グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜

文字の大きさ
75 / 136
第六章

No.075

しおりを挟む
 まぶたの裏に映ったのは、また同じような狭い部屋だった。
 そこでは黄緑色のコートを着たソウデンが、姿勢よくイスに座っていた。

 ソウデンのいる空間は、前の二人の時とは少し雰囲気が違う。
 対面に座っている女の捜査官からも、緊張した気配が感じられる。

「ソウデン・ミンティーノ様。いい加減に話してくれませんか? できれば、こちらも手荒な真似はしたくないのです」
「したければすればいい。それでも僕は何も話さないがね」

 捜査官の要求を、ソウデンは堂々と拒否していた。
 そのせいで相手は、だいぶ困っているようだった。

「ミンティーノ家といえば、シャルトルーズウィング家に仕える三大貴族の一つです。正直、私もどう対応していいのか、わからないんです」
「シャルトルーズウィング家は他の継王つぐおう家と比べても、貴族家を大事にすることで知られているが、実際その通りだ。僕が訴えを起こせば、すぐにでもシャルトルーズウィング家の人間が飛んでくるだろう。文字通りね」

 ソウデンは権威をフル活用していた。
 こいつはそういう奴だったな。まあ別にいいんだけどさ……。

「ミンティーノ様のおっしゃることはもっともでしょう。しかし、我々の捜査も十三継王家の合意によって行われているのです。どうかご協力を」
「では、試してみようか? 僕と君らの権威。どちらが、より効力を発揮するか」

 ソウデンがそう言うと、捜査官は黙り込んでしまう。
 そして、そのまま部屋から出ていった。

 ……こいつは、わざわざ様子見しなくてもよかったな。


 ◆◆◆


 とりあえず、俺と一緒に捕えられている連中の状況は把握できた。俺の想像通り、このメンバーは心配いらないようだ。

 気がかりなのは、プリとアイマナ、あとはメリーナだな……。

 ただ、あの三人の場合は、<不義理な覗き見サイレントビジョン>を使って様子を見るのが難しい。

 この魔法には条件があるのだ。
 まず一つは、本人と魔法を使うための<契約>を交わしていること。これはチームのメンバーとは交わしてあるが、メリーナとは交わしていない。
 もう一つは、距離だ。せめてこの建物内くらいにはいてくれないと、覗き見することは難しい。

 プリたちが今どこにいるのかは、さすがに俺もわからない。
 無茶なことをしてなけりゃいいが……。

 その時、ふいに部屋のドアが乱暴に開かれた。
 スネイルが休憩を終えたらしい。

「おいおい、寝られると思ってるのか?」

 机に突っ伏していた俺の髪を、奴が思いきり引っ張り上げる。

「ぐっ――」

 頭皮が刺されたような痛みを味わう。髪が全部抜けたかと思ったよ。

 それでも俺は、余裕の笑みを浮かべながら、奴に言ってやる。

「腹へったんだけど」
「このゴミが!」

 そしてまた、俺の頭は机に叩きつけられた。
 そろそろ痛みも感じなくなりそうだ。

「喜べ、ゴミ野郎。尋問はいったん終了だ。私もお前に付き合っていられるほど暇じゃないのでな」
「……帰らせてくれるってことか?」
「くくっ、冗談だろ? お前はしばらく牢に繋ぐ。もちろん、水も食事もやらん。死んだら言ってくれ。その時になったら話を聞いてやる」

 根を上げるのを待つ作戦か。まあ、いい。監視の目が減れば、動きやすくなるからな。

 そんな俺の考えを察したわけでもないのだろうが、スネイルが付け加えてくる。

「言っておくが、何を企もうと無駄だからな。今からお前が入る牢では、魔法は一切使えない」
「<絶魔ぜつまの獄>か……」

 魔法を封じる牢の話を久しぶりに聞いたので、思わずその名前が口をついて出てしまった。

「知っているとは驚きだ。大魔法時代に使っていた特殊な牢なんだがな」

 今よりも遥かに強力な魔法士たちが活躍していた時代、彼らを捕まえておくために使っていた牢だ。
 スネイルの言う通り、そこに入れられたら、さすがに俺でも簡単には抜け出せないだろう。

 一瞬、抵抗しようかとも思った。
 ただ、メリーナの現状がどうなってるのかわからない以上、下手に動くことはできない。

「死ぬなら、できるだけ苦しんで死ねよ、GPAのゴミクズくん」

 最後にスネイルの悪態を聞き、俺は尋問部屋から引っ張り出された。


 ◆◆◆


 帝国魔法取締局本部の地下。どこまでも続くような長い階段を降りたところに、その牢はあった。
 剥き出しの岩壁で作られた空間に鉄柵を取り付けただけの、部屋とも呼べない窮屈な場所。
 俺がそこに閉じ込められ、すでに5日になる。

 食事はもちろん、水すら一度も支給されなかった。
 岩壁の間から、わずかに地下水らしきものが湧いていたので、それを舐めることで、俺はどうにか生き延びている状況だ。

 魔法は使えないので、当然他のメンバーがどうなっているのかわからない。

 それでもアイマナが、必死に捜索してくれているはずだ……。

 淡い希望を持ちながら、俺はどうにか精神を保っていた。
 とはいえ――。

「さすがにしんどい……」

 ここ二日は、様子見の人間すら現れなくなった。
 暗くて狭い牢の中、なんの変化もない状態で閉じ込められているのだ。
 このままだと正気を失いかねない。

 窓もないので、外の様子はわからない。
 ただ、わずかな気温の変化は感じる。そろそろ夜なのだろう。寒さが一段と厳しくなってくる。

 俺は冷たい石の壁に背を預け、目を閉じたまま静かに呼吸をする。
 神経を集中させても、風が流れる音しか聞こえない。

 そんな時間がどれだけ流れただろうか。
 ふいに、どこかで物音が聞こえた気がした。

 俺は目を開け、さらに耳を澄ませる。確かに誰かが近づいてきている。しかも今まで聞いた、ローブを擦る音が混じった足音ではない。

 足取りは軽やかだった。慎重ではあるが、どこか弾むような足音に感じる。
 その音が次第に近づいてきて――。

「ライ、大丈夫?」

 小さな囁き声と共に、ランタンの灯りが彼女の姿を照らし出した。
 
 その瞬間、俺は思わず大声を上げそうになった。
 だが、衝動をぐっと抑え込み、静かに尋ねる。

「メリーナ……何してるんだ……?」
「助けにきたのよ」

 メリーナが微笑む。こんな目の前にいるのに、まだ信じられそうにない。
 だけど、その長い金髪も、すらりと伸びた手足も……愛らしい笑顔も、彼女だということを示している。

「なぜ……?」
「待たせてごめんね。マナちゃんは、すぐにライの場所を特定してたんだけど……警備が厳重で……」
「アイマナも来てるのか? それならプリを寄越せばよかったんだ……」
「プリちゃんは騒いじゃうからって、マナちゃんが……」
「ああ、そうか……」

 何も食べてないせいで、頭が回ってない……。
 身体にも力が入らず、俺はまた石壁に寄りかかった。

 そんな俺の姿に、メリーナはショックを受けているようだった。

「ひどい……こんなことして……。すぐに助けてあげるからね」
「どうやって牢から出すつもりだ?」
「鍵、マナちゃんが用意してくれたから」
「あいつ、すごいな……」

 この牢の情報なんて、ほぼ出回ってないはずだ。それなのに、合鍵なんてどうやって作ったんだか……。

「牢の鍵を管理してる人を見つけてね。その人を誘き出して、プリちゃんが気絶させて、その間に合鍵を作ったのよ」

 わりと力ずくだった。まあ、変に策を練るよりは早いか。
 ただ、そうなると発覚するのは時間の問題だな。

「急いだほうがいい……」
「うん。マナちゃんもそう言ってた。チャンスは一度だけだって」

 そう言うと、メリーナは牢の鍵をカチャカチャとやり出す。でも焦っているのか、鍵穴が古いせいか、少し苦戦しているようだ。

 俺は気が紛れるかと思い、彼女に話しかける。

「ここに来るまでに……誰かに会ったか?」
「ううん。だけど、マナちゃんからの伝言で、ロゼットさんたちはすぐに脱出できるから心配いらないって」

 ということは、他の連中は<絶魔ぜつまの獄>に入れられなかったのか。

「よかったよ……」

 俺は安心してつぶやく。
 すると、メリーナが眉間にシワを寄せて言う。

「よくないわ。ライがこんな目に遭って……」
「俺のことはいい……。それよりメリーナは大丈夫だったか?」
「うん。いろいろあったけど……って、詳しい話は後よ。とりあえずわたしは、なんともないから」
「そうか……それならいい……」

 だんだんと、自分でもわかるくらい声が弱まっていた。

 その時、カチリという小さな音が聞こえ、メリーナが小さな歓声をあげる。

「やった……!」
 
 牢の鉄格子が開き、メリーナが中に入ってくる。
 そしてそのまま、俺に抱きついてきた。

 ふわりとした温もりと、清潔な潮風の香りに全身が包まれる。
 力が少しずつ戻ってくるのも感じていた。
 
 俺は立ちあがろうとするが、メリーナは動こうとしない。
 どうやら彼女は泣いているようだった。

「ライ……ごめんなさい……」
「なんで謝る……」
「わたしのせいで……こんな……」
「馬鹿だな……」

 それ以上は言葉が出てこなかった。
 代わりに俺は、彼女の柔らかな髪をそっと撫でてやった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する

鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。 突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。 しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。 魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。 英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...