出会いは突然に〜愛人の行方〜

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3.新しい上司

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「えっ、もう朝?」



驚いて飛び起きると、隣で寝ていた本田があくびをしながらぼそりと言った。



「今日は仕事を休んだらどうだ?」



「そんなわけにはいきません!」



私は本田の腕をかわして、急いで支度を始めた。









本田は不満そうな顔をしていたが、無理に引き止めようとはしなかった。



腕時計をはめながら時刻を確認し、スマホでバスの時刻表を調べた瞬間、寝過ごしてしまったことに気づく。



「……え⁉ 急がなきゃ!」



慌てて駆け出そうとしたその時、本田が声を上げた。



「ちょっと待て!」



振り返ると、本田が何かを投げてよこす。



「鍵! 渡してなかっただろ。オートロックだから気をつけろよ」



「あっ、鍵のことすっかり忘れてた! 行ってきます!」



本田の返事を待つことなく、私は大急ぎで部屋を飛び出した。



こんなに寝坊したことは、今まで一度もなかったのに!









ローヒールの靴音を響かせながら、通勤路を全力で駆け抜ける。



「おはようございます……!」



息を切らしながら挨拶をしつつ、腕時計で時刻を確認する。



どうにか始業時間に間に合い、ホッとしたのも束の間、同僚の由紀子先輩がにこにこしながら近づいてきた。



「おはよう、今日はいつもより遅かったね! どうしたの?」



先輩、ほんとに目ざといんだから。



私は苦笑を浮かべながら答えた。



「寝坊しちゃって」



「めずらしいね。夜更かしでもしたの?」



「うーん、まぁ、そんなところです」



「私も昨日テレビ見てたら、つい夜更かししちゃってさ~」



由紀子先輩は、昨日見たというテレビ番組の話を楽しそうに始める。



適当に頷いていると、突然「あっ!」と手を叩いた。



「そうそう! 今日から幹部候補が来るらしいわよ!」



「え? うちの部署にですか?」



幹部候補? 資料課に?



私たちの部署は、兼務している部長がいるけれど、ほとんど顔を出さない。



「そう、新しく入る若手なんだって。しかも、部長クラスのポジションに就くことが、既に決まってるらしいわよ!」



「それって、もしかして、コネ……とか?」



「そうかもって噂! それにね、超イケメンなんだって!」



イケメンのコネ入社……ろくな人じゃなさそう。



私は心の中でため息をつくと、次々と話題が変わる由紀子先輩の話に耳を傾けた。









そのとき、後ろのドアが開く音が聞こえた。



振り返ると、兼務している部長が現れ、その後ろから背の高い男性が姿を現した。



なんで……?



「おはよう」



思わず叫びそうになるのをぐっと堪え、唾と一緒に飲み込んだ。



――さっきまで一緒にいたあいつが、部長の後ろにいた。



目が合ったけれど、彼は驚いた様子もなく、飄々とした態度を崩さない。



もしかして、私がこの部署にいることを知った上でここに来たの?



職場まで押しかけて、いったい何が目的なのよ……!



「え、めちゃくちゃイケメン……」



そんな私の事情を知る由もない由紀子先輩は、感嘆の声を上げながら口元に手を当てた。



「もしかして、あの人が幹部候補?」



私の頭を一瞬よぎった可能性を、由紀子先輩があっさりと言葉にしてしまう。嫌な予感しかしない。



「今日から資料課の幹部候補に就任する本田晃くんだ。本田くん、後は頼む」



部長の紹介で、その可能性はあっさりと現実になった。



彼が『コネ』と噂されていた人だというのは間違いない。



でも、その場の空気を一瞬で支配するオーラが、そんな噂を軽々と吹き飛ばしてしまう。



「本田だ。後ほど個別面談を行う。呼ばれたら会議室に来てほしい」



「あ、あの、何のために……?」



「各自が能力に応じて適切に業務を進められるようにするためだ」



淡々とした説明に、私はただ呆然とするしかなかった。



この男が上司なんて、いったいどうなってるの……。









やがて、私の番がやってきた。



会議室に入ると、彼が静かに口を開いた。



「職場で顔を合わせることになるとは思わなかった」



「……そう言うってことは、これは仕組んだことじゃないってこと?」



「俺なら仕組むこともできたが、今回はただの偶然だ」



さらっと凄いことを言うな、この人。



突っ込みどころが満載だが、本田は時間が押しているのを確かめるなり雑談を切り上げると、すぐにただの上司に戻り、部下の私と面談を始めた。



愛人だの俺の物だの好きなように言っていた本田が、いま目の前で真剣に業務の話をしている。



その姿を見て、少しだけ格好いいかもと思ってしまったのは、ここだけの話だ。
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