魔法使いの先生~あの師弟、恋人ってウワサです!~

もにもに子

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第二章〜星の記憶、ひとしずく〜

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セレナの手を引きながら、ジェイドは夜の山道を駆けていた。
ルイはその後ろを静かに、けれど確実な足取りで追う。

「もうすぐだ、あのご夫婦のところへ……!」

ジェイドの声に、セレナが頷いた。
涙で濡れた瞳が、ようやく安堵を含みはじめたその時だった。

――道の先から、複数の松明の灯りが見えた。

「っ……あれ……村人?」

次の瞬間、怒声が夜を裂いた。

「その子を離せッ!」

「龍の怒りを買う気か! なんてことを……!」

松明をかざし、手には鍬や鎌を持った村人たち。十数名が一斉に、こちらへと走ってくる。

「っ、まって、違うの! この人たちは私を――」

セレナが叫ぼうとしたが、その声は届かない。
村人たちの目は恐怖と怒りに満ち、理性を失っていた。

「罰当たりが! 龍を怒らせるつもりか!」

「龍が降りてきたら、村ごと滅びるぞ……!」

ジェイドは咄嗟にセレナを庇い、前に出た。
しかし、武器を構える村人を前にしては、さすがに言葉が届く余地はない。

「……先生、どうしよう。俺、手を出したくないけど……」

「もう、面倒だな」

そう呟いたルイは、ひとつ深く息を吸うと静かに右手を掲げた。

指先に淡く光が集まり、花のようにやわらかく睡蓮の輪郭を描く。

「すこし、夢でも見てもらおうか……」

その声はとても穏やかで、怒りも苛立ちもなかった。
ただ、うんざりした教師が子どもたちをなだめるような、そんな響き。

だが――その魔力が空気を揺らすよりも早く、世界が震えた。

――ゴォオオオ……オオォ……

空が、唸った。
風が凍りつき、夜の色が軋んだ。

「……っ、あれ……なに……?」

誰かが、そう呟いた。

次の瞬間、空を裂いて、それは降りてきた。

巨大な影が月を隠し、金属のような鱗が月光を跳ね返す。
その目は血のように赤く、咆哮ひとつで山を揺らす――

龍だった。

ルイの指先から、魔力の光がすっと消える。

「……うわ、でた」

ジェイドが一歩、セレナを背にかばうように後退した。

村人たちもようやく沈黙したが、それは恐怖によるものだった。
声すら忘れ、ただ呆然と、空から降り立ったその“災厄”を見上げている。
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