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後日談④
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シャワーを浴び終えたあとも、悠人の心臓は落ち着くことを知らなかった。
浴室から出た瞬間から部屋の空気はどこか甘く湿っていて、全身を包み込む。
拭いたばかりの髪が首筋に貼りつき、やけに敏感になった肌が自分の緊張を際立たせる。
ベッドの縁には、篤が腰掛けていた。
乱れひとつない仕草でタオルを畳んで脇に置き、悠人のほうをちらりと見上げる。
その視線だけで、また胸が跳ねた。
「……座って」
低く抑えた声。けれどどこかやさしい。
悠人はこくりとうなずき、隣に腰を下ろした。
ベッドがきしみ、小さく沈む。
距離は手を伸ばせば触れ合うほどに近い。
だが、その近さが途方もなく遠く感じられた。
背筋はこわばり、指先はぎゅっとシーツを握りしめる。
その様子に気づいたのか、篤がふっと笑う。
「緊張しすぎ」
「……あたりまえでしょ」
声が震えていた。
恥ずかしさをごまかすように顔を背けたとき、篤の手がそっと頬を包んだ。
温かい掌が触れた瞬間、呼吸が止まる。
篤の指先が耳の裏をかすめ、くすぐったさに身じろぎした。
そのまま顔が近づいてくる。
ふたりの視線が重なり合い、やがて唇が触れた。
やさしい口づけだった。
浅く、何度も確かめるように重ねられる。
それだけで胸の奥が痺れるように甘く、息が苦しくなっていく。
悠人はただ受け入れることしかできなかった。
唇の柔らかさにとろけそうになりながら、ぎこちなく目を閉じる。
篤の吐息が重なるたびに、全身が熱を帯びていく。
唇が離れても、すぐにまた重ねられる。
その繰り返しの中で、少しずつ緊張が溶かされていった。
けれど――次の瞬間。
篤はゆっくりと悠人の肩を押し、ベッドに仰向けにさせた。
「……っ」
驚きに声が漏れる。
目の前に広がるのは、覆いかぶさる篤の影。
至近距離から見下ろされ、心臓が暴れ出す。
再び唇が重なった。
今度はさっきよりも深く、強く。
押し寄せる熱に息が詰まる。
そして――篤の舌が、ゆっくりと悠人の唇を押し広げた。
「……っ!?」
思わず目を見開く。
舌が触れるなんて、初めての感覚。
熱く濡れた感触が唇の内側をなぞり、心臓の奥まで震わせた。
「……力抜け」
囁きとともに、篤は悠人の顎を支える。
逃げ場をなくされ、悠人は必死に息を吸った。
戸惑いながらも、恐る恐る舌を差し出す。
その瞬間、篤がわずかに笑い、絡めとった。
「……っ……」
びくんと身体が震える。
舌同士が触れ合い、ぬるりと擦れ合う。
知らない感触に驚きながらも、次第にそれは甘い痺れに変わっていった。
篤は急かすことなく、ゆっくりと悠人を導いた。
舌を絡め、放し、また触れ合わせる。
粘膜の摩擦音が静かな部屋に響き、耳まで熱くなる。
唇の端からかすかな水音が洩れるたび、悠人はどうしていいかわからなくなった。
けれど、不思議と嫌ではない。
むしろ、もっと深く触れ合いたいとさえ思ってしまう。
篤の吐息が頬を撫で、唇が甘く吸いつく。
悠人は目を閉じ、舌をたどたどしく動かす。
その拙ささえも篤は受け止め、優しく絡め返した。
「……悠人」
低く囁かれる名前に、胸が震える。
唇の奥で舌が重なり合い、互いの体温が混ざっていく。
世界は狭まり、ベッドの上だけになった。
時間さえも止まったかのように、ふたりはただ夢中で唇を貪り合う。
やがて、深く絡み合った舌がわずかに離れる。
濡れた糸がきらりと光り、悠人は恥ずかしさに息を詰めた。
篤はそんな悠人の姿を見下ろし、やわらかく微笑んだ。
その微笑みに、胸の奥が甘く震える。
まだ息を整えることもできないまま、悠人はただ篤の瞳に吸い込まれていった。
夜の静寂のなか、重なる鼓動と熱だけが、すべてを語っていた。
浴室から出た瞬間から部屋の空気はどこか甘く湿っていて、全身を包み込む。
拭いたばかりの髪が首筋に貼りつき、やけに敏感になった肌が自分の緊張を際立たせる。
ベッドの縁には、篤が腰掛けていた。
乱れひとつない仕草でタオルを畳んで脇に置き、悠人のほうをちらりと見上げる。
その視線だけで、また胸が跳ねた。
「……座って」
低く抑えた声。けれどどこかやさしい。
悠人はこくりとうなずき、隣に腰を下ろした。
ベッドがきしみ、小さく沈む。
距離は手を伸ばせば触れ合うほどに近い。
だが、その近さが途方もなく遠く感じられた。
背筋はこわばり、指先はぎゅっとシーツを握りしめる。
その様子に気づいたのか、篤がふっと笑う。
「緊張しすぎ」
「……あたりまえでしょ」
声が震えていた。
恥ずかしさをごまかすように顔を背けたとき、篤の手がそっと頬を包んだ。
温かい掌が触れた瞬間、呼吸が止まる。
篤の指先が耳の裏をかすめ、くすぐったさに身じろぎした。
そのまま顔が近づいてくる。
ふたりの視線が重なり合い、やがて唇が触れた。
やさしい口づけだった。
浅く、何度も確かめるように重ねられる。
それだけで胸の奥が痺れるように甘く、息が苦しくなっていく。
悠人はただ受け入れることしかできなかった。
唇の柔らかさにとろけそうになりながら、ぎこちなく目を閉じる。
篤の吐息が重なるたびに、全身が熱を帯びていく。
唇が離れても、すぐにまた重ねられる。
その繰り返しの中で、少しずつ緊張が溶かされていった。
けれど――次の瞬間。
篤はゆっくりと悠人の肩を押し、ベッドに仰向けにさせた。
「……っ」
驚きに声が漏れる。
目の前に広がるのは、覆いかぶさる篤の影。
至近距離から見下ろされ、心臓が暴れ出す。
再び唇が重なった。
今度はさっきよりも深く、強く。
押し寄せる熱に息が詰まる。
そして――篤の舌が、ゆっくりと悠人の唇を押し広げた。
「……っ!?」
思わず目を見開く。
舌が触れるなんて、初めての感覚。
熱く濡れた感触が唇の内側をなぞり、心臓の奥まで震わせた。
「……力抜け」
囁きとともに、篤は悠人の顎を支える。
逃げ場をなくされ、悠人は必死に息を吸った。
戸惑いながらも、恐る恐る舌を差し出す。
その瞬間、篤がわずかに笑い、絡めとった。
「……っ……」
びくんと身体が震える。
舌同士が触れ合い、ぬるりと擦れ合う。
知らない感触に驚きながらも、次第にそれは甘い痺れに変わっていった。
篤は急かすことなく、ゆっくりと悠人を導いた。
舌を絡め、放し、また触れ合わせる。
粘膜の摩擦音が静かな部屋に響き、耳まで熱くなる。
唇の端からかすかな水音が洩れるたび、悠人はどうしていいかわからなくなった。
けれど、不思議と嫌ではない。
むしろ、もっと深く触れ合いたいとさえ思ってしまう。
篤の吐息が頬を撫で、唇が甘く吸いつく。
悠人は目を閉じ、舌をたどたどしく動かす。
その拙ささえも篤は受け止め、優しく絡め返した。
「……悠人」
低く囁かれる名前に、胸が震える。
唇の奥で舌が重なり合い、互いの体温が混ざっていく。
世界は狭まり、ベッドの上だけになった。
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やがて、深く絡み合った舌がわずかに離れる。
濡れた糸がきらりと光り、悠人は恥ずかしさに息を詰めた。
篤はそんな悠人の姿を見下ろし、やわらかく微笑んだ。
その微笑みに、胸の奥が甘く震える。
まだ息を整えることもできないまま、悠人はただ篤の瞳に吸い込まれていった。
夜の静寂のなか、重なる鼓動と熱だけが、すべてを語っていた。
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