが終えて娑婆に出た時には、もう40代か50代さ」
「……なんというか、報われない人生だな」
「だが、経歴を詐称し、会社を興したところ、これが大成功。なんと市長にまで上りつめるのさ」
「そりゃまた……波瀾万丈だな」
「この後も、なんやかんやあるのだが」
「なんやかんやってなんだよ」
「なんやかんやは、なんやかんやだ。必要の無い長話を省略する時に使われる言葉だよ」
「便利な言葉だなぁ。じゃあいいや。話を続けてくれ」
「ジャンはせっかく得た地位も名誉もかなぐり捨て、1人の女の子を助け出すと、その子を連れて逃亡生活を始めるのさ」
「そりゃまた……唐突だな」
「そしてジャンは女の子を一人前のレディに育て、嫁入りを見届けてから、彼女の元を去るのさ。どうだ、感動的だろう?」
「なんというか……人生色々だな。で、もう一人は?」
「もう一人はな、"殺し屋ジャン"だ」
「殺し屋……ジャン?」
「ああ。狙った獲物は必ず仕留める、凄腕の殺し屋さ。ちょうどお前みたいなヤツだな」
「へぇ。オレみたいなヤツか…。なんか親近感湧いてきたぜ」
「足が付かないよう、安アパートでコッソリと暮らしていたんだが、ある日隣に住んでいた家族が、武装集団に皆殺しにされた」
「そりゃまた、どうして?」
「預かっていたブツを横流ししていたのさ。言うなれば見せしめだな」
「なるほど。裏の社会じゃ割とよくある話だな」
「"殺し屋ジャン"にとって、その家族は赤の他人なので、事件に関わらないよう静観していた。だが、事件の直前に、その家族の娘とたまたま知り合いになってな。うっかりその子を助けちまった」
「そりゃあ……やっちまったって感じだな」
「ああ。やっちまった。我が身大事なら、娘なんてとっとと始末するべきだったんだが、情が移っちまってな。名前は確か、ナタリーだったか…。殺し屋ジョンと家なき子ナタリーの、奇妙な共同生活が始まっちまったのさ」
「そりゃまた……波乱万丈な人生だな」
「その共同生活は、ジョンにとってもナタリーにとっても幸せな時間だった。だけど長くは続かなかった」
「何が……あったんだ?」
「それが、なんやかんやあってな…」
「またなんやかんやかよ! マジで便利だな、なんやかんや!」
「実は武装集団の正体は汚職まみれの自警団で、奴らにナタリーと、ナタリーを護る殺し屋の存在が知られちまったのさ」
「おいおい、国家組織が敵なのかよ! しかも裏と繋がってるのかよ! メチャクチャやべーな」
「ああ。ナタリーを逃がし、自警団と激戦を繰り広げるも、殺し屋ジョンは深傷を負っちまう。だけどな、死に間際に黒幕を巻き込んで、自爆して果てた。自分の命と引き替えに、ナタリーを狙う奴らを皆殺しにしたのさ。どうだ、感動的だろう?」
「たしかに……壮絶だな」
「そう言うわけでな、お前もガングビトのジャンに出会う事があったら、敬意を持って接してくれ」
「よく分からんが……兄貴がそう言うなら、そうするよ」
そもそも異世界ガングワルドに行くのも困難だし、ガングビトに会う可能性すら希なのだが……
それにしてもジェイクは何を言いたかったんだ?
脱獄王ジャン…。殺し屋ジャン…。
この二人、ジェイクとザックに似ているような気はするが、何か関係があるのだろうか?
名前以外の共通点と言ったら、どちらも男で、どちらも犯罪者で、どちらも女の子を護ったくらい……
……女の子?
大広間の奧で、ジェイクは黙って聞く。最適解を導こうと、聞きながら考える。
ザックの訴えが一区切り付いたところで、ジェイクが口を開いた。
「一ついいか?」
「ああ、なんだい兄貴」
「私が説得に応じなかったら、お前はどうするつもりなんだ?」
「そりゃもちろん、兄貴が折れてくれるまで、ひたすら説得を続けるさ。兄貴が逃げるつもりなら、どこまでも追い掛ける」
「はっはっはっはっはっ」とジェイクは愉快そうに笑う。
「なるほど、お前らしいなザック。幼い頃からお前はそうだった。『アニキアニキ』とどこまでも付いてきて、置いていけば泣きながら追い掛けてきたものだ」
「そうだっけか? もう忘れちまったよ」
「さて、どうしたものか……」そう言いながらジェイクは腕を組む。
「実はな、お前に話すべき事が山のようにあってな。何から話すべきか考えあぐねているのよ」
「そんなの、思いつくままに話せばいいんじゃねえの?」
「そうはいかない。物事には順番というものがあるのさ。……よし、決めた」
そう言うと、ジェイクはザックを睨み付け、話を切り出す。
「知っているかザック。ガングワルドにはな…」
「えええ… ここに来てそれかよ~」
固唾を呑んで気構えていたザックは、ガックリと肩を落とす。
「いいだろ。久々なんだから。四の五の言わずに黙って聞け!」
「ヘイヘイ。分かりましたよ」
"ガングワルドうんちく"。異世界ガングワルドにかぶれたジェイクの、ちょっとした雑学語りだ。
又聞きの又聞きで信憑性も無く、実用性も皆無。場を和ませるのが精々の、無駄話でしかない。
酒の場であれば、ザックも喜んで聞いていたのだが……
だが、ジェイクがどうしても話したいと言うのなら、ザックは聞くしかない。
「ジャンって名前があるよな」
「ああ、男の名前だよな」
「知っているかザック。ガングワルドにいるジャンにはな、スゲェヤツがいるのさ。少なくとも、私は二人のスゲェジャンを知っている」
「へぇ。それはどんなヤツなんだい?」
「一人はな、"脱獄王ジャン"だ」
「脱獄王?」
「最初はパンを盗んだだけだったんだ。ところが警備隊からは不当に重い罰を与えられ、何日も投獄された」
「パンを盗んだだけで投獄かよ。そりゃ確かにひでぇな」
「だからジャンは脱獄した。しかしすぐに捕まり、更に刑期が増えた。納得できないジャンはまた脱獄し、また捕まりを繰り返し、刑期はどんどん延びていく。お勤めが終えて娑婆に出た時には、もう40代か50代さ」
「……なんというか、報われない人生だな」
「だが、経歴を詐称し、会社を興したところ、これが大成功。なんと市長にまで上りつめるのさ」
「そりゃまた……波瀾万丈だな」
「この後も、なんやかんやあるのだが」
「なんやかんやってなんだよ」
「なんやかんやは、なんやかんやだ。必要の無い長話を省略する時に使われる言葉だよ」
「便利な言葉だなぁ。じゃあいいや。話を続けてくれ」
「ジャンはせっかく得た地位も名誉もかなぐり捨て、1人の女の子を助け出すと、その子を連れて逃亡生活を始めるのさ」
「そりゃまた……唐突だな」
「そしてジャンは女の子を一人前のレディに育て、嫁入りを見届けてから、彼女の元を去るのさ。どうだ、感動的だろう?」
「なんというか……人生色々だな。で、もう一人は?」
「もう一人はな、"殺し屋ジャン"だ」
「殺し屋……ジャン?」
「ああ。狙った獲物は必ず仕留める、凄腕の殺し屋さ。ちょうどお前みたいなヤツだな」
「へぇ。オレみたいなヤツか…。なんか親近感湧いてきたぜ」
「足が付かないよう、安アパートでコッソリと暮らしていたんだが、ある日隣に住んでいた家族が、武装集団に皆殺しにされた」
「そりゃまた、どうして?」
「預かっていたブツを横流ししていたのさ。言うなれば見せしめだな」
「なるほど。裏の社会じゃ割とよくある話だな」
「"殺し屋ジャン"にとって、その家族は赤の他人なので、事件に関わらないよう静観していた。だが、事件の直前に、その家族の娘とたまたま知り合いになってな。うっかりその子を助けちまった」
「そりゃあ……やっちまったって感じだな」
「ああ。やっちまった。我が身大事なら、娘なんてとっとと始末するべきだったんだが、情が移っちまってな。名前は確か、ナタリーだったか…。殺し屋ジョンと家なき子ナタリーの、奇妙な共同生活が始まっちまったのさ」
「そりゃまた……波乱万丈な人生だな」
「その共同生活は、ジョンにとってもナタリーにとっても幸せな時間だった。だけど長くは続かなかった」
「何が……あったんだ?」
「それが、なんやかんやあってな…」
「またなんやかんやかよ! マジで便利だな、なんやかんや!」
「実は武装集団の正体は汚職まみれの自警団で、奴らにナタリーと、ナタリーを護る殺し屋の存在が知られちまったのさ」
「おいおい、国家組織が敵なのかよ! しかも裏と繋がってるのかよ! メチャクチャやべーな」
「ああ。ナタリーを逃がし、自警団と激戦を繰り広げるも、殺し屋ジョンは深傷を負っちまう。だけどな、死に間際に黒幕を巻き込んで、自爆して果てた。自分の命と引き替えに、ナタリーを狙う奴らを皆殺しにしたのさ。どうだ、感動的だろう?」
「たしかに……壮絶だな」
「そう言うわけでな、お前もガングビトのジャンに出会う事があったら、敬意を持って接してくれ」
「よく分からんが……兄貴がそう言うなら、そうするよ」
そもそも異世界ガングワルドに行くのも困難だし、ガングビトに会う可能性すら希なのだが……
それにしてもジェイクは何を言いたかったんだ?
脱獄王ジャン…。殺し屋ジャン…。
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……女の子?
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