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エピローグ
モナカ
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激しい地響きと地鳴り。爆発音。荒れ狂う風。そして多分、誰かしらの悲鳴。
様々な音や振動が、泡立て器でかき混ぜたように合わさり、そのうねりは怪物の咆哮のような、恐ろしい何かへと変わってゆく。
地下室に囚われた少女には、この世の終わりが来たようにしか思えなかった。両手で耳をふさいでうずくまっても、恐ろしい現実からは逃げられない。
「こわい。こわい。こわい。こわいよ。たすけて。たすけて。たすけて。たすけてよ」
幼い少女には祈る神もいない。少女がすがれるのはただ独り。
「こわいよ、にぃに。たすけて、にぃに。にぃに。にぃに。にぃに」
少女にとっては、存在しない兄こそが、唯一無二の存在だった。
自分が何時何処で生まれたのか、モナカは知らない。物心ついた時には、人里離れた山小屋で暮らしていた。
一緒に暮らしていたのは、自らを“モナカの母”と名乗る老女が1人だけ。だけどモナカは、彼女を母だと思ったことは一度も無い。母親にしては年が離れていたし、何より彼女はケモノ耳でもなければシッポも生えてない。至って普通の人間だったからだ。
十日ほど前、モナカは思い切って彼女に質問した。「モナカはお母さんの娘なの?」と。彼女の答えはこうだった。
「モナカや、貴方は間違いなく私の娘ですよ。何故なら、私がそう決めたからです」
自称“モナカの母”は教育熱心で、家事はもちろん、読み書きや算術、日常生活に役立つ初歩的な魔法など、己が用いる全ての知識をモナカに授けようとしていた。だが、あまりにも熱心すぎた。
モナカが間違いや失敗を犯せば、折檻した。どんな些細なことでも許さなかった。鞭で打たれ、食事を抜かれ、狭い檻に閉じ込められた。泣き叫んだところで、その声は誰にも届かなかった。
モナカが8歳を迎えると、更に性的虐待が始まった。自称“モナカの母”は、愛の名の元にその行為を正当化した。ただただ気持ち悪かった。だけど拒めば折檻が待っている。モナカは耐えるしかなかった。
そしてモナカが10歳になった今年、自称“モナカの母”は体調を崩し始める。
彼女が近隣の村への買い出しに出かけた時、モナカはいつも留守番だった。だから一緒に村へ買い物に行くと聞かされた時、モナカは期待で胸が膨らむ思いだった。
自称“モナカの母”は、モナカの長いシッポとケモノ耳を隠すため、ロングスカートに赤頭巾を被せ、「シッポと耳は決して誰にも見せてはいけない」と念入りに誓わせる。折檻が恐ろしいモナカに、誓いを破る勇気なんて無かった。
初めて見る村は驚きの連続だったが、何よりも驚いたのは、初めて見る男の人の存在だった。体が大きくて、力強そうで、そして誰もがモナカに優しかった。
自称“モナカの母”は「一見優しそうに見えても、男はオオカミのように恐ろしい存在だ」と話すが、無意味な忠告だった。何故ならモナカにとって、自称“母”よりも恐ろしい存在などいないのだから。
2人が買い物を済ませ、荷物を抱えて帰る間際、モナカは衝撃的な光景を目の当たりにする。いや、孤独な少女にとっては奇跡と言っても過言ではない。
それは、仲むつまじく戯れる、兄と妹の姿だった。
うるさく吠えて妹を怯えさせる小犬を、兄が棒で追い払う。モナカの瞳には、そんなたわいのない光景が、美しく、尊く、神秘的に映った。
幼い妹が兄に向けて発した「にぃに」と言う言葉が、モナカの耳に愛おしく、麗しく、甘美に響いた。
それ以来、“にぃに”はモナカの救世主となった。
この世界の何処かにきっと、生き別れた兄がいる。そんな妄想に囚われるようになった。
それが、それだけが、モナカの生きる希望だった……。
自称“モナカの母”は、頻繁に体調を崩すようになった。村への買い出しもモナカが独りで行くようになり、少しずつだが知り合いも増えてゆく。
男の人はみんな優しかった。女の人も優しかったが、少数ながら優しくない人もいた。中でも最たる者が、前述した兄妹の妹だった。兄はモナカに優しく接してくれたが、そこに妹が割って入り、モナカに敵意をむき出しにするのだ。
モナカには訳が分からない。妹の態度に腹が立ったが、同時に悲しかった。
そんなある日のことだった。買い出しに向かった村で、モナカは1人の旅人に声をかけられる。優しそうな中年のおじさんだった。
旅人のおじさんは、知り合いに妹とはぐれた男の子がいて、モナカがそっくりだったので、つい声をかけてしまったのだという。
モナカのにぃにが、モナカだけのにぃにが、本当にいた!?
それはモナカにとってはあまりにも衝撃的で、余所者を疑うことを忘れるには十分だった。
山小屋に帰ったところで、ただ辛いだけ。良い事なんて何も無い。だったら……
モナカは偽りの希望にすがってしまう。
そして気がつくと、モナカは暗くて狭い部屋に閉じ込められていた。
部屋に窓はなく、机に置かれたランプの灯火が唯一の光源だった。
どうやってこの部屋に来たのか、まったく思い出せない。覚えている最後の記憶は、旅のおじさんと野宿をして、温かいココアを飲ませてもらったこと。だんだん眠くなって、記憶はそこで途切れていた。
誘拐されたのだと露程も思わないモナカは、心細さに耐えきれず、開かないドアを叩いておじさんを呼ぶ。
「うるさいぞ! 黙れ!」
叫び声と共にドアが開く。だけど現れたのは旅のおじさんではなかった。16歳くらいの若者で、モナカが初めて見る怖そうな男の人だった。
もしかして、この人がにぃに? モナカのにぃになの?
どう見てもモナカにそっくりとは言いがたい。だけど年上の男の人だ。もしかしたら… もしかするかも…
モナカは怖そうな男の人を見上げ、切実な想いを込めて、恐る恐る尋ねる。
「にぃに……なの?」
お願い! お願い! にぃにだと言って! モナカのにぃにだって!
モナカの魂の叫びが虚空へと消える。
だけどどんなに望んでも、それは決して叶わない。叶うはずがない。
目の前にいるのはただのチンピラで、誘拐犯の片割れなのだから。
ところが……
モナカの望みは……
叶ってしまう……
「そうだよ。オレがお兄ちゃん。お前だけのにぃにだよ」
チンピラの若者は別人のように優しく微笑み、モナカの頭を愛しげに撫でる。
こうして狂気が始まった。悪党共が次々と、優しく狂い出したのだ。
誘拐され、見知らぬ部屋に閉じ込められ、精神的に追い込まれたモナカは、ついに“魅了のチカラ”を覚醒させてしまう。しかも、制御出来ない暴走状態でだ。モナカの“魅了”に囚われた者は、誰もがモナカの望む存在になろうと異常行動を取り始める。すなわち、モナカを愛し、モナカを護る、モナカだけの“にぃに”になろうとするのだ。その為なら手段も選ばない。
それはモナカにとっても、思いがけない生き地獄だった。
誰もがモナカの“にぃに”になりたがり、邪魔する者は片っ端から殺した。だがモナカの安全を確保すると、今度は自分だけがモナカの“にぃに”になろうと、“にぃに”同士で殺し合いを始めるのだ。
最後に残った“にぃに”は常に誰もが血まみれだった。それでもモナカは、差し出された手を握った。握るしかなかった。
気がつけば、地下室は静寂が支配していた。
モナカは耳を澄ますが、外からは何も音がしない。戦いは終わったのだろうか。それとも、本当にこの世の終わりが来てしまったのだろうか。
モナカをこの地下室に連れてきた大きなおじさんは、怯えるモナカを落ち着かせようと、こんな事を言った。
「全てを見通す千里眼で、モナカちゃんの未来を予言しましょう。お迎えが来るまでこの部屋で待ってなさい。きっとその子が、その少年が、モナカちゃんの“にぃに”になってくれます。大丈夫。彼はとても強くて、ちょっとやそっとでは死にません。それに優しい子だから、どんな敵でもやっつけて、モナカちゃんを護ってくれます。だから、だから、絶対に希望を捨てないでください」
モナカにその言葉が信じられるかと言えば、答えは否である。
仮初めの“にぃに”が、何度も、何人も、次々と死んでゆく様を見ていれば、信じられなくなるのも当然だろう。
だけど……
部屋の外から音がする。ガチャガチャとノブを回し、ドアが開く音がする。
「あっ、いたっ! 本当にいたっ! 先生!! 見つけたよっ!!!」
それは紛れもなく少年の声。側に駆け寄り、モナカに優しい言葉をかけてくる。
「君、モナカちゃんだよね。大丈夫かい? 助けに来たよ」
憔悴しきっていたモナカは、ゆっくりと頭をもたげ、少年の顔を見る。
褐色肌で、銀髪の髪。恐らくは南国出身の外国人。お坊ちゃんのような身なりの良い服を着ているが、あまり似合ってない気がする。
ケモノビトどころか、この国の人間ですらない。明らかにモナカとは別人だった。
それでも……
ふとモナカは、あの人の言葉を思い出す。
「モナカや、貴方は間違いなく私の娘ですよ。何故なら、私がそう決めたからです」
偽の母と認めながら、それでも本物の母と、あの人は言い切った。それはあまりにも傲慢で、横柄な答え。あの人を見限って家を出るのに十分過ぎる動機となった。
だけど今は、あの人を見習おう。その傲慢で横柄な考えを、教えとして受け継ごう。
今から目の前にいる少年が、モナカの“にぃに”だよ。モナカだけの“にぃに”だよ。だって、モナカがそう決めたのだもの。
「にぃに… あなたがモナカのにぃになのね…」
最後の力を振り絞り、モナカは少年に抱き付く。
「え? にぃに? いや、あの………まあいいか」
褐色の少年は戸惑いながらも、拒みはしなかった。今はそれだけで十分だ。
モナカが偽りの母を見限ったように、モナカもいずれ少年に見限られるかもしれない。
それでも今は、今だけは……。モナカだけの“本物のにぃに”でいてね……
、モナカは“にぃに”の匂いと温もりを感じながら、安らかな寝息を立てる。
彼女のハッピーエンドで終わる物語が、ここから始まるのだ。
きっときっと、始まるのだ……
ケモノグルイ・完
様々な音や振動が、泡立て器でかき混ぜたように合わさり、そのうねりは怪物の咆哮のような、恐ろしい何かへと変わってゆく。
地下室に囚われた少女には、この世の終わりが来たようにしか思えなかった。両手で耳をふさいでうずくまっても、恐ろしい現実からは逃げられない。
「こわい。こわい。こわい。こわいよ。たすけて。たすけて。たすけて。たすけてよ」
幼い少女には祈る神もいない。少女がすがれるのはただ独り。
「こわいよ、にぃに。たすけて、にぃに。にぃに。にぃに。にぃに」
少女にとっては、存在しない兄こそが、唯一無二の存在だった。
自分が何時何処で生まれたのか、モナカは知らない。物心ついた時には、人里離れた山小屋で暮らしていた。
一緒に暮らしていたのは、自らを“モナカの母”と名乗る老女が1人だけ。だけどモナカは、彼女を母だと思ったことは一度も無い。母親にしては年が離れていたし、何より彼女はケモノ耳でもなければシッポも生えてない。至って普通の人間だったからだ。
十日ほど前、モナカは思い切って彼女に質問した。「モナカはお母さんの娘なの?」と。彼女の答えはこうだった。
「モナカや、貴方は間違いなく私の娘ですよ。何故なら、私がそう決めたからです」
自称“モナカの母”は教育熱心で、家事はもちろん、読み書きや算術、日常生活に役立つ初歩的な魔法など、己が用いる全ての知識をモナカに授けようとしていた。だが、あまりにも熱心すぎた。
モナカが間違いや失敗を犯せば、折檻した。どんな些細なことでも許さなかった。鞭で打たれ、食事を抜かれ、狭い檻に閉じ込められた。泣き叫んだところで、その声は誰にも届かなかった。
モナカが8歳を迎えると、更に性的虐待が始まった。自称“モナカの母”は、愛の名の元にその行為を正当化した。ただただ気持ち悪かった。だけど拒めば折檻が待っている。モナカは耐えるしかなかった。
そしてモナカが10歳になった今年、自称“モナカの母”は体調を崩し始める。
彼女が近隣の村への買い出しに出かけた時、モナカはいつも留守番だった。だから一緒に村へ買い物に行くと聞かされた時、モナカは期待で胸が膨らむ思いだった。
自称“モナカの母”は、モナカの長いシッポとケモノ耳を隠すため、ロングスカートに赤頭巾を被せ、「シッポと耳は決して誰にも見せてはいけない」と念入りに誓わせる。折檻が恐ろしいモナカに、誓いを破る勇気なんて無かった。
初めて見る村は驚きの連続だったが、何よりも驚いたのは、初めて見る男の人の存在だった。体が大きくて、力強そうで、そして誰もがモナカに優しかった。
自称“モナカの母”は「一見優しそうに見えても、男はオオカミのように恐ろしい存在だ」と話すが、無意味な忠告だった。何故ならモナカにとって、自称“母”よりも恐ろしい存在などいないのだから。
2人が買い物を済ませ、荷物を抱えて帰る間際、モナカは衝撃的な光景を目の当たりにする。いや、孤独な少女にとっては奇跡と言っても過言ではない。
それは、仲むつまじく戯れる、兄と妹の姿だった。
うるさく吠えて妹を怯えさせる小犬を、兄が棒で追い払う。モナカの瞳には、そんなたわいのない光景が、美しく、尊く、神秘的に映った。
幼い妹が兄に向けて発した「にぃに」と言う言葉が、モナカの耳に愛おしく、麗しく、甘美に響いた。
それ以来、“にぃに”はモナカの救世主となった。
この世界の何処かにきっと、生き別れた兄がいる。そんな妄想に囚われるようになった。
それが、それだけが、モナカの生きる希望だった……。
自称“モナカの母”は、頻繁に体調を崩すようになった。村への買い出しもモナカが独りで行くようになり、少しずつだが知り合いも増えてゆく。
男の人はみんな優しかった。女の人も優しかったが、少数ながら優しくない人もいた。中でも最たる者が、前述した兄妹の妹だった。兄はモナカに優しく接してくれたが、そこに妹が割って入り、モナカに敵意をむき出しにするのだ。
モナカには訳が分からない。妹の態度に腹が立ったが、同時に悲しかった。
そんなある日のことだった。買い出しに向かった村で、モナカは1人の旅人に声をかけられる。優しそうな中年のおじさんだった。
旅人のおじさんは、知り合いに妹とはぐれた男の子がいて、モナカがそっくりだったので、つい声をかけてしまったのだという。
モナカのにぃにが、モナカだけのにぃにが、本当にいた!?
それはモナカにとってはあまりにも衝撃的で、余所者を疑うことを忘れるには十分だった。
山小屋に帰ったところで、ただ辛いだけ。良い事なんて何も無い。だったら……
モナカは偽りの希望にすがってしまう。
そして気がつくと、モナカは暗くて狭い部屋に閉じ込められていた。
部屋に窓はなく、机に置かれたランプの灯火が唯一の光源だった。
どうやってこの部屋に来たのか、まったく思い出せない。覚えている最後の記憶は、旅のおじさんと野宿をして、温かいココアを飲ませてもらったこと。だんだん眠くなって、記憶はそこで途切れていた。
誘拐されたのだと露程も思わないモナカは、心細さに耐えきれず、開かないドアを叩いておじさんを呼ぶ。
「うるさいぞ! 黙れ!」
叫び声と共にドアが開く。だけど現れたのは旅のおじさんではなかった。16歳くらいの若者で、モナカが初めて見る怖そうな男の人だった。
もしかして、この人がにぃに? モナカのにぃになの?
どう見てもモナカにそっくりとは言いがたい。だけど年上の男の人だ。もしかしたら… もしかするかも…
モナカは怖そうな男の人を見上げ、切実な想いを込めて、恐る恐る尋ねる。
「にぃに……なの?」
お願い! お願い! にぃにだと言って! モナカのにぃにだって!
モナカの魂の叫びが虚空へと消える。
だけどどんなに望んでも、それは決して叶わない。叶うはずがない。
目の前にいるのはただのチンピラで、誘拐犯の片割れなのだから。
ところが……
モナカの望みは……
叶ってしまう……
「そうだよ。オレがお兄ちゃん。お前だけのにぃにだよ」
チンピラの若者は別人のように優しく微笑み、モナカの頭を愛しげに撫でる。
こうして狂気が始まった。悪党共が次々と、優しく狂い出したのだ。
誘拐され、見知らぬ部屋に閉じ込められ、精神的に追い込まれたモナカは、ついに“魅了のチカラ”を覚醒させてしまう。しかも、制御出来ない暴走状態でだ。モナカの“魅了”に囚われた者は、誰もがモナカの望む存在になろうと異常行動を取り始める。すなわち、モナカを愛し、モナカを護る、モナカだけの“にぃに”になろうとするのだ。その為なら手段も選ばない。
それはモナカにとっても、思いがけない生き地獄だった。
誰もがモナカの“にぃに”になりたがり、邪魔する者は片っ端から殺した。だがモナカの安全を確保すると、今度は自分だけがモナカの“にぃに”になろうと、“にぃに”同士で殺し合いを始めるのだ。
最後に残った“にぃに”は常に誰もが血まみれだった。それでもモナカは、差し出された手を握った。握るしかなかった。
気がつけば、地下室は静寂が支配していた。
モナカは耳を澄ますが、外からは何も音がしない。戦いは終わったのだろうか。それとも、本当にこの世の終わりが来てしまったのだろうか。
モナカをこの地下室に連れてきた大きなおじさんは、怯えるモナカを落ち着かせようと、こんな事を言った。
「全てを見通す千里眼で、モナカちゃんの未来を予言しましょう。お迎えが来るまでこの部屋で待ってなさい。きっとその子が、その少年が、モナカちゃんの“にぃに”になってくれます。大丈夫。彼はとても強くて、ちょっとやそっとでは死にません。それに優しい子だから、どんな敵でもやっつけて、モナカちゃんを護ってくれます。だから、だから、絶対に希望を捨てないでください」
モナカにその言葉が信じられるかと言えば、答えは否である。
仮初めの“にぃに”が、何度も、何人も、次々と死んでゆく様を見ていれば、信じられなくなるのも当然だろう。
だけど……
部屋の外から音がする。ガチャガチャとノブを回し、ドアが開く音がする。
「あっ、いたっ! 本当にいたっ! 先生!! 見つけたよっ!!!」
それは紛れもなく少年の声。側に駆け寄り、モナカに優しい言葉をかけてくる。
「君、モナカちゃんだよね。大丈夫かい? 助けに来たよ」
憔悴しきっていたモナカは、ゆっくりと頭をもたげ、少年の顔を見る。
褐色肌で、銀髪の髪。恐らくは南国出身の外国人。お坊ちゃんのような身なりの良い服を着ているが、あまり似合ってない気がする。
ケモノビトどころか、この国の人間ですらない。明らかにモナカとは別人だった。
それでも……
ふとモナカは、あの人の言葉を思い出す。
「モナカや、貴方は間違いなく私の娘ですよ。何故なら、私がそう決めたからです」
偽の母と認めながら、それでも本物の母と、あの人は言い切った。それはあまりにも傲慢で、横柄な答え。あの人を見限って家を出るのに十分過ぎる動機となった。
だけど今は、あの人を見習おう。その傲慢で横柄な考えを、教えとして受け継ごう。
今から目の前にいる少年が、モナカの“にぃに”だよ。モナカだけの“にぃに”だよ。だって、モナカがそう決めたのだもの。
「にぃに… あなたがモナカのにぃになのね…」
最後の力を振り絞り、モナカは少年に抱き付く。
「え? にぃに? いや、あの………まあいいか」
褐色の少年は戸惑いながらも、拒みはしなかった。今はそれだけで十分だ。
モナカが偽りの母を見限ったように、モナカもいずれ少年に見限られるかもしれない。
それでも今は、今だけは……。モナカだけの“本物のにぃに”でいてね……
、モナカは“にぃに”の匂いと温もりを感じながら、安らかな寝息を立てる。
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きっときっと、始まるのだ……
ケモノグルイ・完
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