グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第三章

No.028

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 俺の周りには、大勢の人が倒れ込んでいた。
 怪我人は痛みを訴えたり、助けを求めたりしている。動きのない者は重症者か、あるいは――。

 直接の被害を免れた人々も、パニックに陥り、四方八方に逃げまどっていた。
 悲鳴や怒号、サイレンの音がけたたましく響いている。

 混沌とした状況の中、俺はまずメリーナの状態を確認することにした。

「大丈夫だったか?」

 見たところ、メリーナに外傷はない。意識もあるし、俺の言葉にも反応している。
 驚きのあまり表情が固まっているが、それくらいで済んだのなら幸いだ。

「わたしは、なんとも……でもライが……」

 メリーナは俺の身体を見て、深刻そうな表情でつぶやく。ジャケットがボロボロになっていたせいだろう。
 ただ、見た目ほど大したダメージは受けていない。

「ライライ!」
「ボス!」

 すぐにロゼットとジーノが駆け寄ってくる。
 二人は運良く、ほとんど被害を受けなかったようだ。

 俺は立ち上がり、メリーナも抱き起こした。
 するとロゼットが心配そうな顔で尋ねてくる。

「大丈夫なの?」
「俺は問題ない。メリーナも無事なはずだ」

 俺はボロボロのジャケットを脱ぎ捨てながら答えた。

 ふと、魔力の臭いを感じ、車道の方に目を向ける。
 ちょうど、魔法攻撃の爆心地になった辺りだ。

 そこには、原型が残らないほど破壊されたパレード車が転がっている。その周りを走っていた車も、派手に吹っ飛ばされている。

 破壊されたパレード車のすぐ側では、銀色のローブをまとった魔法士たちや、護衛兵たちが大きな輪を作っていた。
 恐らくあの中心に、フィラデル帝がいるはずだ。
 
 ただ、事態は深刻そうだった。
 
 これだけ離れているのに、むせ返りそうなほどの魔力の臭いを感じる。つまり、それだけの回復魔法が使われているのだ。

 恐らくフィラデル帝は重症だろう。下手したら、生死の境をさまよっている。

 いくら不意打ちだったとはいえ、あのフィラデルが瀕死の重傷を負うほどの魔法攻撃か……。

「ジーノ、魔法が放たれる瞬間を見たか?」
「放たれた瞬間は見てないけど、赤い閃光が横切ったのは見えたぜ」
「だったら、犯人がどの辺りにいたのか、わからないか?」
「そうだなぁ……道のこっち側だったのは間違いないけど、たぶんあの辺かな?」

 ジーノは、少し離れたところにある街路樹を指差した。
 当然、その辺りに怪しい人物はいない。倒れ込んだ怪我人と、救助する人間がいるだけだ。

「すでに逃げたか……」

 そうつぶやいた時、ふいに強い魔力の臭いが、俺のすぐ横を通り過ぎっていった。

 振り向くと、全身真っ黒の装いをした、背の低い人物が目につく。
 そいつは、目深に被ったパーカーのフードの隙間から、こっちを窺っていた。

 そして、目が合ったと同時に俺は声をあげる。

「あいつだ! ジーノ!」
「おうよ!」

 ジーノが走り出す。と、黒いパーカーの人物もすぐに逃げ出した。

 俺もすぐに後を追おうとする。
 が、その前にロゼットに指示を出しておく。

「ここはロゼットに任せる。<医療系>の魔法も使っていい。すぐに救助の魔法士も駆けつけるだろうから、そいつらと連携して、負傷者の治療と一般人の避難を最優先に頼む。それと、アイマナに連絡して、GPAの暇な連中を派遣させろ」
「フィラデル帝は?」
「放っておけ。あいつの周りにいるのは、国内最高峰の魔法士たちだ。奴らに救えないなら、誰にも救えない」
「ライライでも?」

 ロゼットに問われ、一瞬の間に様々な思いが胸のうちに湧く。
 だが、俺は首を横に振った。

「それは俺の仕事じゃない」

 今の俺に課せられている任務は、メリーナを大帝王に即位させること。そして彼女が即位した時に、少しでも安全に過ごせるような環境にしておくことだ。

 それならば、大帝王の命を狙う犯人の正体と、動機を突き止めることの方が重要だ。

「ライ……フィラデル様を助けてあげないの?」

 メリーナがすがるような目を向けてくる。
 俺はその問いかけにも、無言で首を横に振る。

 もしかしたら俺の判断は彼女を失望させたかもしれない。
 だが、それでも構わない。これが俺の役目なのだ。

「メリーナはロゼットの側を離れるな。また攻撃があるかもしれないから、単独行動は絶対にしないでくれ」

 俺はメリーナに強く言いつける。
 それからロゼットと無言で頷き合い、走り出した。


 ◆◆◆


 大通りから外れた細い道を走っていくと、程なくしてジーノの姿を見つけた。
 俺はジーノに追いつき、並走しながら尋ねる。

「奴はどこだ?」
「いやぁー、ちょびっと見失ったかも」
「お前な……」
「おおっと、大丈夫大丈夫。この辺りの地理は完璧に頭に入ってるからね。最終的に奴が行き着く先は、お見通しだぜ!」
「本当だろうな?」
「疑うなら、ボスの魔法で空をビューンって飛んで、見つけちまおうぜ」
「もう帝国魔法取締局マトリ出張でばってるはずだ。この状況で魔法なんて使ったら、犯人にされかねないだろ」
「めっちゃ一理あるー。じゃあ、地道においかけっこしーましょ」

 ふざけたことを言いながら、ジーノがスピードを上げる。
 どうやら、本当に目星はついていたらしい。

「あそこ!」

 ふいにジーノが前方を指差す。
 まだ距離はあるが、黒ずくめの人物が見えた。

「逃がすな!」

 俺たちは全力で走る。
 しかし、黒ずくめの人物も負けじと逃げていく。

「ヤバいって! めっちゃはえー! あいつの方がちっちゃいから、こういう狭いところは有利なんだー」

 聞いてもいないことをベラベラと、ジーノは早くも言い訳モードに突入していた。
 とはいえ、実際に厳しいのも事実だ。

 クリスタルプロムナードの裏路地は、まるで迷宮のように入り組んでいる。しかも道は狭く、そこら中にゴミや鉢植え、店の看板なんかが置かれているのだ。
 それを避けながら走るのは、さながら障害物競走のようだった。

「ハァハァ……マジで差が縮まんねぇ!」

 いよいよジーノの呼吸が荒くなってきた。
 こいつのことだ、そろそろ本気で諦めそうな気がする。
 なので、俺はニンジンをぶら下げることにした。

「あいつを捕まえたら、この3ヶ月のことは不問にしてやる」
「マジっすか!? ついでに経費も精算していい?」
「それってギャンブルのだろ?」
「必要経費じゃん!」

 一瞬ぶん殴ろうかなと思ったが、俺は冷静に損得を考え踏みとどまった。

「そうだな……お前が捕まえたら、全部認めてやるよ」
「よっしゃー! マジ、速攻カマすぜー!!」

 ジーノは絶叫すると、さらにスピードを上げた。
 いったい、どこにそんな体力が残っていたのか。逆に今まで手を抜いてたんじゃないかと思うほどだ。

 黒ずくめの人物は、何度も道を曲がり、俺たちを巻こうと試みていた。
 しかし確実に、その距離は詰まっていく。
 そして――。

「よーし、そっちは行き止まりだぜー!」

 黒ずくめの人物が角を曲がった瞬間、ジーノが歓喜の声を上げた。
 そして、わずかに遅れて俺たちも角を曲がる。

 ――しかし、そこに奴の姿は見当たらなかった。
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