グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

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第六章

No.067

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<ニュールミナス市/GPA本部>

 朝日が差し込むオフィスから、俺はビーチの景色を眺めていた。メリーナの誕生日パーティをしたのは、ほんの三日前のことだ。
 あの日は久しぶりに息抜きができた気がする。

 そんなことを考えている時だった。ふいに、鋭い警告音が部屋内に響く。

「なんだ?」

 珍しいなと思いつつ、俺は耳を澄ませる。すると、すぐに内部無線を通じて、GPA職員の事務的な声が聞こえてきた。

『緊急通報。本日未明、サンダーブロンド家の王宮が何者かに襲撃された模様。犯人は逃走。負傷者アリ――』

 その瞬間、メリーナの顔が思い浮かび、俺は走り出そうとした。
 しかし、すぐに無線の続きが流れてくる。

『なお、当主のブルトン・サンダーブロンド、および次期当主のメリーナ・サンダーブロンドの無事は確認済み――』

 その報告を聞き、俺はほっと胸を撫で下ろした。
 強張った全身から力が抜けるのを感じる。

『サンダーブロンド家は臨時の<枢密十三議会>を打診した模様。GPA内でも緊急の対策会議を行うため、課長職以上は全員、すぐに13階会議室に集合するように』

 本部の建物内が一斉に騒がしくなってくる。本来なら、俺も上の会議室に行かないといけないのだが。

「どうするかな……」

 今はあまりGPAが信用できない。できれば情報共有は避けたいところだ。

「ライライ! 聞いた!?」

 突然、ロゼットがオフィスに飛び込んできた。その後ろから、ジーノとアイマナも慌てた様子で入ってくる。

「ああ、聞いたよ」

 俺が落ち着いた態度で答えると、ロゼットは不満げな顔をする。

「はあ? なんでそんなに落ち着いてられるわけ? メリーナちゃんのこと、心配じゃないの?」
「心配だが、とりあえずメリーナの無事は確認できてるはずだ」

 俺は内心の動揺を抑え込み、冷静に答えた。ここで俺まで感情的になれば、チーム全体が判断を誤りかねない。

 そう思っていると、俺の前にアイマナが進み出てくる。

「センパイ、会議に行かなくていいんですか?」
「必要があればな。それよりも……」

 俺は一番後ろにいる、紫髪の男に視線を移した。

「ジーノ、情報収集だ。政府系の機関がこの件を掴んでるか探ってきてくれ。もし漏れてたら、どこから漏れたかも調べろ。恐らくサンダーブロンド家は、襲撃されたことを隠してるはずだからな」
「えっ? 勝手に動いちゃっていいの? GPA全体で対処するんじゃ……」
「会議なんかで決めてたら出遅れる。フィラデルを狙ったテロの時みたいにな」
「そういや、あの時は結局、ボスしか指示出せてなかったらしいっすね。お偉いさんが会議で揉めてて。その辺り、ウチも意外と他の組織と変わらないっていうか……」
「ジーノ、愚痴る暇があるなら早く行け」
「おっと、すんません。じゃあ、国家特別捜査局トクソウあたりを探ってきまーす」

 軽い調子で言うと、ジーノはさっそくオフィスを飛び出していった。
 それと入れ替わるように、オフィスの奥の扉が開く。そしてオレンジ髪の少女が、眠そうな目をこすりながら出てきた。

「うるさいわね……プリ、寝てるわね……」
「寝てる場合じゃないぞ。メリーナの家が襲われたらしい」

 俺がそう伝えると、途端にプリの目が見開かれる。眠気は一気にぶっ飛んだようだ。

「メリちゃん、プリが治してあげるわね!」

 やる気になってくれたのはいいが、プリはいきなり窓から飛び出そうとする。
 俺はパーカーのフードを掴んで止めた。

「待て待て。メリーナは無事だ。これから様子を見に行くから、お前も一緒に来い」
「わかったわね! ライちゃんと一緒に行くのよ!」

 プリが俺の肩に乗っかってくる。
 まあ、これくらいはいいか……。

「ライライ、あたしも一緒に行くわよ」

 ロゼットはすでに準備を整えていた。だが、トンガリ帽子にマントの魔女スタイルはやめてもらいたいものだ。

「戦いに行くわけじゃないんだぞ」
「ヌルいこと言ってんじゃないわよ! メリーナちゃんの家がヤられたのよ? どこのどいつかわからないけど、絶対に後悔させてやるわ!」

 ロゼットはいきなりヒートアップしていた。
 俺は頭を冷やしてもらう意味も込めて、指示をする。

「ロゼットはソウデンを探してきてくれ。見つけたら、サンダーブロンド家で合流だ」
「はあ? なんであたしが? あのヘンタイ野郎がどこにいるかなんて知らないんだけど」

 ロゼットは眉間に山ができるくらいシワを寄せ、睨みつけてくる。ちょくちょくヤンキーの素が漏れているんだが、もう取り繕う余裕もないのか。
 まあ、それだけメリーナを大事に思ってくれてるってことなんだろうが。

「いいから探してこい。この時間なら、シャルトルーズウィング家の騎士団あたりと修練してるはずだ」
「わかってるならライライが行けばいいでしょ!」
「ロゼット」

 俺は声に力を込めた。
 それでロゼットも、少しだけ落ち着きを取り戻してくれる。

「ごめんなさい……今のはあたしが悪かったわ。ライライの指揮系統を乱すつもりはないから。それだけは信じて」
「わかってるよ。メリーナのことで熱くなってたんだろ。お前のそういうところは、俺はむしろありがたく思ってるよ」
「もう、ライライってば……愛してる」
「いいから、早く行け」

 ロゼットは軽い足取りでオフィスを出ていった。

 そして俺の目の前に残ったのは、髪も服も白銀の、儚げな雰囲気の少女だけとなった。
 彼女はどこか拗ねたような顔で、俺をじっと見つめている。

「何か言いたいことでもあるのか、アイマナ」
「マナ、ロゼットさんがセンパイを刺しても、驚かないかもしれません」
「なんの話だよ……」
「マナの部分はどこですか?」
「そうだな……たとえば、13階の会議室で何を話してるのか、教えてくれるところかな」
「センパイってば、そうやってマナを便利な女みたいに扱って……」
「頼むよ。どうせ盗聴してるんだろ?」
「人聞きが悪いですけど、緊急事態なので今回は許してあげます。13階では、いまちょうど概要の説明が終わったところですね。ただ、最初の緊急通報とあまり変わらな――ちょっと待ってください」

 アイマナの表情が真剣味を増す。そして彼女は、首をわずかに傾けながら言葉を続けた。

「襲撃者の目的は、<古代魔法書>だったみたいです」
「古代魔法書だと……? 盗られたのか?」
「正確な情報は不明のようですが、どうやら盗られた可能性が高いらしいです」
「クソっ!」

 思わず悪態が口をついて出てしまう。それくらい最悪の出来事だった。

「センパイ、まずいですよ。古代魔法書の紛失は、それだけで継王つぐおうの強制退位に繋がります」
「だからこんなに早く枢密十三議会を召集したのか……」
「もしブルトン・サンダーブロンドが退位したら、メリーナさんが第三継王になるんですよね?」
「それは既定路線だからいい。問題は、このタイミングで代替わりすることだ」
「理由を隠し通すのは難しいでしょうね……」
「ああ。でも正直に、古代魔法書を盗まれたなんて言ってみろ。サンダーブロンド家に対する民衆の支持は地に落ちる」

 古代魔法書は、魔導兵器を凶悪化させる最大の要因だ。その管理は、十三継王家に課せられた最も重要な義務と言っていい。サンダーブロンド家は、それを怠った。つまり、この国の治安と防衛に、甚大な被害を与えたことになるのだ。

「メリーナさんの大帝王即位にも影響があるでしょうね……」
「それどころか、世間に知られた時点で終わりだ」

 俺は力が抜け、ソファーに座り込んだ。
 肩に乗ったままのプリが、心配そうに頭を撫でてくる。

「ライちゃん、おなか痛いのよ?」
「いや、大丈夫だ……」
「メリちゃんのとこ、行かないわね?」
「行く。行くが、少しだけ考えさせてくれ」

 俺はしばらく考え込んだ。これからどう対処するべきか。
 しかし、具体的な対策は浮かんでこない。
 メリーナを大帝王にするためには、これは絶対に起きてはいけない出来事だったのだ。

 それだけにアイマナも、まだ信じられないといった様子だ。

「十三継王家の王宮に侵入して、古代魔法書を盗み出すなんて、本当に可能なんですか?」
「素人には無理だ。恐らく他の十三継王家が絡んでるんだろうな」
「それなら、証拠を集めて犯人を特定すれば……」
「内戦になる。間違いなくな。大帝王争いの過程で、継王家同士が互いの王宮まで襲撃していたら、もう平和的な解決なんて望めない」
「じゃあ任務は……」
「GPAも内戦を起こしてまで、メリーナの大帝王即位は望まないだろう。だから、もしかしたら……」
「あっ、来ました」

 アイマナがそう告げてから、数秒後。一人の男がオフィスに姿を現した。
 茶色いスーツの紳士然とした初老の男は、いつもの澄ました微笑みを隠し、深刻そうな表情を浮かべていた。
 彼は、俺の直属の上司ということになっているスミス・タイトマン本部長だ。

「キャッチーくん、まずいことになった」
「知ってるよ。会議は終わったのか?」
「抜け出してきたんだ。ある意味、君は来なくて正解だったな。いま、『メリーナ・サンダーブロンド殿下をグランダメリス大帝王に即位させる』任務について、続行の是非が盛んに議論されている」
「サリンジャーはいるのか?」
「長官にはまだ連絡がつかないんだ」
「だったら話すだけ無駄だ。最終決定はあいつがする」
「そうだとしても、勝手にチームを動かすのは控えた方がいい。GPA全体で協調して動くべきだ」

 タイトマンは鋭い目で睨みつけてくる。その視線の奥に潜む感情が読めない。だが、「GPA全体で協調しろ」なんて言う男だったか? いや、この事態ならしかたないのか?
 ……わからない。

……あんたは俺の味方か?」

 俺の問いかけに、彼は目を丸くして驚いていた。しかしすぐに察したらしい。彼は寂しそうに微笑んだ。

。どうやら、私はここまでのようだな」
「すまない。ウチのチームは一時的に離脱する」
「そうするといい。君の仲間と、サリンジャー長官以外は、誰もこのフロアに入れないようにする」
「メリーナも登録しといてくれ」
「ああ、もちろん。他に私にできることはあるか?」

 タイトマンは親身に力になってくれようとしている。これでも長年、苦楽を共にしてきた仲間だ。
 そんな相手でも、まさか信じられなくなる日がくるとはな……。

「必要ない。ただ、俺たちに過度に興味を持つ奴はマークしておいたほうがいい」
「ふぅ……嫌なものだね。この歳になってまで仲間を疑うことになるとは……」

 愚痴か嫌味かわからない言葉を残し、タイトマンは去っていった。
 それからすぐに、俺はアイマナに声をかける。

「じゃあ、俺たちはメリーナの様子を見てくる。アイマナはここでサポートを頼む」
「……センパイ、本当にGPAの内部にスパイがいるんですか? ソウデンさんの話は聞きましたけど、今回の件と関係あるってことですか?」
「まだ何もわからない。ただ、この状況だ。わずかなミスが命取りになる。アイマナも、俺たち以外は誰も信用するな。無線は繋ぎっぱなしにしておくが、このフロアに侵入しようとする者がいたら、すぐに連絡しろ」
「わかりました……」

 アイマナは少しだけ不安そうに頷く。
 すると、俺の肩に乗っていた少女が、心配そうに口を開いた。

「プリ、マナちゃんのそばにいてあげるわね」
「ふふっ、ありがとう、プリちゃん。でもマナは心配ないですよ。センパイにはプリちゃんの能力が必要なので、一緒に行ってあげてください」
「そうなのよ? ライちゃん、プリが必要わね?」

 プリが俺の頭をぺしぺしと叩いてくる。
 俺はされるがまま、アイマナに確認した。

「本当に大丈夫か?」
「センパイ、マナのことはけっこう心配してくれるんですね。嬉しくなってきました」
「まあ、お前は戦闘タイプじゃないからな」
「大丈夫ですよ。こう見えてマナも魔導ロボットマグリカントですからね。いざとなれば、そこら辺の人間なんかには負けません」

 アイマナはそう言って笑って見せる。
 その言葉を信じ、俺はプリを連れてオフィスを後にした。
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