40 / 47
ヘビアシ
2 光ノ巨塔(ヒカリのキョトウ)
しおりを挟む
ここは…どこだ?
目を開くと、見知らぬ天井があった。
周囲に人の気配はない。
温度は適温。暑くもなければ寒くもない。
湿度も特に不快な感じはない。
両手を見る。
覚えのある手だ。色肌も紫ではない。正常な色。
体には毛布が掛けられ、背中は弾力のある柔らかいものに触れている。
ここでようやく、自分がベッドに横たわっているのだと気付く。
上半身を起こしてみる。
着せられているのは、簡単に着せたり脱がせたり出来る、患者衣のようだ。
周囲を見回してみる。
派手な装飾の無い、清潔な白い部屋。
窓と暖炉とドアが、それぞれ一つ確認出来る。
家具も最小限のものしかない。
机と椅子。クローゼット。ベッドの側には、引き出しの付いた小さな物置台があり、洗面器と水差しが置いてある。
ベッドを降りて起き上がってみる。
少しふらついたが、足腰に問題は無い。身体を探るが、何処にも傷は残っていなかった。
しかし股間に違和感を感じたので、患者衣をたくし上げ、確かめる。
「なんだこれ? くそ、おむつかよ……」
まずは窓に近寄り、外を確認する。
窓の外には美しい光景が広がっていた。上半分は青空で、下半分は街並み。街の終わりには巨大な壁があり、その先には森や山脈や湖が見える。どうやら巨大な塔…もしくは城の中にいるようだ。
次にドアに近寄り、開けてみる。
外に繋がっているかと思いきや、備え付けのトイレだった。ひとまずおむつを脱ぎ捨て、用を足す。
そして暖炉を確かめる。
ただの暖房用暖炉だ。冬以外は特に意味は無い。中を覗き込んでみるが、煙突穴は小さく、脱出には向かない。
改めて窓を調べる。開くようにはなっておらず、硬質ガラスのようで割るのも難しそうだ。
壁を探ってみる。
窓の反対側に当たりを付け、壁を調べてみたところ、隠し扉を見つけた。しかし内側からは開かないようだ。
クローゼットを確かめる。
患者衣とおむつの替えが大量に詰め込まれていた。
ベッドの側の置物台に向かう。
引き出しを開けてみる。大半はタオルや用途の分からない小物だったが、一番上の引き出しに、手鏡が入っていた。
手鏡を覗いてみる。
そこには“ザック・ザ・リッパー”の変わらぬ顔があった。
いや、待てよ? 少し痩せただろうか? そして髭は綺麗に剃られていた。
ザックはベッドに座り、考える。
どうやらここは、天国でも地獄でも無いらしい。
オレは誰かに助けられた。だが、その誰かに閉じ込められてもいるようだ。
ここは牢獄にしては綺麗すぎる。強いてあげるなら、囚われのお姫様を閉じ込める塔に近い。
そしてオレはおむつをされ、髭も剃られている。毎日この部屋を出入りする世話係がいるということだ。
はたして、あれからどれだけ経ったのか。顔の痩せ具合からして1日2日じゃなさそうだが……
さて、どうする?
脱走を図るか? それともオレを助けた誰かと対面するか?
束縛されるのは気に入らないが、逃げる理由が無い。
だが、対面したところで碌な事にならないだろう。このオレを殺し屋と知りながら助けたなら、この先にあるのは殺しの依頼だ。
オレは十分殺した。殺し飽きたし、殺し疲れた。できるならもう、誰も殺したくは無いのだが…。
「ああ、面倒くせぇ! 考えるのは止めだ! 止め!」
そう言うと、ザックはベッドにごろ寝する。
世話係が来れば分かる事だ。それまで寝て待つさ。
……………
………
…
「せんにんごろしさ~ん♪ おむつ交換に来ましたよ~♪ さぁ~、キレイキレイにしましょうね~♪」
突然のハイテンションボイスが、ザックを眠りから強引に呼び戻した。
何事かと身体を起こせば、目前に若い娘がいて、バッチリ目が合ってしまう。
目覚めたザックに驚いた若い娘は、引きつった笑顔のまま固まっていた。
気まずい沈黙に耐えきれず、ザックは娘に声をかける。
「よ、よう…。おはようさん」
すると……
若い娘は「ふう…」と声を漏らし、床に倒れてしまう。どうやら気を失ったようだ。
「おいおいおい! ちょっとお嬢ちゃん? お嬢ちゃんよっ!?」
ザックは慌ててベッドを飛び降り、何度も肩をゆすってみるが、娘は意識を取り戻さない。
放って置く訳にも行かないので、ザックは娘を抱きかかえ、ベッドに寝かせた。
見たところ、15~6歳の若い娘で、ハイテンションボイスに猛烈なウザさを感じたが、気を失っている分にはえらい美人だ。
服装はピンクのエプロンドレス。正確なプロポーションは服で隠れて分かりにくいが、ウエストは細く、乳はでかい。
床に落ちていたナースキャップから察するに、看護婦のようだ。
こんな若い娘に下の世話をされていたのかと思うと、申し訳ない気持ちになる。
それにしても、美人過ぎる看護婦か……。ハニトラ要因だろうか。
せっかくの情報源だ。目覚めるまで待つか? それとも、もう一つの情報源を探るべきだろうか。
ザックは後ろを振り返る。
「さて、激しくトラップ臭いんだが、どうしたものかね」
眠る前には何もなかった白い壁には、隠し扉が大きく開け放たれていた。
目を開くと、見知らぬ天井があった。
周囲に人の気配はない。
温度は適温。暑くもなければ寒くもない。
湿度も特に不快な感じはない。
両手を見る。
覚えのある手だ。色肌も紫ではない。正常な色。
体には毛布が掛けられ、背中は弾力のある柔らかいものに触れている。
ここでようやく、自分がベッドに横たわっているのだと気付く。
上半身を起こしてみる。
着せられているのは、簡単に着せたり脱がせたり出来る、患者衣のようだ。
周囲を見回してみる。
派手な装飾の無い、清潔な白い部屋。
窓と暖炉とドアが、それぞれ一つ確認出来る。
家具も最小限のものしかない。
机と椅子。クローゼット。ベッドの側には、引き出しの付いた小さな物置台があり、洗面器と水差しが置いてある。
ベッドを降りて起き上がってみる。
少しふらついたが、足腰に問題は無い。身体を探るが、何処にも傷は残っていなかった。
しかし股間に違和感を感じたので、患者衣をたくし上げ、確かめる。
「なんだこれ? くそ、おむつかよ……」
まずは窓に近寄り、外を確認する。
窓の外には美しい光景が広がっていた。上半分は青空で、下半分は街並み。街の終わりには巨大な壁があり、その先には森や山脈や湖が見える。どうやら巨大な塔…もしくは城の中にいるようだ。
次にドアに近寄り、開けてみる。
外に繋がっているかと思いきや、備え付けのトイレだった。ひとまずおむつを脱ぎ捨て、用を足す。
そして暖炉を確かめる。
ただの暖房用暖炉だ。冬以外は特に意味は無い。中を覗き込んでみるが、煙突穴は小さく、脱出には向かない。
改めて窓を調べる。開くようにはなっておらず、硬質ガラスのようで割るのも難しそうだ。
壁を探ってみる。
窓の反対側に当たりを付け、壁を調べてみたところ、隠し扉を見つけた。しかし内側からは開かないようだ。
クローゼットを確かめる。
患者衣とおむつの替えが大量に詰め込まれていた。
ベッドの側の置物台に向かう。
引き出しを開けてみる。大半はタオルや用途の分からない小物だったが、一番上の引き出しに、手鏡が入っていた。
手鏡を覗いてみる。
そこには“ザック・ザ・リッパー”の変わらぬ顔があった。
いや、待てよ? 少し痩せただろうか? そして髭は綺麗に剃られていた。
ザックはベッドに座り、考える。
どうやらここは、天国でも地獄でも無いらしい。
オレは誰かに助けられた。だが、その誰かに閉じ込められてもいるようだ。
ここは牢獄にしては綺麗すぎる。強いてあげるなら、囚われのお姫様を閉じ込める塔に近い。
そしてオレはおむつをされ、髭も剃られている。毎日この部屋を出入りする世話係がいるということだ。
はたして、あれからどれだけ経ったのか。顔の痩せ具合からして1日2日じゃなさそうだが……
さて、どうする?
脱走を図るか? それともオレを助けた誰かと対面するか?
束縛されるのは気に入らないが、逃げる理由が無い。
だが、対面したところで碌な事にならないだろう。このオレを殺し屋と知りながら助けたなら、この先にあるのは殺しの依頼だ。
オレは十分殺した。殺し飽きたし、殺し疲れた。できるならもう、誰も殺したくは無いのだが…。
「ああ、面倒くせぇ! 考えるのは止めだ! 止め!」
そう言うと、ザックはベッドにごろ寝する。
世話係が来れば分かる事だ。それまで寝て待つさ。
……………
………
…
「せんにんごろしさ~ん♪ おむつ交換に来ましたよ~♪ さぁ~、キレイキレイにしましょうね~♪」
突然のハイテンションボイスが、ザックを眠りから強引に呼び戻した。
何事かと身体を起こせば、目前に若い娘がいて、バッチリ目が合ってしまう。
目覚めたザックに驚いた若い娘は、引きつった笑顔のまま固まっていた。
気まずい沈黙に耐えきれず、ザックは娘に声をかける。
「よ、よう…。おはようさん」
すると……
若い娘は「ふう…」と声を漏らし、床に倒れてしまう。どうやら気を失ったようだ。
「おいおいおい! ちょっとお嬢ちゃん? お嬢ちゃんよっ!?」
ザックは慌ててベッドを飛び降り、何度も肩をゆすってみるが、娘は意識を取り戻さない。
放って置く訳にも行かないので、ザックは娘を抱きかかえ、ベッドに寝かせた。
見たところ、15~6歳の若い娘で、ハイテンションボイスに猛烈なウザさを感じたが、気を失っている分にはえらい美人だ。
服装はピンクのエプロンドレス。正確なプロポーションは服で隠れて分かりにくいが、ウエストは細く、乳はでかい。
床に落ちていたナースキャップから察するに、看護婦のようだ。
こんな若い娘に下の世話をされていたのかと思うと、申し訳ない気持ちになる。
それにしても、美人過ぎる看護婦か……。ハニトラ要因だろうか。
せっかくの情報源だ。目覚めるまで待つか? それとも、もう一つの情報源を探るべきだろうか。
ザックは後ろを振り返る。
「さて、激しくトラップ臭いんだが、どうしたものかね」
眠る前には何もなかった白い壁には、隠し扉が大きく開け放たれていた。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる