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第二章〜星の記憶、ひとしずく〜
⑤
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王宮謁見の間。
大理石に反響する足音が、深く、ゆっくりと響いていた。
天井には星の神を象った天蓋が広がり、窓から差し込む光が床に星座の影を描いている。
その中央――玉座の前に、ルイ・オースティンが進み出た。
白い外套の裾が静かに揺れ、彼の足取りに一切の迷いはない。
後ろには、ジェイドが控えていた。
ふだんの快活な姿は影を潜め、王の前ではきちんと姿勢を正している。
どこか緊張した面持ちで、それでも真っ直ぐルイの背中を見つめていた。
玉座に座すのは、ミーティアス王国国王。
堂々とした風格の中に、星読みの王家らしい冷静な眼差しが光る。
「宮廷魔術師、ルイ・オースティンよ」
「は」
「王命をもって汝に命ずる。北方のバレ村に、災厄が現れたとの報あり。地に伏す者多数、龍種と見られるが詳細は不明。汝、その地に赴き、これを討伐せよ」
謁見の間に静けさが満ちる。
ルイはひざを折り、頭を垂れた。
「御意」
王はゆっくりと立ち上がり、歩み寄ることはなく、それでも十分な威厳をもって言葉を続ける。
「災厄は近年頻発している。これはただの龍ではあるまい。星々の流れが乱れていること、汝も感じていよう」
「……はい。兆しは見えております」
「星が汝の道を照らさんことを。……行ってよい」
「謹んで拝命いたします」
ルイが立ち上がり、静かに一礼すると、その背後でジェイドも慌てて動いた。
同じように膝を折り、頭を下げる。
その動作にはまだ慣れなさと、どこかぎこちない忠誠の気配があった。
(……いつもなら何か言うのに)
ルイは小さく目を伏せ、背後に気配だけを感じ取る。
ジェイドが沈黙している。
それだけで、この空間の重みが彼にも届いていることがわかる。
(静かにしていてくれて、助かる。けれど……)
ふと、胸の奥に淡い不安がよぎった。
これから向かうのは、“ただの災厄”ではないかもしれない場所。
龍とひと口に言っても、その力の幅は広い。
何より、星の流れが乱れているというのなら――
――『ありがとう、きみに会えてよかった』
一抹の予感が、背筋をすうっと冷やした。
だがそれを表に出すことなく、ルイはただ静かに踵を返し、玉座から離れていった。
その背後に、きちんと足音をそろえてついてくる者がいる。
何も知らず、何も疑わず、
ただ“先生”を信じて、まっすぐについてくる青年の気配が。
「……ジェイド」
「うん?」
「……大丈夫だよ」
「なにが?」
(大丈夫……俺が、きみを『星の子』の運命から守ってあげる)
大理石に反響する足音が、深く、ゆっくりと響いていた。
天井には星の神を象った天蓋が広がり、窓から差し込む光が床に星座の影を描いている。
その中央――玉座の前に、ルイ・オースティンが進み出た。
白い外套の裾が静かに揺れ、彼の足取りに一切の迷いはない。
後ろには、ジェイドが控えていた。
ふだんの快活な姿は影を潜め、王の前ではきちんと姿勢を正している。
どこか緊張した面持ちで、それでも真っ直ぐルイの背中を見つめていた。
玉座に座すのは、ミーティアス王国国王。
堂々とした風格の中に、星読みの王家らしい冷静な眼差しが光る。
「宮廷魔術師、ルイ・オースティンよ」
「は」
「王命をもって汝に命ずる。北方のバレ村に、災厄が現れたとの報あり。地に伏す者多数、龍種と見られるが詳細は不明。汝、その地に赴き、これを討伐せよ」
謁見の間に静けさが満ちる。
ルイはひざを折り、頭を垂れた。
「御意」
王はゆっくりと立ち上がり、歩み寄ることはなく、それでも十分な威厳をもって言葉を続ける。
「災厄は近年頻発している。これはただの龍ではあるまい。星々の流れが乱れていること、汝も感じていよう」
「……はい。兆しは見えております」
「星が汝の道を照らさんことを。……行ってよい」
「謹んで拝命いたします」
ルイが立ち上がり、静かに一礼すると、その背後でジェイドも慌てて動いた。
同じように膝を折り、頭を下げる。
その動作にはまだ慣れなさと、どこかぎこちない忠誠の気配があった。
(……いつもなら何か言うのに)
ルイは小さく目を伏せ、背後に気配だけを感じ取る。
ジェイドが沈黙している。
それだけで、この空間の重みが彼にも届いていることがわかる。
(静かにしていてくれて、助かる。けれど……)
ふと、胸の奥に淡い不安がよぎった。
これから向かうのは、“ただの災厄”ではないかもしれない場所。
龍とひと口に言っても、その力の幅は広い。
何より、星の流れが乱れているというのなら――
――『ありがとう、きみに会えてよかった』
一抹の予感が、背筋をすうっと冷やした。
だがそれを表に出すことなく、ルイはただ静かに踵を返し、玉座から離れていった。
その背後に、きちんと足音をそろえてついてくる者がいる。
何も知らず、何も疑わず、
ただ“先生”を信じて、まっすぐについてくる青年の気配が。
「……ジェイド」
「うん?」
「……大丈夫だよ」
「なにが?」
(大丈夫……俺が、きみを『星の子』の運命から守ってあげる)
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