ケモノグルイ【改稿版】

風炉の丘

文字の大きさ
37 / 47
【4】アトシマツ

4-6 そして地獄が現れる

しおりを挟む
「管理者? “ひみつへいき”の? ……そうか! 管理者か! ああ、思い出した! 思い出したぜ!」
 ザックはジェイクの言葉を思い出す。「“ひみつへいき”はでかすぎて、1人じゃ動かすのは無理だ。だから“管理者”を用意した。もしもの時は、上手く活用してくれ」と。
「嬉しいね。まさかここに来て味方到来とは。流石のオレもたまげたぜ」
「到来と言われても困る。我が輩は待っていただけだ。ずっとずっと待っていただけだよ」
「ははっ♪ そうだな。確かにそうだ」
「挨拶が遅れたが、久しぶりだな、ミスターザック」
「ん? 『初めまして』じゃないのか? オレはお前さんに会った覚えは無いんだが?」
「当然だ。我が輩はずっと地下で眠っていたのだからな。だが20年前、ミスタージェイクの視界を借りて君を見ていたのだよ。たまたま起きていたのでね」
「そうかい。どうやらお前さん、人間じゃなさそうだな」
「人外では不服かね?」
「兄貴が用意したんだ。何だって大歓迎だぜ!」
「ところで……、お主がここにいるということは、ミスタージェイクは死んだのだな」
「ああ。今頃は冥府で、“ロストボーイ”のみんなと再会を祝ってるさ」
「そしてお主はこれから、“ひみつへいき”を使おうというのだな」
「ああ、その通りだぜ」
「そうか…。ついにか…。永かった…。この時が来るのをずっと待っていた。感無量だ」
「感慨深いのは分かるんだが、ちょっと急いでくれないか。敵が迫ってるんだ」
「せっかちなやつだな。何がどうなっておるのだ。状況を説明してもらえないか」
「“ひみつへいき”を使いたい。合言葉は唱えた。扉は開いたが中に入れない。どうしゅりゃいい?」
「ああ、なるほど。そこで詰まっているのか。ならば簡単だ。二つ目の合言葉を唱えればいい」

「は?」

「だから、二つ目の合言葉を唱えるのだ。さすれば見えない壁は消える。簡単だろう?」
「いやまて、ちょっと待ってくれ」
「待てというならいくらでも待つが、何を待てばよいのだ」
「二つ目の合言葉なんて、オレは知らないぞ」
 ザックがいくら思い返しても、ジェイクが二つ目の合言葉の話をしたなんて事実はなかった。
「それはそうだろう」
「どういうことだ、管理者」
「二つ目の合言葉が追加されたのは昨年だ。それ以降、毎月のように変えている。知らなくても無理はないよ」
「じゃあどうすればいい? あんたが教えてくれるのか?」
「はっはっはっ♪ 面白い冗談だ。我が輩が教えてはセキュリティ強化の意味が無いだろう。思い出せミスターザック。君が裏切ったのでなければ、ミスタージェイクは君に合言葉のヒントを教えているはずだ」

 ヒント…。ヒント…。本当にそんなものが?
 ザックは考える。あの暗闇で、“ひみつきち”で、オレは兄貴とどんな会話を交わした?
 思い出せ。思い出せ。思い出せ。
「あっ! もしかしてあれか! いや、あれしかない! あれに決まってる!!」
「思い出したなら、二つ目の合言葉をドウゾ」
「“2人のジャン”だ!」
「ブ~~~~~っ 違いますな」
「なん……だと!?」
 ザックは頭を抱えてしゃがみ込む。コレジャナイとすれば、一体何だ? 他に何かあったか? いや、まてよ……
「もしかして…“脱獄王ジャン”?」
「それも違いますな」
「ダメモトで、“殺し屋ジャン”とか…」
「正解ですな」
 くそっ! これもダメとなると、もう総当たりしかないが、十中八九間に合わないだろう。こうなったらやってやる! 千人もの猛者を独りで迎え撃ってやるさ!
 ………って、え?
「管理者、今なんて言った?」
「だから『正解ですな』と言っている。二つ目の合言葉は“殺し屋ジャン”が正解。もう入れるぞ」
 その瞬間、柱を鉛玉が貫通する。ザックが立ったままなら、脳天を貫通していただろう。
 ザックは再びエコー・ベルを掴むと、下り階段に飛び込んだ。

 ドアは自動で閉まり、外界を遮断する。発光するエコー・ベルがいなければ、ザックは真っ暗闇に包まれていただろう。
「だから悪かったって。ベソかかないでくれ、エコーちゃんよ」
 涙目のエコー・ベルだったが、その口はエコーの気持ちとは関係なく、管理者の言葉を伝える。
「入り口は完全に封鎖した。我が輩が生きている限り誰も侵入できない。階段の突き当たりに、“ひみつへいき”の制御室があり、我が輩もそこにいる。お前さんを直接見れるのが楽しみだよ」
「奇遇だな。オレもお前さんと会うのが楽しみになってきたところさ。ま、よろしく頼むわ」
 エコー・ベルの明かりを頼りに、ザックは階段を下ってゆく。
 下りながらザックは考える。
 二つ目の合言葉は“殺し屋ジャン”だった。
 ジェイクの話によると、たった1人の少女を守るために、悪党共を皆殺しにしたという。
 まるで、今のザックそのものだ。
 これは偶然か? それともジェイクが望んだ結果なのか? ザックに“殺し屋ジャン”になれと言うのか?
 真相は分からない。知ったところで意味も無い。どっちにしたってザックのやることに変わりはないのだから。

 ところで、もし生き残ってしまったらどうしよう。
 “殺し屋ジャン”は命を引き替えにした。ザックも命を惜しむつもりはないが、“ひみつへいき”が予想以上に強力なら、うっかり生き残ってしまうかもしれない。その時はどうしよう。
「ああ、そうだ。すっかり忘れてたぜ。本場のアリ料理を食べなきゃって思ってたんだ。こりゃ簡単には死ねねぇなぁ」
 ザックは独りつぶやくと、静かに笑う。エコー・ベルは何も言わず、ただザックを見つめていた。


 それから数分後……
 地上に、屋敷に、その周辺に、地獄が顕現された。
 千人もの犯罪者が、闇の住人が、裏の仕事を受け持つ冒険者が、地獄に飲み込まれた。
 静寂に残されたのは、血の海と、数え切れない骸。
 そして暗殺者“ザック・ザ・リッパー”の行方は、杳として知れない。


第4章・完
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

処理中です...