シェアハウスの片隅で~無口な同居人と恋をしてみた~

もにもに子

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夜。
シェアハウスの灯りが一つ、また一つと消えていくなか、悠人は自室のベッドに横になっていた。
窓の外には月が浮かび、淡い光がカーテンの隙間から忍び込んでいる。
静かなはずの夜なのに、胸の鼓動がやけに大きく響いて落ち着かない。

「……寝れない」

小さく呟く。
目を閉じればすぐに、あの夕方の光景が蘇る。

ソファで目を覚ましたときの篤の姿。
いたずらっぽく浮かべた笑み。
「寝顔がおもしろい」と、わずかにからかうような声。
そして、自分の体にそっと掛けられていた毛布。

思い出すたびに胸が熱くなる。
毛布の温もりはもう消えているはずなのに、今でも肌に残っているような気がしてならない。
篤が無言で、けれど気遣うように毛布を掛けてくれた瞬間。
それは、彼の不器用な優しさそのものだった。

――なんでこんなに気持ちになるんだろう。

友人として嬉しいから?

いや、それだけじゃない。
翔や祐介に同じことをされても、きっとここまで心臓は騒がない。

篤だから。
篤に触れられたから。
篤に笑われたから。

そう気づいた瞬間、頬が熱を帯びる。
枕に顔を埋めても、心臓の高鳴りは収まらなかった。

――一緒にいると楽しいかもしれない

昼間、散歩の途中で篤が言った言葉が、また頭に響く。
あのときも胸が跳ねたけれど、今になって余計に意味を持って迫ってくる。
自分と一緒にいると楽しい、と。
それは篤が素直に心を開いてくれた証拠だった。

――もしかして、特別に思われているんだろうか。

そんな考えが浮かんでしまい、慌てて首を振る。
期待するのは早い。
けれど、もしそうなら……。
もし自分も同じ気持ちなら……。

胸の奥に芽生えた思いを直視するのが怖かった。
けれど、それはもう確かに心の中にあった。
「きゅん」と鳴るような感覚。
篤と過ごすたびに強まっていく鼓動。

深夜の静けさの中で、悠人は自分の心と向き合わざるを得なかった。

――俺は、篤さんのことが。

そこまで考えたとき、廊下を誰かが歩く音がした。
ぎし、と床板が鳴る。
悠人は思わず息を潜める。
足音は自室の前からゆっくりと遠ざかっていった。

篤の足音だ、と直感で分かった。
なぜか胸がさらに高鳴る。

窓の外にはまだ月が輝いている。
眠れないまま、悠人は毛布を胸元まで引き寄せた。
篤が掛けてくれた夕方の毛布の温もりを、もう一度感じたくて。
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