シェアハウスの片隅で~無口な同居人と恋をしてみた~

もにもに子

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それから一週間ほど経った。
空は朝から重く垂れ込み、昼過ぎにはとうとう雨が降り出した。
窓を叩く細かな音を聞くだけで、悠人の胸は落ち着かなくなる。
あの日以来、雨は篤を思い出す合図になってしまった。

仕事を終えて駅を出ると、冷たい風と一緒に雨粒が頬に触れる。
今日は折りたたみ傘を持っていたが、駅前でふと足が止まった。
あの日と同じ場所――屋根の下に、立ち尽くす背の高い影があった。

篤だった。
傘を差さず、じっと雨を眺めている。
声をかけると、彼はゆっくりこちらを向いた。

「……ス。」
「どうも。またここで会いましたね」

軽い調子で言うと、少しの間だけ間が空いた。

「……そ、すね」

「一緒に帰っていい?」

「……まあ」

その言葉には拒絶の響きはなく、むしろ曖昧な同意のように聞こえた。

並んで歩き始める。
悠人は傘を篤の方に傾ける。
篤が「濡れる」と言わずとも、肩が触れる距離にいたいと自然に思っていた。

「この前の傘、助かりました。」

「……うん」

「篤さんって、雨が好きなんですか」

質問に、彼は少しだけ視線を上げた。

「……人が少ないから」

それだけ。
けれど、その一言に篤の生活の輪郭がわずかに見えた気がした。

道端の自販機の明かりが雨に滲み、濡れたアスファルトが鈍く光る。
足音は水をはね、規則正しいリズムを刻んだ。
悠人は、黙ったまま歩く篤の横顔を盗み見る。
長い睫毛の下に落ちる影が、雨の夜にやけに似合っていた。

途中のコンビニで篤が足を止める。

「ここ寄るから、また」

「あ、俺も行く」

「……」

入店すると雨音は遠くなり、蛍光灯の白い光が二人を包む。
篤はまっすぐにレジに向かい、ホットコーヒーを頼む。
悠人はピザまんを頼んだ。

コーヒーマシンでコーヒーを作っている篤の隣に、悠人は立つ。

「コンビニのコーヒーってクオリティ高いよね」

「……まあ」

「よくコーヒー飲むんだ?」

「……温かいから」

短い答え。
けれど、その小さな理由が妙に愛おしく感じられた。

再び傘の下に戻る。
篤がカップを持つ手から、ほのかな湯気が立ちのぼる。
コーヒーの香りが鼻をかすめた。

シェアハウスの明かりが見える頃、篤がふいに口を開いた。

「……夜なら、晴れていても外にでることがある」

「夜行性?」

「まあ、そんなところ」

そう返すと、彼はほんの少しだけ唇の端を上げた。

玄関に着くと、篤は軽く傘を振って雨を払う。

「……また」

短い一言を残して階段を上がっていく背中を、悠人はしばらく見送った。

雨の日は、もうただの天気ではなかった。
彼と肩を並べる理由であり、同じ傘の下に入るための口実だった。
次は、どんな会話ができるだろうか――そんなことを考えながら、悠人はゆっくりと自分の部屋へ向かった。
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