ケモノグルイ【改稿版】

風炉の丘

文字の大きさ
21 / 47
【2】ナラクニマヨイテ

2-12 思い…出した 何もかも…

しおりを挟む
「ああ、クソッ! なんてこったい!」
 入り口に続くトンネルが陥没しているだろうことは、ザックも予測していた。
 だが、陥没の規模までは完全に想定外だった。崩れ落ちた土砂は第一の部屋まで達しており、ドアの半分が埋もれていたのだ。
「おい、マンモス坊や! 生きていたら返事しろ!」
 ザックはドアに駆け寄ると声を張り上げるが、中からの反応はない。
 ドアは土砂が邪魔をして開かないが、長年無人で痛みが激しく、蝶つがいを壊せばぶち破れそうだ。
「ったく……殺し屋が人命救助とはな。笑えないジョークだぜ」
 ドアの攻略にナイフを三本犠牲にするが、会議室は崩落もしておらず無事だった。しかしマンモスはどこにもいない。どうやら、大人しく言いつけを守る良い子ちゃんでは無かったようだ。少し安心した。
 ザックは椅子に腰掛け、しばし考える。
 マンモスはキュベリとの連絡用に水晶玉を持っていた。何らかの指示を受けて動いた可能性は高い。その結果が入り口の崩壊だろうか? だが、もしマンモスが土砂に埋もれていたなら、ザックには打つ手がない。埋もれてないと信じるしかなかった。
 となると賭けるべきは、"ひみつきち"の奧へ進んだ可能性か。
 ザックは最下層から真っ直ぐ入り口まで戻って来たが、通路にマンモスはいなかった。あの巨体を隠せるとしたら、途中の部屋か、落とし穴の底か、もしくは脇道の食堂だろうか。

 どうする?
 記憶を取り戻すことが最優先だが、今は手立てが無い。
 状況を確認しようにも、入り口が陥没していることしか分からない。
 となると……鍵となるのはマンモスか。あいつの無事が確認出来れば、状況も分かるかもしれない。
 その為に部屋をもう一度調べ直すのか。面倒臭いな……。いや、待てよ?
 もしかすると記憶を取り戻す手掛かりが、まだ残っているかもしれない。だったら無駄ではないかもな。
「やれやれ、アリの巣でマンモス狩りかよ。無事でいろよ、坊や……」
 方針は決まった。ザックは会議室を出ると、再び下へと進んでゆく。
 下へ、下へと……

「ったく、手間をかけさせやがって! クソマンモスが! 死んでいたらはっ倒すからな!」
 ザックは苛つきながら通路へと戻った。
 部屋を探索し直すのは手間だが、苦痛ではなかった。問題は複数ある落とし穴トラップだ。声かけだけで済ませたかったが、落下した際に頭を打ち、気絶している可能性もある。となると、いちいち下まで降りて確かめないといけない。そして、全てが無駄骨だった。本来ならマンモスが無事である可能性を喜ぶべきなのかもしれないが……
 結局、残されたのは食堂へと続く脇道だった。そこにいなけりゃお手上げだ。
「……ああ、そうか。クソ! 面倒くさいトラップは後回しにすりゃよかったんだよ!」
 自分のマヌケぶりに呆れながら、ザックは脇道を上る。しかし……
 肝心の食堂にもマンモスはいなかった。
 ザックは椅子に腰掛け、しばし考える。
「こいつぁ……いよいよもって、坊やの冥福を祈るしかないか?」
 いや、まだ行き違いになった可能性はある。ザックが入り口に向かっていた時には食堂にいて、ザックが落とし穴を調べているうちに、ジェイクのいる最下層に向かっていたなら……。
 そう思いながら周囲を見渡し、ザックは気付いた。部屋の端にあるカーテンが閉められているのだ。そのカーテンは、ザックが開いたままにしていたはず。自然に閉まるような仕様ではなかった。
 ザックはツカツカと歩み寄り、カーテンを開く。中には誰もいなかった。そもそも壁を掘って作られたその空間は、マンモスが隠れるには小さすぎる。
 それでも、初めて見つけた痕跡だった。ザックはホッと胸をなでおろす。
「しかし、なんで坊やは食堂なんかに来た? 腹でも減ったか? ……いや、まてよ? あの野郎、もしかして!」
 ザックはカマドに半身を突っ込むと、中からレンガ作りの煙突を覗く。実は煙突はもしもの時の脱出口である。ザックが入り口の崩落に慌てなかったのも、ここを知っていたからだ。もっとも、地上のどこに繋がっているかまでは知らないが。
 煙突の中は大人が通り抜けられるほど広く、登るための取っ手も等間隔に付いていた。しかし内側には大量のススが溜まったままで、使われた形跡は無い。マンモスはここには来てないようだ。
 更にザックは非常に不味いことに気付く。マンモスの体では大きすぎて、煙突に入らないのだ。
 つまり、今のままでは、マンモスだけは"ひみつきち"から出られない。となるともう、見捨てるしか……
 いや! まだだ! 最悪の事態は想定すべきだが、覚悟するにはまだ早い!
 ザックはネガティブな感情を頭の中から追い出すと、見逃した手掛かりを求め、食堂の探索を再開する。
 その時だった。
 ザックの靴が何かを蹴り、小さくて金属音のする球体のようだった。カラカラと音を立てながら転がると、部屋の隅に引っかかって止まった。拾ってみると、それは小さな鈴だった。その錆び付き具合から、長年放置されていたであろう事は想像に難くない、千切れた紐の欠片もボロボロだ。
 その鈴がリン♪と鳴った。
 錆び付いてカラカラとしか鳴らないはずの鈴が、ザックの掌で涼やかな音を放った。
 リン♪ リン♪ リン♪ リン♪ リン♪ リン♪
 耳をふさいでも音は消えない。幻聴は激しさを増し、ザックを支配していき、そして……
 そしてザックは思い出した。


 思い出してしまった


「ああ……ああ……なんてこった………。
 オレのせいだ。全部……オレのせいだ。思い…出した。何もかも…
 オレのせいで、"ロストボーイ"も、ウェンディ母さんも、みんな、みんな、
 みんな死んだ! オレが… オレが… オレがあの時……」

 真実に打ちのめされ、立ってすらいられなくなったザックは、力無く椅子に座ると両の手で頭を抱える。
 枯れ果てていたはずの涙が、ザックの瞳から溢れ出ていた。
 突然、刺すような痛みが走る。右肩を見ると、ダーツが突き刺さっていた。
 それはたしか…
 キュベリの愛用する暗殺具で……
 針先にはたっぷり毒が塗られていて………
 振り返ったザックは辛うじて、食堂の入り口にキュベリの存在を確認したが……

 もう……何も見えない。



第2章・完
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...